美容目的で健康保険での処方を受ける人が増えていることで問題になっている「ヒルドイド」だが、10月より健康保険で処方してもらった場合の自己負担が引き上げられることになった。
今回、自己負担引き上げの対象になるのは、既に安い「ジェネリック」が存在している「先発薬」で、2024年4月19日に厚生労働省が、ヒルドイドを含め自己負担が上がる1095種類の医薬品のリストを公開した。
値段引き上げの理由は「ジェネリック」の利用を増やすこと
そもそも今回注目されているジェネリックや先発薬とは何だろうか。
新しく開発された薬は一定期間は他社が同じ成分の薬を販売できないように特許で守られるが、特許が切れると他社も販売できるようになる。このように最初に販売された「先発薬」に対し、特許切れとなり後から値段を抑えて販売される薬のことを「ジェネリック」または「後発薬」という。
先発薬はジェネリックと同じ成分であるものの、長く使われた安心感などから好んで使われ続けることがあるが、一方で、日本の医療費は増加を続けており、できるだけ薬代などを節約する必要に迫られている。国としては、先発薬はジェネリックと成分が同じなので、できるだけジェネリックの利用を促したい考えで、これまでもジェネリックの利用を増やす対策を続けている。
今回、ジェネリックが既に存在する先発薬は、価格差のうち4分の1を自己負担にすることにした。
そのような考えの下、厚労省は冒頭のように後発薬の存在する医薬品1095種類を自己負担を求める対象として公表した。
このリストには、対象になる薬のリストと、先発薬の値段、最も安いジェネリックの値段が示された。差額に基づいて、今後は、先発薬の自己負担が決まることになる。
ヒルドイドクリームの場合には、先発薬とジェネリックの価格差が3.7倍あり、リストの中でも価格差が大きい薬といえる。1gの値段が先発薬は18.5円で、最も高いジェネリックは5.6円だ。
従来、ヒルドイドクリーム100gの処方を健康保険で受けた場合、薬の値段は1850円で、自己負担は1850円の3割に消費税を掛けた610円(端数切り捨て)だった。同じ成分の後発薬は、最大でも薬の値段は560円で、自己負担はその3割に消費税をかけた184円(端数切り捨て)となった。
今後は、1850円と560円の価格差である1290円の4分の1に当たる322.5円(税抜き)は「選定療養費」と呼ばれる自己負担になる。健康保険が適用されるのは1850円から選定療養費の322.5円を引いた1527.5円に抑えられる。
そのため、今後支払う金額は1527.5円の3割=458.25円に、322.5円を加えた780.75円に消費税を加えた858円(端数切り捨て)になる。自己負担額は858円ー610円=248円高くなることになる。
- ヒルドイドクリームの価格差→先発薬は1gあたり18.5円、ジェネリックは5.6円で、価格差は約3.7倍
- 健康保険適用前の自己負担額→先発薬は100gで1850円、ジェネリックは560円。先発薬の自己負担額は610円、ジェネリックは184円
- 選定療養費とは→価格差の4分の1、322.5円が自己負担となる
- 自己負担額の増減→先発薬使用時の自己負担が旧610円から新858円へと248円増加
ジェネリックが存在する先発薬のルールとしては今後はジェネリックと同程度まで薬の値段は引き下げられることになる。
「美容目的ヒルドイドに健康保険」は別問題での検討も必要
今回の自己負担の引き上げは、1095種類の薬が関係するため、ヒルドイド以外にも美容医療で処方される可能性のある薬の一部は値段が上がってくると考えられる。
例えば、ニキビで使われることがあるダラシンTゲル(一般名クリンダマイシンリン酸エステル)なども若干自己負担が上がる。
今回の値段の引き上げは、ジェネリックが存在している先発薬の自己負担を引き上げるもので、「ヒルドイドが美容目的で使われている」という問題と直接関係はないものの、ニュースで大々的に問題が報道され、今後は支払うべき値段が上がることで、美容目的での処方は減ってくると予想される。また、ヒルドイドよりも、後発品を優先的に使うという傾向が強まることが考えられる。
一方で、ヒルドイドの成分であるヘパリン類似物質が薬として使われる場合、その適応症は病気やケガであり、美容目的で使われるケースでも健康保険が使われているとしたら、それは別の問題として検討される必要があるのだろう。
また、ヘパリン類似物質そのものは化粧品としての効果を研究する動きもある。美容目的として使う場合には、そのための化粧品が利用される方向へ移っていくのが望ましいのだろう。