肌を切らないシワ取り治療として、コラーゲンなどを注射して皮膚を盛り上げる治療方法がよく知られていますが、この治療法をフィラー注射と呼びますフィラー(filler)とは“充填する、満たす”という意味で、シワやくぼみに専用の薬剤を充填しシワを改善します。この充填に用いる薬剤をフィラー製剤と呼びます。
2010年頃までは主にコラーゲンがフィラー製剤だったのですが、近年ヒアルロン酸をはじめ様々特長を持つフィラー製剤が開発、利用され始めました。
その結果、フィラー治療はただシワを埋めるだけの治療から顔全体の輪郭を整える治療へと変化しました。
本記事では現在用いられているフィラー製剤の特長と治療で出来る事を紹介します。
フィラー治療の知識を付けて、自分に合った製剤、治療を選べるようになると安心です。
フィラー製剤の種類と特長
フィラー製剤は大きく分けて2種類あります。身体の中で分解吸収される“吸収性フィラー”と分解されず半永久的に身体の中に留まる“非吸収性フィラー”です。
非吸収性フィラーは1度の治療で半永久的に効果が持続するというメリットはありますが、治療後に様々なトラブルが報告されている事と、問題が生じた場合も除去が困難である為推奨されません。
コラーゲン製剤
コラーゲン製剤はもっとも古くからあるフィラー製剤です。以前はウシやブタ由来のコラーゲンが用いられていましたが、アレルギー反応の問題から現在では”ベビーコラーゲン”と呼ばれるヒト由来のコラーゲンが用いられる事が多いです。
真皮層や皮下浅層の皮膚の浅い小ジワや眼元のちょっとした小ジワなどの治療に用いられ、通常6カ月程で分解・吸収されます。
ヒアルロン酸製剤
現在最も多く使用され、フィラー治療の主流となっているのがヒアルロン酸製剤です。
硬さや質感が異なるヒアルロン酸製剤が多種販売されており、シワ取り以外にも関節痛の緩和など様々な用途に利用されています。
ヒアルロン酸自体にはアレルギーのリスクはほとんどありませんが、製剤に凝集性や硬さを与える為に添加される架橋剤(BDDE)の影響で稀にアレルギー反応が起こる事があると考えられています。
ヒアルロン酸も体内で分解吸収されますが、持続期間は製剤によって異なります。
また、ヒアルロン酸は体内で分解される際に[線維芽細胞やコラーゲン線維などの皮膚組織に置き換わる働き](バイオスティムレーター)がある事が確認されています。
万が一、接種後トラブルが生じても「ヒアルロニターゼ」という製剤で速やかに分解できることもヒアルロン酸の大きな特徴です。
カルシウムハイドロキシアパタイト製剤
ドイツの製薬会社メルツ社が開発したレディエッセと言う製剤が代表的です。
治療後9~12カ月持続するとされています。
体内で分解される際にコラーゲン線維芽細胞が形成される事が証明されており、シワ埋めだけでなくバイオスティムレーターとして用いられる事が多い製剤です。
口唇に接種した場合、結節が出来るリスクがある為口唇には使用できません。
PCL製剤
イギリスのシンクレア社が開発したエランセと言う製剤が代表的です。
PCL(ポリカプロラクトン)とカルボキシメチルセルロースと言う成分が主成分で、元々は手術の際の縫合糸に用いられてきた成分です。生分解性でありながら長期の持続性があります。またカルシウムハイドロキシアパタイト同様のコラーゲン形成促進効果が証明されており、バイオスティムレーターとしても注目されています。
信頼できるフィラー製剤の選び方
フィラー製剤は様々な会社から販売されていますが、中には品質のあまり良くない物もあります。フィラー製剤を選ぶ基準として、「厚生労働省の製造販売承認」、「アメリカのFDA承認」、「EUのCEマーク取得」などを得ている信頼できる製剤を選ぶと良いでしょう。
コラーゲン製剤
ベビーコラーゲン アメリカ Regenerative Medicine International社製 FDA承認済み
ヒアルロン酸製剤
ジュビダームシリーズ アラガンジャパン社製 国内認証 取得済み
レスチレンシリーズ ガルデルマ日本社製 国内認証 取得済み
テオシアルシリーズ スイスTeoxane社製 欧州CEマーク 取得済み
PCL製剤
エランセ イギリス シンクレア社製 欧州CEマーク 取得済み
カルシウムハイドロキシアパタイト製剤
レディエッセ ドイツ メルツ社製 FDA承認済み
フィラー治療で出来る事
フィラー治療はシワに製剤を注入してシワを解消する技術ですが、単純にシワと言っても小じわや中程度のシワ、大ジワや窪み、表情ジワなど沢山の種類があります。
これらの中にはただフィラー製剤を注入するだけでは改善の難しいものや、不自然な仕上がりになってしまう物があり問題となっていました。
近年ではフィラー製剤の進歩で様々な注入方法が開発され、様々なシワに対応出来るようになり、またただシワを取るだけでなく輪郭を整え、美しく仕上げる事が出来るようになりました。
図 |
注入方法 |
効果 |
気になるシワに注入する。 |
最も一般的な治療方法、シワを盛り上げ改善する。細かすぎるシワへの対応は難しい。 |
|
肌の浅層に薄く注入する。 |
肌にボリュームを出し質感を改善出来ます。真皮層のコラーゲン増産も期待できます。細かなシワに対応できる。 |
|
皮膚の支持靭帯を支えるように注入する。 |
皮膚を持ち上げている支持靭帯を支える事で、たるみの解消、輪郭改善が期待できる。 |
|
表情筋の下に注入する。 |
表情筋の下に注入する事で、表情筋の動きを抑制し表情ジワの発生や進行を改善します。 |
フィラー治療の注意点
フィラー治療の注意点 製剤選びに気を付けましょう
近年、様々なフィラー製剤が発売され種類が増えていますが、中には持続期間が非常に長いが分解剤が存在しないフィラー製剤や使用実績の少ない製剤もあります。
医師としっかり相談してフィラー製剤は選びましょう
治療後、治療していない部位のシワが顕在化する場合がある 例えば、たるんでいた頬を持ち上げるようにフィラー治療すると今度は眼下にシワがよるケースがあります。このような場合は頬と眼下をセットで治療する必要があるので注意しましょう。
実績が有り信頼できるクリニックを選びましょう
フィラー治療の結果は美的感覚によってされるので成功・失敗の判断が難しい治療です。 また、治療にはしっかりとした知識と技術が必要とされる為、信頼できるクリニックで治療を受ける事が何よりも重要です。
まとめ
一昔前のフィラー治療はシワをコラーゲンで埋めるだけの単純な物でしたが、現在はフィラー製剤も多種多様になり、注入技術も進歩しました。 現在ではむしろ、シワを直接埋めるのではなく、周りの組織をボリュームアップしたり皮下コラーゲンの合成を促進したりしてシワを改善する治療方法が主流と言っても良いかもしれません。しかしその分、医師には知識と高い技術が求められるようになり、正しいフィラー製剤の選択も重要となりました。
自分の目的に合ったフィラー製剤を選び、信頼できる医師を見つける事がフィラー治療の最も重要なポイントかもしれません。