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フィラー注入のリスクと合併症。影響を受けやすい顔の部位とは?

カレンダー2023.4.9 フォルダー最新研究

ポイント

  • 美容目的のフィラー治療の増加に伴い、合併症の報告も増えている
  • 合併症を分析したところ、ほうれい線など影響を受けやすい箇所などが判明した
  • 壊死が広範囲だと視力低下や脳卒中など重い合併症のリスクが高まると分かった
フィラー治療はリスクも伴う。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

フィラー治療はリスクも伴う。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 美容上の理由でフィラー治療を受けることを検討している場合、そのリスクについて知っておくことは重要。フィラー治療とは、皮膚の下に充填剤を注入してシワを消すなどする治療だ。フィラー治療が普及し、身近になった一方で、皮膚が壊死するといった合併症が起こる可能性もある。今回、米国からこの4月に発表された研究によると、フィラー治療後に顔の皮膚に血流障害が発生することで起こる合併症の実態が明らかになった。

フィラー治療に伴う合併症について調べた研究

リスクを理解することも重要。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

リスクを理解することも重要。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 日本で人気のフィラー治療だが、合併症が起こる場合もある。米国では、製剤の選択肢が増えて、価格も安くなるなどして、過去15年間で、フィラー治療を受ける人の数は年間約350万件に達したという。しかし、フィラー治療を受ける人が増えたことで、合併症のリスクも高まっている。フィラー治療の影響により血管の流れが滞る「虚血(きょけつ)」で合併症は起こるのだが、その具体的なパターンや程度については解明されていないことも多い。

 そこで今回、フィラー治療後の合併症について、米国セントラルフロリダ大学を中心とした研究グループが調査した。研究グループは合併症のパターンや程度を測るための採点システムも考え出した。この研究は、整形外科分野の医学誌であるプラスティック・アンド・コンストラクション・サージェリーにおいて23年4月に発表されたものである。

 研究のアウトラインは次の通り。研究グループは、フィラー治療の合併症である虚血による皮膚壊死(皮膚の組織が死んでしまうこと)を調べた。そのときに皮膚壊死の特徴を正しく理解するために虚血の範囲と位置を把握し「FOEMスコアリングシステム」という新しい方法で採点した。この方法では、異なる動脈に関連した領域を4つのゾーンに分け、各ゾーンをさらに5つに分けた。それぞれのエリアを10点満点で点数付けし、影響を受けた血管を調べた。

影響を受けやすいほうれい線、鼻筋、こめかみ

情報を集めることで適切な判断ができる。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

情報を集めることで適切な判断ができる。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 こうした分析を通して、美容目的でフィラー治療に伴う虚血による皮膚壊死の実態が明らかになった。

 具体的には、研究では243の症例と738の写真を調査し、どの注射部位が虚血を引き起こしやすいかを特定した。その結果、ほうれい線、鼻筋、こめかみが最も影響を受けやすい部位だった。最も多く使用されたフィラーはヒアルロン酸で75%、次いでカルシウムヒドロキシルアパタイトで14%だった。

 報告された主な症状は、痛み(77%)、皮膚の変色(67%)。著しい視力低下を含む目に関わる合併症は47例、虚血性脳梗塞は10例報告された。虚血性脳卒中とは、脳への血流が滞ることで起こる病気。突然の視力低下を経験した人は、吐き気、嘔吐、めまいなどの症状を訴えることが多かった。また、脳梗塞を発症した全員の視力が著しく低下し、失神を経験した人も多くいた。

 FOEMスコアリングシステムによって解析したところ顔面動脈や眼動脈という結果が影響を受けやすいと確認された。血管の流れが滞ることでその血管を通して血液が流れていく領域が影響を受けて壊死した場合、その領域が広いほど視力低下や脳卒中が起こりやすいことも確認された。

 論文の概要は以上のようになる。重要なのは、フィラー治療は一般的に安全であるものの、視力低下や脳卒中につながる皮膚壊死のリスクがある点だ。これらの潜在的なリスクをあらかじめ知っておき、治療後に何らかの問題が発生した場合は、速やかに助けを求めることが重要といえる。

参考文献

Soares DJ, Bowhay A, Blevins LW, Patel SM, Zuliani GF. Patterns of Filler-Induced Facial Skin Ischemia: A Systematic Review of 243 Cases and Introduction of the FOEM Scoring System and Grading Scale. Plast Reconstr Surg. 2023 Apr 1;151(4):592e-608e. doi: 10.1097/PRS.0000000000009991. Epub 2022 Dec 6. PMID: 36477154.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36477154/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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