
フランスの形成外科医ミシェル・ルイフ氏。(写真/編集部)
美容医療ではレーザーや注入などの非外科的治療が急速に広がっている。一方で「非外科的だから安全」「元に戻る治療」という一般的な理解に対し、国際学会でも問題視する声が出ている。
フランスの形成外科医ミシェル・ルイフ氏は、2026年1月にパリで開催されたIMCAS World Congress 2026で講演し、非外科的治療が組織に長期的な変化を残し、将来の外科手術を難しくする可能性があると指摘した。
「軽い治療から」モデルに疑問

高周波治療は、RF治療やラジオ波治療とも呼ばれる。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 「軽い治療」が増加→ レーザーやエネルギーデバイスを中心に手術を伴わない美容治療が世界的に増えている。
- 安全という思い込み→ 「切らない治療だから安全」と考えられがちだが、専門家は注意を促している。
- 将来への影響→ 非外科的治療でも、体の組織に長く残る変化が起きる可能性がある。
ルイフ氏はフランス中部のトゥールを拠点とする形成外科専門医で、フランス美容形成外科学会(SOFCEP)元会長を務めている。また、国際美容外科学会(ISAPS)の患者安全委員会にも携わった。
美容医療の世界では、非外科的治療が増加傾向にある。
特にレーザーやエネルギーデバイス、ケミカルピーリングなど非外科的治療を含むフェイシャルリジュビネーション関連の治療が増えている。国際美容外科学会(ISAPS)の2024年の統計では、このカテゴリーが前年比で約42%増加している。
これまでの美容医療のトレンドとして広がっているのが「まずは軽い治療から始め、必要なら手術へ進む」という考え方だが、ルイフ氏は、この直線的な発想に疑問を呈する。
軽い治療であることが必ずしも適切な選択とは限らず、医師は最適な治療を提案すべきだと述べた。施術を希望する人への丁寧な聞き取りと身体診察を行うことも重要だと述べた。
ルイフ氏は、美容医療を次の3つのカテゴリーに整理した。
- フェイスリフトや脂肪移植などの皮膚を切る手術を伴う外科手術
- フィラー、ボツリヌストキシン、糸リフト、マイクロニードリング、レーザー、超音波や高周波などのエネルギーデバイスといった、皮膚切開を伴わない非外科的治療
- ナノ脂肪移植、PRP、エクソソームなどの再生医療
それぞれ、効果の持続期間や体への影響の大きさ、副作用、コストなどが異なり、施術を希望する人はこうした要素を踏まえて治療を選択することになると説明した。
特に問題視したのが、非外科的治療が「元に戻る治療」と理解されがちな点である。実際には組織に長期的な変化を残す可能性があるという。
その根拠として、非外科的治療が将来の手術に与える影響を分析した研究も紹介した。美容外科専門誌「Aesthetic Surgery Journal」に掲載された頸部リフトの症例解析だ。
研究では、同一の医師が2023年に施行した約180例の頸部リフトを解析した。その結果、患者の約68%が過去に頸部への美容治療を受けていたことが確認された。治療には脂肪融解注射、凍結脂肪分解、ラジオ波機器、超音波治療、糸リフトなどが含まれていた。
過去に治療を受けていた患者では、線維化や脂肪減少、解剖学的剥離層の不明瞭化、組織硬化、脂肪分布の不均一などが確認された。これらの変化により手術の難易度が高まり、症例の94%で追加処置が必要となったという。
重大な合併症は報告されなかったものの、手術時間の延長や術後の輪郭不整などが見られた。論文では、頸部の非外科的治療が組織構造を変化させ、将来の手術の複雑性を高める可能性があると指摘している。
非外科的治療にも長期影響と説明の必要性

IMCAS会場より。(写真/編集部)
- 手術が難しくなる可能性→ 過去の美容治療で組織が変わり、将来の手術が複雑になることがある。
- 長期視点が重要→ 治療はその場の効果だけでなく、将来への影響も考えて選ぶ必要がある。
- 治療履歴の管理→ 過去の施術を記録し、医師と十分に相談して治療を決めることが大切。
こうした議論の背景には、ルイフ氏も触れている「まずは軽い治療から始める」という考え方がある。
ルイフ氏は、非外科的治療そのものを否定するものではないとしながらも、「非外科的=安全」「元に戻る治療」という単純な理解には注意が必要だと強調した。
美容医療の選択では、短期的な効果だけでなく、将来の治療選択に及ぶ影響も含めて説明し、長期的視点で判断することが重要だと述べた。
その上で、遅れて現れる影響への備えとして、治療履歴を記録した「ログブック」の重要性を挙げた。過去の美容医療歴を詳細に記載した問診票への署名を求めることや、長期的視点に基づいた治療計画の策定が必要だと述べた。
さらに、美容医療の意思決定は単一の診察で完結すべきではなく、複数回の相談を通じて行うべきだとも強調した。専門医による評価、希望の聴取、十分な情報提供を経たうえで判断する時間を確保することが、安全な医療につながるとした。
こうした議論は、日本の美容医療でも徐々に話題になりつつあり、今後さらに注目される可能性がある。
