悪貨は良貨を駆逐するという言葉がある。これは美容医療に関連して言及されることがよくある。美容医療の分野ではトラブルが続出していることが問題視されているが、新たに社会の厳しい視線を集める問題が発生した。献体を用いたトレーニングで、解剖の様子をSNSに軽率に投稿したというものだ。
敬意、想像力、倫理観が欠如
- 問題の発端→ 女性美容外科医師が米国グアムで献体を用いたトレーニング中の写真をSNSに投稿し、軽率なコメントを添えて批判が殺到。
- 投稿内容→ 背景に献体が写った写真や、解剖実習中の風景でピースサインをする写真に加え、「いざFresh cadaver解剖しに行きます!!」「頭部がたくさん並んでるよ」というコメントが問題視された。
これは既に一般のメディアでも報道されたが、女性の美容外科医師が米国グアムで、献体を用いたトレーニング中の風景を、背景に献体がそのまま写っているにもかかわらず、写真を投稿したり、解剖実習の風景で暢気にピースサインをするなどして撮影した写真をSNSに投稿したというものだった。しかも、写真の一部には「いざFresh cadaver(新鮮な御遺体)解剖しに行きます!!」「頭部がたくさん並んでるよ」(原文ママ)というコメントも付けられていた。これらのコメントは、医学的な尊厳を損なう軽率な表現とみなされている。
一連の写真は、SNSで再投稿されており、批判が殺到している状況だ。
これはいくつもの点で問題といえる。
手術のトレーニングのために、献体を用いることは日本国内外で行われているが、それは解剖学的なトレーニングのために提供されたものとなる。人体の皮膚や筋肉、血管、神経などの構造は医学的に貴重な情報になるが、人が生きた状態で詳しく観察するのは難しい。そのため献体の提供を受けて、その解剖によって初めて学べるものになる。そうして提供された献体は敬意を持って扱うべきで、女性医師の行動は敬意の欠如が明らかだ。
SNS投稿での写真公開は認められるべきではない。献体の提供は医学の発展に寄与するものとして行われるもので、安易に公開されるために行われたのではない。何が問題かは難しく考えなくても明らかに理解できるはずだ。想像力の欠如も指摘できる。
医療従事者として、医療倫理の遵守、献体として自らの身体を供した方や社会への敬意などの社会的責任も放棄した行動だ。医療従事者は、一般から高い倫理観を求められ、プロ意識も人一倍期待されている。それゆえに尊敬に値する存在と見なされている。そうした立場の人が、倫理観が欠如した行動を取るのは厳に慎むべきだ。
こうした倫理的な問題は、今回グアムで献体を用いたトレーニングが行われたようだが、海外でも共通していると考えるべきだ。米国だから、献体に対する敬意が要らないとはなり得ない。国際的に求められる共通の倫理的な基準に反すると見るべきだろう。主催した医療機関も、そうした最低限のルールを定めていなかったというルールの徹底不足が考えられる。
モラルハザードは過去にも問題に
- 医療分野のモラルハザード→ 過去には個人情報や臓器写真のSNS投稿が問題化し、医療従事者の退学や解雇につながる例もあった。
- 社会的影響→ 今回の件は、美容医療だけでなく医療全体の信頼性を問う事態に発展する可能性がある。
- 対策の必要性→ 倫理教育の強化、SNS利用のガイドライン制定など、直ちに取り組むべき課題が山積している。
敬意、想像力、倫理観の欠如など、問題は数え上げれば切りがないが、美容医療に寄せられる社会の批判が強まることは間違いない。
そもそも献体を用いたトレーニングは、医療全般にとって重要と見なされる。これは美容医療にとっても重要と考えられている。適切な手術のためには、解剖学的知識と他の手段では得られない経験が欠かせない。日本美容外科学会(JSAPS)が委員会を設けて国内でも献体を用いたトレーニング(CST)として重要視している。そのトレーニングは、倫理観が保たれていることが大前提と考えるべきだ。
そうした中で、美容外科医による問題行動があることで、他の正当に行われている献体を用いたトレーニングにも悪影響を及ぼすことが懸念される。献体を提供しようとする人々や家族が、提供を控える動きにつながりかねない点も心配だ。
今回の問題では、海外での献体を用いたトレーニングに関連した問題点も関係している可能性がある。というのは、美容医療の分野では、海外で献体を用いたトレーニングが行われてきたが、それらは関連企業の事業として行われている側面がある。ヒフコNEWSでも伝えているが、利益追求が優先される懸念の声が上がっている。結果として、倫理的な規律が後回しにされ、今回のような不用意なSNSへの写真投稿や献体の尊厳の冒涜といった問題につながりやすくなっているとすれば問題だ。国内で、献体を用いたトレーニングを可能にしていこうという動きは、海外での献体を用いたトレーニングの問題につながりやすい実施体制への懸念も背景にある。
医療分野では、インターネットでの不適切な情報の遺漏が幾度も問題になってきた。文献によると、「医療系学生・医療専門職が起こしたモラルハザード」としては、個人情報をインターネットにアップロードしたり、臓器の写真をSNSに投稿したりする問題が発生している。そうしたケースでは、学生の自主退学、医師の懲戒解雇につながる例もある。今回の非難が殺到した件は、一医師の問題にとどまらず、美容医療全体、ひいては医療全体の問題として、社会全体が医療の信頼性を問う事態に発展しかねない。倫理教育の強化、SNS利用のガイドライン制定を含め、直ちに取り組むべき対策は多いだろう。