整形失敗SNS投稿が名誉毀損に?クリニックからの削除要請どう考えるとよいか、弁護士に聞く
美容医療を受けた場合のトラブルがSNSなどで話題になることがある。被害者が整形失敗などのトラブルの写真や詳細を投稿することもあるが、その際にクリニックから削除依頼が送られることがある。被害者は名誉毀損の可能性を指摘されることもあり、心配から自主的に削除することもある。しかし、同じ被害を受けないように注意喚起したい思いがあるのに削除する必要はあるのか、また名誉毀損の可能性はあるのか。ベリーベスト法律事務所高崎オフィス弁護士の瀬戸章雅氏に、名誉毀損や投稿削除の考え方などを聞いた。
瀬戸章雅(せと・あきまさ)氏
ベリーベスト法律事務所高崎オフィス弁護士
──X(旧Twitter)などSNSで被害を書き込むとクリニックから削除せよと連絡が来るケースがよくある。そのときに名誉毀損と指摘されることもあるが、そもそも名誉毀損とは何か?
瀬戸氏: 名誉毀損とは違法に対象者の社会的な評価を低下させることをいいます。
──投稿が名誉毀損に該当する場合、名誉毀損をされた側はどのような対応をとることになるか?
瀬戸氏: ある投稿が名誉毀損に当たる場合には、刑事事件と民事事件のそれぞれの対応が考えられます。刑事事件としては刑罰が科されることとなり、民事事件としては損害賠償(慰謝料など)請求や名誉毀損に当たると判断された投稿などの削除請求がなされます。
──クリニックでの美容医療の失敗に関するSNSの書き込みが名誉毀損になるのはどういうとき?
瀬戸氏: 単に真実を並べただけ、施術を受けたことの感想を述べただけ、であれば名誉毀損に該当することはないでしょう。実際にはなかった失敗をあたかも存在するかのように記載していたり、個人の感想の域を超えて施術を担当した人物に対する個人攻撃を行ったりすると、名誉毀損に該当すると判断される可能性があります。ただし、実際に名誉棄損に該当するかどうかの判断は、特に個人の意見なのかそれを超えた内容なのかを法的に明確に線引きすることは難しく、多くの場合には微妙なラインでの判断が求められます。
──具体的に問題になり得るのはどういう場合か。
瀬戸氏: 施術後の結果を「こんな感じになってしまった」と写真と共に投稿し、「このクリニックには行かない方がいい」という意見を述べることを例にして考えます。
こういった投稿は、クリニックからすれば不快な書き込みといえます。
しかし、施術の結果が真実であって、また、一個人としての施術を受けた感想を記載しただけでは名誉毀損には該当しません。
問題となるのは、例えば、施術結果が満足いくものでなかったことの腹いせに、クリニックの関係者の容姿を否定したり、言動を馬鹿にしたりする場合です。これらは正当な意見とはいえないため、名誉毀損に該当すると判断されるでしょう。
──被害者が施術の証拠写真を持っている場合、これは被害を告発することの正当化に役立ちますか?
被害を受けたことを発信する際に、写真を添えなければならないわけではありません。
ただ、単に「この施術を受けて、●●という結果になった」と事実を述べるだけでは、読み手からするとその事実が真実なのかどうか判断がつきません。クリニックにとっては証拠になり得るものがないことから「根拠なく批判している」などという理由で名誉を傷つけられたと主張してくることも考えられます。
他方で、証拠写真を添えて実際にされた施術とその結果を説明すれば、その投稿の信用性が高まりますし、クリニック側からしても反論することが容易ではなくなります。ただし、その写真をインターネット上にアップすれば、知人が見るとご自身のことだと気づかれることもありますし、無断で使用されるリスクもありますので、その点には十分に注意が必要です。
──名誉毀損の話題の中で「違法性阻却事由」という言葉が出てくることがあるが、それはどういう意味か?
瀬戸氏: 「美容整形の施術で被害を受けた」という事実が広がれば、クリニック側の評判が下がります。評判が下がるような投稿が一切許されないとすれば、自由な言論が行えなくなり、社会にとって有益でありません。
そこで、特定の場合には、たとえ対象者の評価が下がることになったとしても、その投稿をすることが許容されます。その要件を定めたのが名誉毀損における違法性阻却事由です。民事と刑事で異なる点がありますが、ここでは、具体的には「公共性(公共の利害に関する事実であること)」「公益目的(専ら公益を図る目的でなされたこと)」「真実性(摘示した事実が真実であること)」の3つがあることを違法性阻却事由の要件として説明します。
細かく整理すれば、他の要件が要求される場合もありますが、今回のインタビューではこれらの重要な点に焦点を当ててお話しします。
例えば、「施術が失敗した」ことを投稿したとします。
美容整形において施術の成否はクリニックの適性に関する事項であり、美容整形を受ける方たちを中心に社会的な関心の対象であるといえますので、「公共性」があるといえます。
また、投稿された内容を見て、施術した医師の人格攻撃などが含まれていなければ、施術の失敗という事実を発信することで、これからそのクリニックで美容整形を受けようとしている方に適切な情報提供を行って、その方の判断に役立ててもらおうとしていたものであったといえ、「公益目的」があるといえます。
さらに、この事実が真実であることを証明できれば「真実性」が認められます。
──公共性、公益目的があり、真実であることが重要。
瀬戸氏: その通りです。公共性、公益目的が争われることは相対的に少ないです。最も争われるのは真実性の点です。被害に遭ったこと投稿した場合、クリニック側はその事実を否定することが多いでしょう。そのため、投稿者は投稿した内容が真実であることを証明する必要があります。だからこそ、証拠がないと不利になることが多いです。
──同意書などでリスクについては説明したと指摘される場合もある。
瀬戸氏: 同意書や契約書が存在して、施術のリスクが説明されていたとしても、その内容が十分かどうかは判断が難しい場面があります。特に、明らかな施術時の失敗でなく、施術前の説明時に施術に伴うリスクとして説明されていた項目の通りになって、希望していた施術結果にならなかった場合、これをそのクリニックの失敗として情報発信することは問題になり得ます。施術を受けた側からすれば、自身の希望に沿わない結果となったことから「失敗された」と考えると思われますが、正しく施術がなされた場合でも起こるリスクが生じただけであるとすると、「失敗」とまでいえず、真実性が認められないおそれもあります。ただし、施術前にリスク説明がなされていたとはいえ、そのリスクが通常の施術であれば起こり得ないようなことであるとすれば、たとえ説明をされていたとしても「失敗」と言い得る場合もあるでしょう。
このような点は、結局のところ、医学的に何が正しいかを判断しなければ情報発信の当否の判断ができませんので、情報を発信する際には注意が必要です。
──美容医療の施術の被害を消費生活センターに報告するという選択がある。それは効果を持つか。
瀬戸氏: 消費生活センターでは相談窓口としての役割を持っています。事例によっては交渉の手伝いをしてくれることもあるようですが、基本的には交渉の方法や解決策の助言をしてくれるところです。そして、全国の消費生活センターなどから情報を収集し、発生しているトラブルやそれに対する対応について広く情報提供を行うのが国民生活センターです。施術の被害を受けている例が多く集まれば各センターが連携して動くことも期待できますので、その点で相談することには効果があります。ただし、被害を受けたことに対する損害賠償請求などの対応をしてくれるわけではありませんので、そのようなことは弁護士に相談するのがよいでしょう。
ですから、SNSの投稿をするときには、感情的にならずに、事実だけを冷静に伝えることが重要と言えるでしょう。感情が先行して個人攻撃のように見えないように気を付けるべきです。事実をきちんと伝えていれば削除される理由はありません。
それでも、クリニック側からの通知等で不安を感じたら、専門家に相談することを勧めます。ケースによって対応は異なるため、一つ一つ状況を確認して対応するのが良いでしょう。
SNS投稿の注意点
- 感情的にならず事実だけを冷静に伝える。
- 個人攻撃のように見えないように気を付ける。
- 投稿内容が事実であることを証明する証拠を持つ。
プロフィール
瀬戸章雅(せと・あきまさ)氏ベリーベスト法律事務所高崎オフィス弁護士2010年、同志社大学法学部法律学科卒業。12年、東京大学法科大学院修了。16年12月最高裁判所司法研修所(東京地方裁判所配属)修了。16年、ベリーベスト法律事務所入所。22年9月、群馬県警本部にて「SNSでの被害とその対策」について講演。22年から23年まで上毛新聞紙上でSNSやインターネット上での誹謗中傷問題に関するコラムを掲載。
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