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筋トレブームの裏で広がる危険な「自己治療」 ステロイド副作用を抑える目的で違法薬が流通、ポーランドの研究が警鐘

カレンダー2025.12.14 フォルダー最新研究
ステロイドをやめた後のホルモンの乱れを治すために治療が行われている。写真は「ポストサイクルセラピー(PCT)」に使用される薬剤の例。(出典/Front Chem. 2025 Mar 19;13:1536858.)

ステロイドをやめた後のホルモンの乱れを治すために治療が行われている。写真は「ポストサイクルセラピー(PCT)」に使用される薬剤の例。(出典/Front Chem. 2025 Mar 19;13:1536858.)

 筋トレやボディメイクの人気が世界的に高まる中、その裏側で医療関連のリスクが広がっている。

 筋肉増強を目的に使用された「アナボリックステロイド」の副作用を抑えるため、医師の管理を受けずに違法な薬を自己使用する行為が行われている実態が示された。

 2025年3月にポーランドの研究チームが報告した。

筋肉増強後「自己流のホルモン回復治療」

日本でも警告が出されている。(出典/スポーツ庁)

日本でも警告が出されている。(出典/スポーツ庁)

  • 筋肉増強目的のAAS乱用が背景に → アナボリック・アンドロゲンステロイド(AAS)はタンパク質合成を促進し筋肉を増やす作用があるが、本来の医療目的外使用は違法で危険。
  • 使用中止後にホルモンバランスが崩壊 → 男性ホルモン低下により、性機能障害・抑うつ・不妊などの副作用が生じるケースが報告されている。
  • 自己流の「ポストサイクルセラピー(PCT)」が横行 → 女性ホルモンに関連した医療用医薬品を医師の管理なしで使用。

 論文によると、背景には筋肉増強目的でステロイドが使用されていることがある。

 筋肉量やパフォーマンスを向上させるために、「アナボリック・アンドロゲンステロイド(AAS)」と呼ばれる薬剤が使用されている。これはステロイドの一種で、「アナボリック」とは「同化」を意味し、簡単に言えば、分解と逆の現象をいう(異化の逆)。

 体内でタンパク質の合成が進み、筋肉量を増やす効果があるとされる。

 こうしたステロイドの使用は本来の薬の使用目的とは言えず、日本のスポーツ庁はアナボリックステロイドを含め「医薬品のスポーツ転用は絶対に許されない!」として警告を発している。

 にもかかわらず筋肉増強剤として利用されることがあるが、さまざまな副作用が存在している。そうした中で、薬を中止した後に、体内のホルモンバランスが大きく崩れることがある。それは男性ホルモンの分泌低下により、性機能障害や抑うつ、不妊といった問題が起きるというもの。

 今回の研究によると、こうした状態を回復させるため、一部の利用者は「ポストサイクルセラピー(PCT)」と呼ばれる自己流の治療を行っているという。

 使用されるのは、乳がん治療などに使われるタモキシフェンや不妊治療に使われるクロミフェンなど、女性ホルモンに関連した薬が多いと見られる。本来は医師の診断と処方が必要な医療用の医薬品だという。

 研究チームは2020年から2024年にかけて警察などが押収した薬剤を分析しており、PCTのために使われた薬で、表示と一致しない、または未申告成分を含む製品を約4割に確認した。見た目は正規品なのに、実態は品質が保証されない違法、偽造品だったものがある。

韓国の違法薬問題と重なる構図

薬が違法に横流しされていた。(出典/韓国食品医薬品安全処)

薬が違法に横流しされていた。(出典/韓国食品医薬品安全処)

  • 韓国でも無許可ステロイド関連薬を摘発 → 2025年11月、グルタチオン注射薬や抗ホルモン薬が副作用抑制目的で違法流通していたことを政府が確認。
  • 医師の管理を離れた薬使用が常態化 → 美容・ボディメイク目的の流行の裏で、自己判断による危険な薬物利用が拡大している。
  • 筋トレ・美容志向と違法薬使用のギャップ → 健康的なイメージの陰で、偽造薬・副作用・後遺症のリスクが潜むことを認識する必要性がある。

 この構図は、ヒフコNEWSが伝えた韓国の事例とも重なる。

 韓国では、無許可ステロイドの副作用を抑えるため、グルタチオン注射薬や抗ホルモン薬が違法に流通していたことが明らかになった。政府機関が2025年11月に摘発した。

 美容や体づくりを目的とした流行の裏で、医師の管理を離れた薬の使用が常態化している点は共通する。ポーランドの研究によれば、別の薬が混入しているなど、危険な状況である可能性もある。

 筋トレやボディメイクは健康的なイメージを持たれやすいが、その陰で、違法薬や偽造医薬品に依存した危険な医療行為が行われている現実があるようだ。日本ではステロイドの後遺症などがあまり表に出てこないかもしれないが、筋トレに関心を持つ人たちなどはそのような違法品を使う状況に至らないよう気を付けておいた方がよいだろう。

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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