マイクロ波による腋窩多汗症治療機器の使用者で死亡事故、医学会が適正使用呼びかけ
ポイント
- 日本で健康な女性が腋窩多汗症治療機器による治療を下腹部周辺に対して受けた後に死亡する事例があった
- 日本の7つの医学会・団体が死亡事案で使われた治療機器の正しい使用法について注意喚起を行なった
- 腋窩以外に対する使用は重大な副作用・合併症につながる可能性があると指摘された
2023年1月、日本の医学会を中心とした7医学会・団体が、マイクロ波による重度の原発性腋窩多汗症の治療を目的とした医療機器(一般的名称マイクロ波メス、商品名Miradryシステム、以下ミラドライ)使用者の死亡事例発生を受けて、正しく使用するよう注意を呼びかけた。
※重度の原発性腋窩(えきか)多汗症は、汗の分泌が促される病気がないにもかかわらず、過剰な発汗が脇の下に続く症状を言う。腋窩とは脇の下のこと。
東京医科歯科大学の研究グループが2022年5月に報告
ミラドライは、米国ミラドライ社が製造し、国内ではジェイメックが販売している医療機器で、重度の腋窩多汗症の治療を目的として2018年6月に承認を受けた。死亡事例を報告したのは、東京医科歯科大学法医学分野の温書恒氏らの研究グループ。温氏らのグループは2022年5月、日本法医学が発行する医学誌リーガル・メディシンに、ミラドライによる治療を受けた女性の死亡事故を報告した。
その論文の要点は次の通りだ。ミラドライは、マイクロ波を利用した美容目的の機器で、通常は汗腺を対象にして、過剰な発汗を改善するために使われる。ほとんどの国では、この機器は脇の下の治療にのみが対象になっている。そうした中、日本国内の健康な女性が美容クリニックで下腹部の周囲を含む部位に対してミラドライの治療を受けることがあった。治療後、女性は発熱や出血など、深刻な副作用が起こった。その後、全身にも症状が現れ、病状は急速に悪化し、6日目に亡くなった。
治療部位の皮膚、病院および死後の解剖で採取されていた血液から、A群レンサ球菌という種類の細菌が検出された。臨床および解剖の所見から、女性の死因は、細菌により悪化した致死的な壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)と判断された。細菌はミラドライ治療による皮膚損傷から体内に侵入したと考えられた。
研究グループは、「美容医療において性器や肛門周辺にミラドライが使用される可能性があるが、この症例によって、まれではあるものの致命的な合併症が起こり得ることが示された。今回の症例報告は、法医学と美容医療の双方にとって重要」と指摘した。以上が論文の要点である。
7つの医学会と団体が注意喚起の発表
今回の件を受けて、2023年1月27日に、医学会が適正使用に関する注意喚起をした。発表には次の学会の代表者が名を連ねている。
- 公益社団法人日本皮膚科学会理事長 天谷雅行氏
- 一般社団法人日本形成外科学会理事長 森本尚樹氏
- 一般社団法人日本美容外科学会(JSAPS)理事長 武田啓氏
- 一般社団法人日本美容皮膚科学会理事長 山本有紀氏
- 日本発汗学会理事長 中里良彦氏
- 公益社団法人日本美容医療協会理事長 青木律氏
- NPO 法人多汗症サポートグループ 理事一同
なお、論文で報告された事例は係争中案件であるという。医学会・団体の発表では、ミラドライの施術が死因に直接関わったかは現時点で定かではなく、今回の事例では、ミラドライが重度の原発性腋窩多汗症治療を目的に使用されたわけではないが、ミラドライの適正使用の内容について改めて確認をお願いすると求めた。
その上で、ミラドライが高度に管理されるべき医療機器であり、重度の原発性腋窩多汗症の治療にのみ使用されるべきであると強調した。腋窩以外の多汗症発症部位については、ミラドライの有効性や安全性は確立されておらず、これらの部位への使用は推奨されていない。そのため適用部位以外での使用は重大な副作用や合併症につながる可能性があると注意を促している。
なお、ペースメーカーなどの電子機器を体内に埋め込んでいる人、腋窩部に金属製のインプラントやタトゥーを入れている人、治療部位に悪性腫瘍や皮膚悪性腫瘍がある人は重大な事故や副作用のリスクがあるため、使用は禁止されている。
また、警告には、水溶性潤滑剤以外の潤滑剤を使用しないこと、可燃性ガスの近くで装置を操作しないことなどの使用上の注意も示された。
以上が、医学会による注意喚起の要点となる。
日本形成外科学会の元理事長も注意喚起
日本形成外科学会の元理事長で大阪大学名誉教授であり、現在は大阪みなと中央病院長を務める細川亙氏はいち早くこの案件の問題を受け『形成外科』(克誠堂出版)にコメントを寄せ、ミラドライが認可された部位以外でも使われている現状と、安全と考えられている医療機器でもまれに重大な事故を起こしうる点についての注意喚起をした。
細川氏は、「本事例については患者生存時の会陰部の自撮り写真を確認したが、ミラドライによるマイクロ波照射部位にIII度熱傷が発生していたと見られ、照射を原因とする事故であることは明らかと考えている。私の病院でもミラドライは使っているが、このような高度の熱傷事故は、普通は起こらないものだ。どのような使い方をするとこのようなことが起こるのか、また、認可された腋窩での使用ならば決して起こらないことなのかというような疑問を十分に検討したうえで、しっかりと対策を明確にしていくことが重要」と指摘した。
参考文献
miraDry システム(医薬品医療機器総合機構)
https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/md/PDF/340679/340679_23000BZX00161000_1_01_02.pdf
審議結果報告書(医薬品医療機器総合機構)
https://www.pmda.go.jp/medical_devices/2018/M20180611001/340679000_23000BZX00161000_A100_1.pdf
Wen S, Unuma K, Makino Y, Mori H, Uemura K. Fatal consequence after MiraDry® treatment: Necrotizing fasciitis complicated with streptococcal toxic shock syndrome. Leg Med (Tokyo). 2022 Sep;58:102095. doi: 10.1016/j.legalmed.2022.102095. Epub 2022 May 30. PMID: 35662070.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35662070/
医療機器承認を受けた miraDryの適正使用に関する注意喚起(医薬品医療機器総合機構)
https://www.pmda.go.jp/files/000250194.pdf
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