
マレーシアの首都クアラルンプール。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
マレーシア政府が2025年11月までに、3つの施術を違法としたことが分かった。
違法となったのは、乳房と臀部(でんぶ、ヒップ)へのフィラー注入、ビタミンC点滴が対象で、いずれも安全性への懸念が高かった手技だ。背景には事故の頻発があるようだ。
美容医療事故の多発が背景に

マレーシアで美容医療を行うには医師も追加の資格を取る必要がある。(出典/International Institute of Wellness & Aesthetic Medicine)
- 制度の概要 → マレーシアでは医師免許だけでは美容医療を行えず、保健省認定の資格「LCP(Letter of Credentialing & Privileging)」が必須。取得には2年以上の臨床経験+2年間の美容医療研修が必要。
- 運用と違反例 → LCP未取得の医師による施術は「無資格医療行為」とされ、2025年には乳房フィラー施術の事故で約3000万円の賠償命令が出た。
- 禁止施術 → 保健省は乳房・ヒップのフィラー注入やビタミンC点滴を高リスクとして違法化。LCP保持者であっても実施不可。
そもそもマレーシアでは、医師免許を持っているだけでは美容医療を提供することができない。
マレーシアでは、医師免許を取得した上で、政府の保健省が定める審査を受けて、「LCP(Letter of Credentialing & Privileging)」と呼ばれる資格を得る必要がある。LCPを取るためには2年以上の臨床経験と、2年間の美容医療のトレーニングを受けるなどの条件がある。
この資格は3年間の有効期間があり、更新を続ける必要がある。更新には450マレーシアリンギット(1マレーシアリンギット38円とすると、日本円で約1万7000円)の費用がかかる。
LCPを持たない医師が美容医療を行うと、無資格医療行為とされる。
マレーシアでは、LCPを持たない医師の運営するクリニックでの美容医療被害が増え続けている。2025年7月には、無資格の美容クリニックで乳房フィラーを注入された女性が重い合併症を起こし、裁判所が80万マレーシアリンギット(約3000万円)の懲罰的賠償を命じたことが大きく報じられた。
こうした事件が繰り返される中、保健省は乳房やヒップへのフィラーを高リスク施術として違法と位置付けた。
一方で、ビタミンC点滴も、感染症を引き起こすなどの問題から違法となった。
これらの施術は、LCPを持つ医師であっても違法とされ、事実上、禁止されたと見られる。
日本でも推奨されない乳房フィラー

禁止施術。(出典/マレーシア保健省)
- 乳房フィラーの危険性 → 日本のガイドラインでも「行わないことを強く推奨」。しこり形成、乳がん検診妨害、慢性炎症などのリスクが指摘され、FDAも未承認。
- 国際的な状況 → 欧州では乳房用ヒアルロン酸製剤「Macrolane」が安全性問題で撤退。国際的にも乳房フィラーは推奨されない方向にある。
- マレーシアの背景と意義 → イスラム文化の身体改変への慎重姿勢に加え、事故多発を受けて保健省が乳房・臀部フィラー、ビタミンC点滴を違法化。安全確保と資格制度の厳格化は日本にとっても参考となる。
今回違法とされた施術のうち、乳房フィラーは日本の美容医療ガイドラインでも「行わないことを強く推奨」と明記されている。
ヒアルロン酸製剤を乳房に大量注入する手法は、しこり形成や被膜拘縮、乳がん検診の妨げ、さらには炎症の持続による乳がんリスクの懸念が指摘され、米国のFDAでも承認されていない。
欧州ではかつて使用されていた乳房用ヒアルロン酸製剤「Macrolane」が安全性問題で撤退しており、国際的に見ても乳房フィラーは危険性が高く、推奨されない方向にある。
マレーシアでは、人口の大半を占めるイスラム教徒の価値観も背景にあり、美容目的で身体を変える行為にはもともと慎重な姿勢が根付いている。乳房フィラーや臀部フィラーのように形を変える施術だけでなく、ビタミンC点滴も美白を目的とした身体改変と解釈される側面がある。そうした前提はあるものの、事故が頻発したことが重く、政府が一段と強い規制強化へ舵を切る要因となったと考えられる。
マレーシア保健省が今回の3施術を違法化したことや、美容医療の安全な実施のための資格制度は、日本にとって参考になるものとなる。
