「直美」の問題が大きな注目を集めているが、そのためのルール作りはまだ先が見えない。
しかし、最近の国や関連団体の動きを見ると、その方向性がおぼろげながら見えてきた。。それらの動向から、今後の変化をある程度予想することができる。筆者は、「直美」に関して最低でも皮膚科分野での影響が現れるのではないかと予想している。美容医療を受ける立場から見れば、美容医療を提供する医師の技能が高まる方向になるため、歓迎すべきだろう。果たして、今後どのような展開になるのだろうか。
※「直美」とは、医学部を卒業後、2年間の初期研修を終えた直後から美容医療の道に進むこと。
美容医になるにも条件が設定される可能性
- 日本病院会の提言→初期研修後に自由診療の美容医療へ進む「直美」の増加を問題視し、一定期間保険診療に従事させる規制を提案
- 保険診療経験の条件→医師が開業する際、卒業後に保険診療経験を一定期間積むことを条件とする規制が検討されている
- 今後の注目点→日本病院会の提言が国の公式ルールに発展するか、また新たな開業規制が美容医療にどのような影響を与えるかが注目される
まず、私が注目したのは、日本病院会という団体が11月19日に厚生労働大臣に提出した提言だ。
この提言の中で、「直美」について明確に言及されていた。抜粋すると、次のように書かれている。
「美容外科については、2年間の臨床研修修了後にそのまま自由診療の美容医療の分野に進む、いわゆる『直美』が増えている。医師養成には国費が投入されており、国民の医療を守ることが前提となっていることを踏まえれば、一定期間、保険診療に従事させる等、何らかの規制、対策が必要ではないか」
医師は、医学部を卒業した後、2年間初期研修を終えなければ、自律して患者を診ることができない決まりがある。そのため初期研修は義務となっている。しかし、逆に言えば現在は初期研修を終えれば自由に患者を診ることができる。
一方で、初期研修を終えた後に、専門的な医療を修めるために専門研修に進む道があり、それを経て専門医の資格を取ることができる。しかし、「直美」と呼ばれる医師は、初期研修を終えた後に専門研修には進まず、美容医療のチェーンなどに就職する。このような直美の医師については、技能が未熟だったり、倫理観が欠けていたりするのではないかと問題にされることがある。
これに対して、日本病院会では、自由診療の美容医療に直接進むのではなく、初期研修後にも保険診療で病気の人々を診療する期間を経験しなければならないと提案している。これは実現すれば「直美」をなくしていく直接的なルールになる。
国としてはまだ、日本病院会が提言した内容である「初期研修の後に保険診療を経験させなければならない」という話は具体的に動き始めていないと見える。この日本病院会の提言が今後、国の公式なルールにまで発展するかどうかは、注目されるポイントの一つになるのではないか。
一方、2024年11月28日に社会保障審議会医療部会が開催された。この会合では、「外来医師多数区域における新規開業希望者への地域で必要な医療機能の要請等の仕組みの実効性の確保等について」と題した方針が示されていた。この中で「新たな地域医療構想等に関する検討会」での議論内容をまとめた資料も提示された。
具体的には、医師が過剰に集中する地域で新たに開業を希望する医師に対し、地域が必要とする医療機能(例えば、救急医療など)を提供することを要請し、その実効性を確保しようとするものである。その一環として、医師が卒業後に一定期間、保険診療の経験を積んだ者のみが開業できるようにするというルールが提案されている。これは、保険診療を通じて幅広い医療経験を持つ医師が地域医療に貢献することを促進する狙いがある。
美容医療を開業しようとする場合、保険診療を行わないケースも多いため、この規制の対象外となる可能性もある。しかし、美容皮膚科は保険医療機関として登録している場合が多く、皮膚科として保険診療を全く行わずに開業することは現実的には難しいのかもしれない。したがって、保険診療の開業を行う際に保険診療の経験が求められるとすれば、「直美」は開業の道が閉ざされることになる。これらを踏まえると、皮膚科分野における「直美」は今後減少していく可能性が高いと言える。
直美関連のルール作りどうなる?
現時点では、国の審議において「直美」について本格的な議論が行われているとは言えない。しかし、これまでに紹介した2つの動き─日本病院会の提言と社会保障審議会医療部会の方針─は、今後注目される可能性がある。
これらを総合的に考慮すると、次のようなことが言えるのではないか。
- 美容医療の医師になるためにも、保険診療の経験を積む必要が出てくる可能性がある。
- 医師が多い地域で美容医療のクリニックを開業し、かつ保険診療も行う場合、それ以前に保険診療の経験を積む必要がある可能性がある。
これらの動きはまだ具体的に始まってはいないが、今後、美容医療に大きな変化をもたらす可能性があるだろう。引き続き、この動向に注目していきたい。