男性更年期症状とテストステロン補充療法、心血管系のリスクについて知っておくべき最新の医学研究結果

2023.7.16

テストステロン補充療法の安全性は？

男性更年期障害に対する治療が行われている。写真はイメージ。（写真／Adobe Stock）

　男性は年齢を重ねるにつれて、血中のテストステロンの低下、それに伴う関連の症状が現れる「LOH症候群（late onset hypogonadism、加齢性腺機能低下症）」と呼ばれる状態に陥ることがある。気分の落ち込み、性機能の低下などの症状がある。女性の更年期障害はよく知られているが、男性でも更年期障害が起こる。

　テストステロン補充療法は、加齢による性腺線機能低下症の治療選択肢の一つになる。日本国内では主に泌尿器科を中心に行われている。この病気やその治療は、男性の若返りなどの観点から美容医療とも関連している。

　しかし、この治療法の心血管系への安全性については懸念があり、潜在的な心血管系へのリスクが心配されている。

　海外のガイドラインにおいては、心血管系の病気を最近経験した人などでは行わないように推奨されている場合もある。

　このような懸念に対処するため、今回、米国の研究グループは、心血管系の病気を経験した人や、そのリスクが高い45歳から80歳の男性5246人を対象として、テストステロン補充療法が心血管系の健康に及ぼす影響を調べる研究を行った。参加者は性腺機能低下症の症状を示し、テストステロンのレベルが低かった。

　この研究は複数の施設で実施され、参加者をランダムに2つに分け、テストステロンジェルを毎日皮膚に塗布するグループ、またはプラセボジェルを皮膚に塗布するグループに割り付けた。その後、心血管系の病気やその他の病気の発生率が分析された。

　この研究結果は、世界的に著名な医学雑誌New England Journal of Medicine（NEJM）に掲載された。

心筋梗塞や脳卒中のリスクが増えない

男性ホルモンであるテストステロン補充療法はメリットとリスクを慎重に検討する必要がある。写真はイメージ。（写真／Adobe Stock）

　こうして明らかになったのは、テストステロン補充療法は、プラセボと比べた場合、心血管系の病気の発生を増やさないことだ。第一に注目した生命を脅かす心筋梗塞や脳卒中の発生率が増えることはなく、それによる死亡率が上昇することもなかった。

　しかし、テストステロン補充療法を受けたグループでは、心房細動、急性腎障害、肺塞栓症の発生率が増えた。

※心房細動は、心臓の筋肉が細かく痙攣して、心臓の拍動に異常が生じる病気。急性腎障害は、腎臓の機能が急速に悪化し、正常な働きが難しくなる病気。肺塞栓症は血栓が発生して肺の血管に詰まり、呼吸などに影響が及ぶ病気。

　主要な心血管系の病気が増えなかったことは重要だが、テストステロン補充療法に伴う潜在的なリスクが確認された結果となる。

　したがって、この治療を受けるときには、その人それぞれの持っている要因を慎重に検討することが重要と言えそうだ。男性のホルモン補充療法は、日本でも身近に行われており、このような研究結果は貴重な情報と言っていいだろう。

参考文献

Lincoff AM, Bhasin S, Flevaris P, Mitchell LM, Basaria S, Boden WE, Cunningham GR, Granger CB, Khera M, Thompson IM Jr, Wang Q, Wolski K, Davey D, Kalahasti V, Khan N, Miller MG, Snabes MC, Chan A, Dubcenco E, Li X, Yi T, Huang B, Pencina KM, Travison TG, Nissen SE; TRAVERSE Study Investigators. Cardiovascular Safety of Testosterone-Replacement Therapy. N Engl J Med. 2023 Jul 13;389(2):107-117. doi: 10.1056/NEJMoa2215025. Epub 2023 Jun 16. PMID: 37326322.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37326322/

男性の性腺機能低下症ガイドライン 2022
https://www.jstage.jst.go.jp/article/endocrine/98/S.July/98_1/_pdf/-char/en

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