
ゴア・レンジ・キャピタルのパートナーを務めるウンベルト・アントゥネス氏。(写真/編集部)
美容医療は「見た目を整える医療」だけではなく、健康や健康長寿を意味する「ウェルネス」や「ロンジェビティ」のカテゴリーへと広がっているという見方が海外では強まっている。この動きは、日本を含むアジアにも波及してくる可能性がある。
美容製剤大手ガルデルマの元CEOで、現在は米国の医療特化投資会社ゴア・レンジ・キャピタルのパートナーを務めるウンベルト・アントゥネス氏が、IMCAS World Congress 2026で語った。
スキンケア、施術、皮膚科、生活改善、社会のつながりが統合

ゴア・レンジ・キャピタルのパートナーを務めるウンベルト・アントゥネス氏。(写真/編集部)
講演で中心となったキーワードは、「統合(convergence)」。
アントゥネス氏は、美容施術は日常の行動や健康管理と切り離しては語れないと指摘した。美容医療は単なる外見の改善ではなく、生活習慣や全身の健康状態と連動する領域へと拡張しているという認識だ。
その延長線上に位置づけられるのが「ロンジェビティ」。美容医療分野においてロンジェビティへの関心が高まっている背景には、健康な状態を維持することが美容の前提であるという考え方がある。そのためには、最新技術や科学的知見の活用に加え、生活習慣の最適化が不可欠という考え方が示された。
アントゥネス氏によれば、美容医療の現場で使われる言葉そのものが変化している。
米国の美容医療施設3万3000施設を分析した結果によると、50%がウェブサイトで「ウェルネス」に言及し、10%が施設の名称に「ウェルネス」を関連付けていた。
また、約20%の施設が「再生系(regenerative)」に触れており、6000を超えるサイトが「ロンジェビティ」に言及していた。
美容医療施設は「美しさ」だけでなく、「健康」「再生」「長寿」が前面に打ち出している。
アントゥネス氏は、「スキンケア」「美容施術」「医療皮膚科」の3領域の中心に「生活習慣」と「社会的つながり」を提示した。予防やパーソナライズを進めるというのは大前提で、予防と治療を含めたすべてを統合する段階に入っているという。
美容に科学の観点が一層入り込む
講演では、2026年の注目テーマとして複数のポイントが列挙された。次の通りだ。

IMCAS World 2026が開催されたパレ・デ・コングレ・ド・パリ。(写真/編集部)
- 「アンチエイジング」から「スキン・ロンジェビティ」への概念移行が進む。細胞レベルへの注目が高まり、肌の強さ(レジリエンス)が重視されるという意味合いである。
- 美容の診断や治療は、科学的根拠(エビデンス)に基づいて行われる方向性が一層強まる。
- スキンケア・施術・医療皮膚科などの領域をまたぐ「統合」の考え方が、トレンドとしてより強まる。
- デジタル活用が欠かせなくなる。良い医師の選択や施術選択などがAIで行えるようになるほか、施術を受ける側もデジタルによって美容医療への理解が深まる見通しが示された。
- 施術の前後(pre/post)への注目が高まる。リンパの流れ、血流、炎症、バリア機能などが重要になると見られている。
- エネルギーデバイスは、手術や注入治療をサポートする位置づけになっていく。
- GLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)が、美容医療の需要をさらに強化する可能性が示された。
- 髪や肌、顔のボリュームロスなどに関連するニーズが意識され、そうした需要に応える美容医療が注目される。
- 伝統的な製薬企業が、美容関連分野に参入する可能性についても言及があった。
例えば、「アンチエイジング」から「スキン・ロンジェビティ」という概念への移行という考え方。細胞への注目度がより高まり、肌の強さが重要視されるという意味合いだろう。
美容に科学の観点が一層入り込む方向性がうかがえた。
デジタルを使って、医師も施術を受ける側も、美容医療をより選びやすく、使いやすくなる未来も現実化する可能性は高いだろう。
講演内容からは、エネルギーデバイスの種類が増えているが、より一層出番が増える可能性も予想される。性能の向上により、どこまで効果的かつ安全に施術が可能になるかが注目される。
ヒフコNEWSで既に伝えているが、GLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)が美容医療の需要をさらに強化する方向性がここでも指摘された。
一般の医療での治療手段が美容目的に?
さらに、今後のイノベーションについても方向性が列挙された。
- 既存の大型治療薬では適応拡大が進み、新規作用機序(IL-31、TYK-2など)の開発も進展する。一方で、抗体医薬のバイオシミラーも拡大する。
- これまで十分な治療法がなかった疾患(慢性じんましん、白斑、脱毛症、乾癬、アトピーなど)に対する新たな選択肢が増加するほか、男性型脱毛症の新しい治療法が登場する可能性が示された。
- 大手企業は規模拡大を続けるが、イノベーションは幅広いプレイヤーから生まれる。
- 医療皮膚科・美容医療・スキンケア/OTCの境界があいまいになり、相互連携が進む。
- 遺伝子治療が美容医療分野にも広がり始めるという見方も示された
これまで一般の医療で使われていたような治療手段が、美容目的に転用されるような動きも予測されている。現在は存在していないような美容医療が展開される可能性がある。
講演によれば、美容医療の市場成長は年5〜8%。この間に、美容医療のブランドや提供する会社の序列が変わる可能性があるとの見通しも示されていた。
今回の講演が示したのは、美容医療が単独で拡大するというよりも、ウェルネスやロンジェビティといった考え方を取り込みながら、その中身を大きく変えるような未来の姿だろう。
