
警告。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)
美容医療は韓国をはじめ世界各国で広く行われているが、合併症や死亡に関する体系的な統計は限られている。
こうした中、韓国国立科学捜査研究院(National Forensic Service)の研究者らが2025年11月、美容医療中または直後に死亡した症例を法医学的に分析した論文を発表した。
最多は麻酔関連死だった。
法医学解剖50例を分析、6割はソウル

美容医療で起きた死亡事例の実態とは。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 調査対象 → 2016〜2024年に韓国で美容医療関連死として法医学解剖が行われた50例を分析。手術だけでなく、フィラー注入やレーザー治療などの低侵襲施術も含まれる。
- 患者背景 → 死亡例の約8割が女性で、20〜40代が中心。若年層が多いのは、美容医療の主要な受診層を反映した結果と考えられる。
- 施術内容と部位 → 顔・首の美容施術が最多で、次いで脂肪吸引、膣の若返り治療(フィラー・レーザーなど)が続いた。
論文は、2016年から2024年にかけて韓国で美容医療に関連して死亡し、法医学解剖が行われた50例を対象にした。対象となったのは手術だけでなく、フィラー注入やレーザー治療などの「低侵襲(ていしんしゅう)」とされる施術も含まれている。
※低侵襲とは、体を大きく傷つけず、体への負担が低いこと。
死亡者の約8割は女性で、特に20代から40代が多かった。施術内容では、顔や首に関する美容施術が最も多く、次いで脂肪吸引、膣の若返り治療(フィラーやレーザー)などが続いた。
若い女性の死亡ケースが多かったが、これは施術を受ける層に若い女性が多いためと考えられる。若い女性への美容医療ばかりが危険であることを意味しない点には注意が必要だ。
地域的には、約6割がソウル首都圏で発生しており、美容医療が集中する地域特性も反映していると考えられる。
表にまとめると次の通りだ。出典は発表論文より(Korean Journal of Legal Medicine 2025;49(4):133-147.)。
死亡例の人口統計学的な情報
| 項目 | 内訳 | 値(n=50) |
|---|---|---|
| 性別 | 男性 | 9 (18) |
| 女性 | 41 (82) | |
| 年齢(歳) | 全体 | 29 (19-82) |
| 男性 | 50 (29-69) | |
| 女性 | 29 (19-82) | |
| BMI(kg/m2) | 男性 | 28.4 (22.5-49.3) |
| 女性 | 23.3 (16.1-34.1) | |
| 国籍 | 国内 | 36 (72) |
| 外国 | 14 (28) | |
| 既往歴a | あり | 35 (70) |
| 過去の美容外科手術歴 | 13 | |
| 顔 | 10 | |
| 乳房 | 2 | |
| 体幹の脂肪吸引 | 1 | |
| 精神科的既往 | 4 | |
| 身体疾患の既往 | 31 | |
| 肥満 | 8 | |
| 高血圧 | 6 | |
| 糖尿病 | 8 | |
| 脂質異常症 | 3 | |
| その他 | 22 | |
| 喫煙 | あり | 2 |
死亡事例の美容施術の種類
| 美容施術 | 件数(%)(n=50) |
|---|---|
| 顔・頸部a | 26 (52) |
| 鼻形成術(隆鼻術) | 12 |
| リフト(フェイス/ネックリフト等) | 10 |
| 眼瞼形成術(重瞼など) | 9 |
| 顔面輪郭形成術 | 5 |
| 脂肪吸引 | 3 |
| 脂肪移植 | 4 |
| フィラー注入 | 2 |
| ボツリヌス毒素注射(ボトックス注射) | 2 |
| 皮膚再生(リサーフェシング) | 1 |
| 体幹の脂肪吸引 | 11 (22) |
| 腟若返り(膣リジュビネーション) | 6 (12) |
| その他 | — |
| 乳房 | 4 (8) |
| 植毛(毛髪移植) | 2 (4) |
| ボディフィラー | 1 (2) |
最多は麻酔関連死、安全管理と体制整備が課題に

死亡事例の原因に麻酔に関連するものが目立った。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 主な死亡原因 → 全体の約半数(23例)は麻酔関連死。特に顔・首の施術では麻酔が主要因。
- 麻酔科医の関与率 → 麻酔関連死23例中、麻酔科医が関与していたのは6例(26%)のみ。うち1例は悪性高熱による死亡。
- 医療記録の不備 → 全記録が揃っていたのは7例のみで、記録不備が多く確認された。
死亡原因を分類すると、全体の約半数である23例を麻酔関連死が占めていた。
特に顔や首の施術やその他の美容施術では、麻酔が主要な死亡要因となっていた。
筋弛緩作用のあるプロポフォール使用例が65%であったほか、いわゆる静注麻酔として使われるデクスメデトミジン使用例があるケース、塗って使われることが多い局所麻酔薬のリドカインやエピネフリン(局所麻酔の効果を持続させるため血管収縮作用を持つ薬)過量があった。また、注入ポンプの誤作動(実際の投与量が9~13%超えたケース)、モニター接続トラブル後に心停止といった事例もあった。
一方、脂肪吸引では内臓損傷や出血、感染症など施術そのものに起因する合併症が多かった。
また、膣フィラー施術では、ヒアルロン酸やコラーゲンなどの注入物による肺塞栓が主な死因として確認されている。
研究グループらは、麻酔科医の関与が限られていたケースが多い点を指摘した。麻酔関連死23例のうち、麻酔科医が関与していたのは6例(26%)にとどまっていた。この6例のうち、麻酔による死亡として確認されたのは悪性高熱(麻酔の影響で体温が急激に上昇する病気)による1例だった。
また、医療記録が不十分な事例が少なくなかった点も問題視。医療記録がすべて揃っていたのは7例に限られた。
論文では、美容医療が「体への負担が小さい」と認識されがちな一方、命に関わるリスクが存在することを指摘。
研究グループは、ガイドラインの遵守、十分な事前評価、緊急対応体制の整備が不可欠だと結論づけている。
美容医療を受ける側から見ると、事故を未然に防ぐためにやれることは限られるが、クリニック選びや薬への関心を高めるなどの自衛手段を取ることは重要と見られる。
