マクロテクスチャードタイプの豊胸インプラントにがんリスク、除去または交換希望の女性多数──カナダの研究
ポイント
- マクロテクスチャードタイプのインプラントは、BIA-ALCLというまれながんのリスクを伴う
- 調査によると、マクロテクスチャードタイプのインプラントを受けた人は除去や交換を希望することが多い
- マクロテクスチャードタイプのインプラントの手術を受けた人への通知が求められる
バストを大きくする方法として豊胸術があるが、シリコン製のインプラントを使う方法が一般的だ。インプラントには様々な種類があるが、表面が滑らかなもの(スムーズタイプ)と表面がざらざらしたもの(テクスチャードタイプ)に分かれている。さらにテクスチャードタイプの中でも、マイクロテクスチャードタイプとマクロテクスチャードタイプに分かれ、マクロテクスチャードタイプの方が表面が粗い。ところが、マクロテクスチャードタイプのインプラントは「乳房インプラント関連未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)」と呼ばれるまれながんを起こすことがあると判明している。
2019年、販売元のアラガン社は、日本国内で流通するマクロテクスチャードタイプのインプラントを自主回収し、販売停止とした。
過去に使用した人はいるので、このタイプのインプラントに関連するリスクについて知っておくことは重要だが、このたび海外でこの問題に関連した調査が報告された。
マクロテクスチャードタイプのがんのリスクが問題に
問題になるBIA-ALCLは、非ホジキンリンパ腫と呼ばれるがんの一種で、前述の通り、マクロテクスチャードタイプのインプラントによる豊胸術を受けた人で発症しやすいと分かっている。
日本の4つの医療団体がBIA-ALCLについて理解を深めてもらうため「よくある質問(FAQ)」を公開している。
*関わっている医療団体は、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会、日本形成外科学会、日本乳癌学会、日本美容外科学会JSAPSの4団体。
Q&Aによると、BIA-ALCLはインプラントを使った豊胸術を受けてから7~9年で起こる可能性があり、腫れ、しこり、変形、潰瘍、痛みなどの症状が現れる。また、このがんは早期の段階ならば手術で治療できるが、進行した場合には化学療法や放射線療法が必要になる場合がある。そのため術後は定期的に検診を受けることに加えて、乳房の腫れやしこりがあるなど症状があるときにはすぐに主治医に相談し、問題を早期に発見することが重要となる。ただし、症状がない場合には、予防のためにインプラントの摘出を推奨している国はない。
カナダで手術を受けた432人を調査
こうした中で、カナダの研究グループは、マクロテクスチャードタイプによる豊胸術を受けた女性が、乳房の腫れやしこりなどの症状がない場合でも、それに伴うリスクをどのように認識をしているか把握するための調査を実施した。これは2022年12月に美容外科に関する医学雑誌エステティック・サージェリー・ジャーナル誌で報告された。以下が論文のアウトラインだ。
- カナダの研究グループは、マクロテクスチャードタイプのインプラントを受け、インプラントの回収に関して連絡を受けた432人(乳がん手術後の再建121人、美容311人)のカルテを調べた。
- 乳がん後に再建手術を受けた人、および美容整形手術を受けた人のインプラントの除去や交換の希望などを分析した。
- マイクロテクスチャードタイプのインプラントを受けた人は、今回の研究の対象には含まれていない。
BIA-ALCLのリスクとインプラント除去・交換の希望
こうして研究グループが指摘したのは、マクロテクスチャードタイプのインプラントを使ったがん手術後の乳房再建術および美容目的の豊胸術を受けた人に対してはBIA-ALCLのリスクを通知するのが重要ということだった。
がん手術後の乳房再建のためにマクロテクスチャードタイプのインプラントを使った手術を受けた人の平均年齢は約60歳で、インプラントの使用期間は約8.4年。美容目的で手術を受けた人の平均年齢は47歳で、インプラントの使用期間は約9.4年だった。
医師と相談した結果、がん手術後の乳房再建のための手術を受けた人のほぼ60%、美容目的で手術を受けた人のほぼ50%が、インプラントの除去・交換を予定していることが分かった。がん手術後に乳房再建の手術を受けた人の方がBIA-ALCLに関する心配はより多く、3分の2近くが心配だと考えていた。研究では、手術を受けた理由にかかわらず、リスクを認識した女性の多くが除去または交換を希望すると判明した。恐怖心が、除去や交換を希望する主な理由だった。
論文の要点は以上の通りだ。既にマクロテクスチャードタイプを使った手術は実施されていないとはいえ、過去に手術を受けた人に対してはリスクを適切に伝えることが重要と言えそうだ。過去に手術を受け、不安を感じる場合には医療機関に相談するとよいだろう。
参考文献
乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)についてよくあるご質問
https://jsprs.or.jp/member/committee/wp-content/uploads/2022/02/bia_alcl_P-1_20220218.pdf
乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)の要点
https://jsprs.or.jp/news/乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫bia-alcl/
Mankowski P, Carr M, Cherukupalli A, Bovill E, Lennox P, Brown MH, Carr N. The Macrotextured Implant Recall: Breast Implant-Associated-Anaplastic Large Cell Lymphoma Risk Aversion in Cosmetic and Reconstructive Plastic Surgery Practices. Aesthet Surg J. 2022 Dec 14;42(12):1408-1413. doi: 10.1093/asj/sjac158. PMID: 35709374.
https://academic.oup.com/asj/article/42/12/1408/6609452
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