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合併症、術後トラブル──美容医療ツーリズムという選択に対して安全に臨むための視点とは、「メンタルケア」「整形証明書」などの盲点も、日本形成外科学会 市民公開講座より【編集長コラム】

カレンダー2025.4.18 フォルダー連載・コラム
第68回日本形成外科学会総会・学術集会。(写真/編集部)

第68回日本形成外科学会総会・学術集会。(写真/編集部)

 医療観光(医療ツーリズム)として海外で美容医療を受ける人が増えているが、入念な事前情報の収集が重要といえそうだ。

 第68回日本形成外科学会総会・学術集会の市民公開講座に登壇する機会を得た。「医療ツーリズムって本当に大丈夫?~医療ツーリズムから、美容外科を受診する注意点を考える」というタイトルで医療観光の課題を考える内容だ。

 当日は、東京赤坂見附にある学会場とはやや距離を置いた会場で開催されたが、会場は座席の多くが埋まり、関心の高さを感じられるものだった。

ブームの裏にリスクも

韓国の医療観光のために渡航する人数の推移。(出典/韓国政府メディカルコリア資料)

韓国の医療観光のために渡航する人数の推移。(出典/韓国政府メディカルコリア資料)

  • 韓国美容医療の利用者増加→ 2023年には韓国への医療観光渡航者が約60万人、日本からの訪問者が最多で18万7000人超に。
  • 利用理由とイメージ→ 「安さ」や「みんながやっているから」といったイメージが先行し、効果や安全性よりも雰囲気で受けるケースも。合併症やトラブルのリスクがある。
  • トラブル事例と課題→ 小陰唇縮小術後の傷口トラブル、施術後の飛行機搭乗拒否、仕上がりへの不満によるメンタルケアの重要性など、多面的な問題が指摘された。

 ヒフコNEWSでは、韓国の美容医療について継続的に取り上げているが、特に韓国の美容医療に対する関心は年々高まっている。司会を務めた神戸大学客員教授の原岡剛一氏は、韓国のデータを示した上で、韓国での医療観光の利用者増加を説明した。新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年から22年までは訪韓者は減ったものの、23年は韓国への医療観光目的の渡航者は約60万人に上り(上図)、日本からの来訪者が最も多く、18万7000人を超えた。

 原岡氏は、海外の医療観光が抱える問題を考察することが、国内における美容医療の受け方を見直すうえでも重要な視点になると述べ、議論を促した。

 ここからは、医療観光をめぐる実際のケースや、利用者が直面する問題点を取り上げていく。

 そもそも韓国での医療観光が人気である理由について、美容編集者/エッセイスト/コピーライターの麻生綾氏は、「安さ」や「みんながやっているから」というイメージが先行している面があると述べた。美容医療がその効果や安全性というよりも、イメージだけで受けられ、その結果、合併症が発生することもあり、トラブルに発展するケースも少なくないとされる。

 テレビディレクターの木皮ひかり氏(テレビマンユニオン)は、トルコでの植毛手術を取材した経験を紹介。同国では医療観光が定着し、現地で植毛の施術を受けた後に、ガーゼを頭に当てて血がにじんだ状態の人も珍しくなかったと述べた。医療観光の名前の通り、施術直後でも通常通り観光している光景が当たり前のようになっていた。周囲の視線を気にせず行動できることが、医療観光が好まれる理由の一つではないかと話した。

 一方で、韓国で美容医療を受けて、合併症をはじめとするトラブルを経験する人もいる。原岡氏と共に司会を務めたスワンクリニック院長の福澤見菜子氏は、韓国で小陰唇縮小術を受けた女性が、帰国後に傷口が閉じずに来院してきたケースを紹介した。

 医療観光での美容医療の課題について参加者からいくつもの指摘があったが、麻生氏は美容に関心の高い人の中には美醜に過度にこだわる人がいるケースがあり、海外で美容医療を受けた場合に仕上がりに不満を感じたとき、メンタルケアが大きな課題になり得ると指摘した。

 木皮氏は美容の施術を受けた場合に、飛行機の搭乗を拒否されるケースがあることを紹介した。帰国時に「整形証明書」といった医師の診断書で、飛行機に乗っても問題がないというお墨付きを得られていないと航空会社が登場を受け入れないということだ。

国内向けチェックリストなど参照を

国が発行している「美容医療を受ける前にもう一度」の資料。(出典/消費者庁)

国が発行している「美容医療を受ける前にもう一度」の資料。(出典/消費者庁)

  • 安さへの過度な注目→ 費用の安さに心を奪われがちだが、それだけで美容クリニックを選ぶのは危険。
  • クリニック選びの重要ポイント→ 医師の経歴や経験、資格、安全対策、アフターケア、相談対応など、多角的な視点での評価が必要。
  • チェックリストの活用→ 消費者庁のチェックリストなどを参考にし、複数の観点からクリニックの適正を見極めるべき。

 筆者も課題について説明したが、韓国をはじめ美容医療の施術を受けるための費用が安いことから、そこに心を奪われがちであることを強調した。美容クリニックを選ぶ基準には、安さだけではなく、医師の経歴や経験、資格の有無、安全対策、アフターケア、相談への対応など、さまざまなポイントから検討することができる。

 木皮氏は消費者庁の国内向けの美容医療を利用する際のチェックリストを紹介し、このようなチェック項目を参考にし、複数の視点から美容クリニックを評価することが重要と語った。

 ヒフコNEWSで伝えている通り、韓国は政府を挙げて医療観光を推進しており、ファシリテーターや美容クリニックの活動も積極的だ。一方で、後々、合併症が発生すれば重大な問題となることから、クリニック選びは十分に慎重になることが必要だろう。

第68回日本形成外科学会総会・学術集会の市民公開講座。右から麻生氏、福澤氏、原岡氏、木川氏、筆者。(写真/福澤見菜子氏)

第68回日本形成外科学会総会・学術集会の市民公開講座。右から麻生氏、福澤氏、原岡氏、木川氏、筆者。(写真/福澤見菜子氏)

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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