
台北。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
台湾で、美容医療を行う医師に求められる資格を厳しく設定する制度改革が進んでいる。
日本で美容医療の事故が問題になっているが、台湾でも死亡事故が発生し、大きく報道されている。そうした中で、美容医療を大きく3段階に分けて、それぞれに必要な医師の資格を厳しく設定する方向となっている。美容外科の手術を行う医師に、外科系の専門医資格を必要としていくなど、美容医療を行うためのハードルを高く設定するものだ。
台湾政府は2025年11月、改正法案を制定する前段階として、一般の意見を募るパブリックコメントを集める期間に入った。
初期研修すら経験していない医師は美容医療禁止に

「特定醫療技術檢查檢驗醫療儀器施行或使用管理辦法(特管弁法)」の修正案。(出典/台湾衛生福利部)
- 背景 → 台湾衛生福利部は、美容医療事故の多発を受け、2025年11月に「特管弁法」の改正案を発表し、制度整備を進めている。
- 制度の柱 → 美容医療を3段階に分類し、それぞれに必要な医師資格・要件を設定。特に未研修医による施術を禁止する方向へ。
- 主な改正点 → 初期研修(PGY)を経ていない医師は美容医療を行えなくなり、台湾版「直美」問題への対策と位置付けられる。
台湾衛生福利部が2025年11月、「特定醫療技術檢查檢驗醫療儀器施行或使用管理辦法(特管弁法)」の修正案を公告し、パブリックコメントを募っている。
台湾では、日本と同じように、美容医療に関連した事故が問題になっている。台湾の報道を見ると、台湾でも事故は複数発生していると見られる。2024年末にも、麻酔事故で女性が死亡したと報じられている。
こうした中で、台湾政府は、美容医療のレベルを3段階に整理し、それぞれに明確な医師要件を設定し、問題に正面からメスを入れようとしている。
まず、日本で言う「初期研修」である「PGY(Post-graduate year training、卒後一般医学訓練)」を経ない医師による美容医療は全面禁止となる。
注意が必要なのは、日本では初期研修を終えてすぐに美容医療に入る医師が「直美(ちょくび)」と呼ばれることがあるが、台湾では、さらに2年間前倒しで「台湾版直美」が誕生する状況といえるという点。日本とは状況は異なっている。
日本では、医師は医学部卒業後に、2年間の初期研修を受けないと、そもそも、一般の人を対象とした診断や治療などが行えないという縛りがある。それに対して、台湾では日本の初期研修に当たるPGYを経ずに診療を行う医師が一定数存在している。日本の直美よりも経験の浅い医師が診察室に出てくる状況があるといえる。こうした医師の中には、美容医療を行う医師もいると考えられている。
今後、法律が改正されると、このPGYを経験していない医師の美容医療はできなくなる。
美容医療を3段階に区分し、必要な医師像を明確化

台湾の街並み。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- レベル1 → 非外科的施術(レーザー、HIFU、ボツリヌス注射、ヒアルロン酸、PLLA、CaHAなど)。PGY修了+32時間の美容医療研修を受けた医師が実施可能。
- レベル2 → 二重、鼻形成、脂肪吸引、豊胸などの美容外科手術。PGY修了に加え、形成外科・一般外科など外科系の専門医資格が必須。
- レベル3 → 骨切り、大量脂肪吸引、全顔リフト、乳房インプラントなど大規模手術。外科専門医資格+政府認定施設でのみ実施可能。全身麻酔時は麻酔科専門医の関与と緊急搬送体制の整備を義務化。
その上で、最初の区分であるレベル1は、いわゆる非外科的な施術、「プチ整形」とされる分野。これらの施術は、2年間のPGYを経て、32時間の美容医療研修を受けた医師が行えるようにする。
この段階に当てはまるのは、レーザーやIPL(光療法)、RF(高周波)、HIFU(高強度焦点式超音波治療、ハイフ)といった光やエネルギー機器を用いた施術、ボツリヌス療法やヒアルロン酸、PLLA(ポリ-L-乳酸)、CaHA(カルシウムハイドロキシアパタイト)といった注入治療が含まれる。
レベル2では、美容目的の外科手術が対象となる。二重まぶたや眼瞼の手術、鼻形成、小~中規模の脂肪吸引や自家脂肪移植、豊胸、腹部形成などが含まれる。
この段階では、PGY修了は前提だが、加えて外科系の専門医資格を持つ医師だけが執刀することが認められる。形成外科や一般外科など、手術に対応した専門科としての訓練を受けた医師だけが美容外科手術を行うことになる。
さらにレベル3として、より大がかりな美容目的の手術が、一定の認知施設のみで行えるように変わる。具体的には、顔面の骨切り、大量脂肪吸引、全顔のリフト、乳房のインプラント挿入などが当てはまる。
この領域では、手術内容に対応した外科系専門医であることに加え、衛生福利部の認証をクリアした医療機関でのみ施術できるという厳しい条件が課される。
全身麻酔や深い鎮静を伴う場合は麻酔科専門医の関与が必須となり、万が一のための緊急後送計画(近隣病院との連携体制)も義務化される。「専門医」+「施設」というダブルの条件が設定される。
日本の制度にも影響か?

台湾の方針は日本にも影響?画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 現状 → 台湾ではPGYを修了せずに美容医療を行う「台湾版直美」医師が約600人存在すると推計されている。
- 改正後の対応 → 既存医師には2〜3年の猶予期間が設けられ、その間にPGYおよび研修を受けなければ、すべての美容医療施術が禁止される。
- 国際的背景 → オーストラリアなどでも専門医資格を求める流れがあり、台湾の3段階制度は医師要件の透明化モデルとして注目されている。
台湾の報道を参考にすると、衛生福利部の推計では、PGYを終えずに美容医療に従事する直美医師は600人規模に達しているとされる。改正案では、こうした既存医師に対しても2〜3年の猶予期間が与えられ、その間にPGYや必須研修を受けることが求められる。
猶予期間を過ぎても条件を満たせなければ、レーザーから骨削りまで、いずれのレベルの美容医療も提供できなくなる見通し。
専門医資格を美容医療に求める動きは、オーストラリアでも出てきている。日本でも美容医療の安全性をめぐる議論が続く中、国際的な動きを踏まえて、台湾の「3段階の資格制度」は、医師要件の透明化という点で参考になるモデルとなり得る。
