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【続報】2人死亡、メキシコ美容医療ツーリズム感染症集団発生、WHOへの動きも

カレンダー2023.5.28 フォルダー 海外

ポイント

  • メキシコでの美容医療に関連した感染症集団発生の問題で2人の死亡が報告された
  • 米国疾病対策センター(CDC)がメキシコと協力して感染疑いの人たちへの対応を進めている
  • 米国とメキシコが世界保健機関(WHO)に緊急事態を呼びかけるよう要請する動きも報じられた

 米国からメキシコのマタモロスに渡航し、美容医療を受けた人たちの間で、「真菌性髄膜炎」という感染症の集団発生が疑われているが、その問題が深刻化している。この問題を受けてメキシコの2つの美容医療施設は閉鎖に追い込まれた。

 5月8日に髄膜炎の症状で入院した女性が報告され、その後、報告が続いており、200人以上が感染のリスクありと確認され、2人の死亡が確認された。

※髄膜炎は、神経を保護する膜が感染症などに侵され、腫れや痛みなどを引き起こす病気。原因の一つとして、いわゆるカビの仲間「真菌」がある。真菌によって起こった髄膜炎を真菌性髄膜炎と呼ぶ。

メディカルツーリズムで事故

米国との国境に接するメキシコ北部マタモロスの眺め。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

米国との国境に接するメキシコ北部マタモロスの眺め。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 ヒフコNEWSで伝えた通り、米国テキサス州に接するメキシコの都市マタモロスで、米国から渡航して美容医療を受けた人たちの間で感染症の集団発生が起きた。これは「硬膜外麻酔」と呼ばれる麻酔注射によって病原体が体内に入ったために起きたと見られている。

※硬膜外麻酔は、脊髄を保護する硬膜という膜の外に対して麻酔薬を注射する麻酔。脊髄に近い部位に注射するため感染を起こす可能性がある。

 米国のメディカルツーリズムの主な渡航先として南米が人気だ。ヒフコNEWSの記事で紹介しているが、米国からのメディカルツーリズムの渡航先には中南米の国々が多数含まれている。今回の問題が起こる以前にメディカルツーリズムで発生した合併症や後遺症の実態が報告されていたが、トラブルが起きた渡航先と施術内容、起きた合併症や後遺症を示すと次の通りになっていた(米国ペンシルベニア大学調べ)。(次の記事から抜粋 美容整形を海外で受ける前に知っておきたいこと、米国の研究から学ぶ潜在的なリスク

 トラブルが起きたケースでの渡航先は次の通りだった。

治療を受けた国 人数
ドミニカ共和国 177人 82.7%
メキシコ 9人 4.2%
コロンビア 8人 8%
ブラジル 4人 2.3%
ベネズエラ 3人 1.4%
グアテマラ、プエルトリコ、アルゼンチン、中国、エルサルバドル、トルコ、シリア、パナマ 各1人 各0.5%
複数・不明 5人 2.3%

 トラブルの報告された美容医療の内訳(重複あり)は次の通り。

施術内容 人数
腹部脂肪切除(タミータック) 114件 35.7%
脂肪吸引 57件 17.8%
豊胸術 52件 16.3%
フィラー治療(部位問わず) 20件 6.2%
乳房縮小術 18件 5.6%
ブラジリアンバットリフト(BBL) 15件 4.7%
脂肪注入(部位問わず) 2件 0.6%
フェイスリフト・眼瞼形成手術 2件 0.6%
顔面のインプラント手術 2件 0.6%
乳房インプラントの交換 1件 0.3%
鼻の整形 1件 0.3%
不明 34件 10.6%

 主に報告された合併症は次の通りだった。感染症の発生が目立っていた。

合併症 人数
手術した場所の感染症や蜂窩織炎 112 50.9
痛み 17 7.8
傷がはがれたり、正常に治らない 16 7.3
肉芽腫(かたまりができる) 14 6.4
美容上の不満 12 5.5

※蜂窩織炎(ほうかしきえん)は、皮膚の内部に細菌が感染して、赤く腫れたり痛みが出たりする状態のこと。肉芽腫(にくげしゅ)は、傷などに反応して組織がかたまりをつくる状態。

 美容医療の際に、前述の通り硬膜外麻酔という麻酔をすることがある。背骨の辺りに注射するが、これで感染が起きたと考えられている。

 米国疾病対策センター(CDC)によると、この問題によって「River Side Surgical Center」と「Clinica K-3」の2つのクリニックが感染症の集団発生に関連したと確認され、2023年5月13日に閉鎖された。

 米国疾病対策センター(CDC)は、メキシコ保健省、米国の州や地域とともに真菌性髄膜炎の疑いのある人たちへのアプローチを続けている。一方で、メキシコ保健省は、感染症のリスクがあると考えられた米国人221人のリストをCDCに提供した。調査を進めた結果、リスト上の6人は硬膜外麻酔を受けておらず、リスクはないと判断されたが、その後、リスクのある5人を追加で確認。リスクのある米国内に住む個人は220人となった。

 CDCによると次のような発生状況で、死亡者も出るなど問題が拡大している。

米国で確認された症例数 23年5月26日現在 人数
調査対象者
(症状なし、または症状不明、感染の検査結果は保留または不明)
195人
疑われる症例
(髄膜炎と一致する症状、感染の検査結果は保留または不明)
14人
可能性のある症例
(感染の検査結果、髄膜炎が疑われる真菌が分離されていない)
11人
確定症例
(感染の検査結果、真菌検出)
0件
死亡 2人

医療機関への緊急の受診求める

アラート。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

アラート。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 CDCでは、23年1月1日から5月13日の間にメキシコのマタモロスで硬膜外麻酔を受けた人に対して、発熱、頭痛、首の凝り、吐き気、嘔吐、光に対する過敏、混乱などの症状があれば、感染の可能性に注意するよう促している。最初は症状が軽くても、進行して危険な状態になる可能性もあり、症状がなくても医療機関の受診を求める。硬膜外麻酔を受けたことを医療機関で伝え、真菌性髄膜炎の検査について問い合わせるとよいと説明する。

 なお、BBCの報道によると、CDCとメキシコ当局は世界保健機関(WHO)に対して緊急事態を呼びかけるよう要請したという。美容医療関連のメディカルツーリズムでの事故であり、世界的に同様な動きが広がっているだけに、このようなトラブルについては気を付けるのが重要だろう。

参考文献

Suspected Fungal Meningitis Outbreak Associated with Procedures Performed under Epidural Anesthesia in Matamoros, Mexico
https://www.cdc.gov/hai/outbreaks/meningitis-epidural-anesthesia.html

US and Mexico sound alarm over cosmetic surgery-linked fungal outbreak
https://www.bbc.com/news/health-65731544

美容整形を海外で受ける前に知っておきたいこと、米国の研究から学ぶ潜在的なリスク
https://biyouhifuko.com/news/world/1261/

McAuliffe PB, Muss TEL, Desai AA, Talwar AA, Broach RB, Fischer JP. Complications of Aesthetic Surgical Tourism Treated in the USA: A Systematic Review. Aesthetic Plast Surg. 2023 Feb;47(1):455-464. doi: 10.1007/s00266-022-03041-z. Epub 2022 Oct 31. PMID: 36315261; PMCID: PMC9619012.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36315261/

米国が警告、美容整形後に真菌性髄膜炎疑い、メキシコでの医療観光に懸念広がる
https://biyouhifuko.com/news/world/1496/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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