ヒアルロン酸のフィラー注射は美容医療の分野で広く使われ、その人気は高いが、合併症を引き起こすことがある。その際、ヒアルロン酸を溶かすためにヒアルロニダーゼという酵素が使われている。
オーストラリアと英国を中心とした国際研究グループが2024年5月にヒアルロニダーゼ使用の現状や課題を調べたところ、使用法がばらつくなどの課題が判明した。
ヒアルロニダーゼ使用にはばらつき
- ヒアルロン酸のフィラー注射→世界的に広がり、ボツリヌス療法に次いで非外科的治療で2番目に多い施術
- 合併症→軽い腫れ、内出血、左右の非対称性、血管閉塞
- ヒアルロニダーゼ→ヒアルロン酸を溶かす酵素、副作用の迅速な解決に必須、使用には注意が必要
ヒアルロン酸のフィラー注射は世界的に実施が広がっている。国際美容外科学会(ISAPS)の調査によると、非外科的治療の中でヒアルロン酸の注射は、ボツリヌス療法に次いで実施件数が2番目に多い施術になっている。
ヒアルロン酸のフィラー注射は合併症を引き起こすこともある。軽い腫れが多くの場合に起こるほか、内出血、左右の非対称性、血管閉塞が発生することが知られている。特に血管が閉塞すると、組織の壊死を引き起こしたり、目の血管を塞がると失明につながったりすることもあり、緊急の対応が必要になる。
ヒアルロニダーゼはヒアルロン酸を溶かす酵素であり、副作用を迅速に解決するために欠かせない薬剤として一般的に使われている。一方で、ヒアルロニダーゼ自体の安全性にも懸念があるなど、使用には注意が必要だ。
今回研究を報告したグループによると、ヒアルロニダーゼ使用に関する明確なガイドラインが存在せず、標準的な使用法が定まっていないという。
そこで研究グループは、医療関係者264人を対象にアンケートを実施した。このうち、20人は特に専門性の高いコンセンサスグループに属していた。アンケートの結果は、一般の回答者と、コンセンサスグループの回答者に分けて分析された。
調査の結果、回答者の認識には大きなばらつきがあることが判明した。
例えば、85%が羊から取られたヒアルロニダーゼを使用していることを認識していたが、11%は供給源を認識していなかった。また、45%が4度で保管していたのに対し、47%は室温で保管していた。オーストラリアとニュージーランドは、粉末を使用前に生理食塩水で溶かす必要があった。
ヒアルロニダーゼは、使用によりアレルギーを引き起こす場合があるが、29%は皮膚の検査を行ったことがなかった。コンセンサスグループの方が、皮膚の検査をしない傾向があった。92%は、アナフィラキシーや水ぶくれや腫れ、じんましんなどの急性反応を観察したことはなかった。
使用するヒアルロニダーゼの量も回答者により異なっていたほか、同意を取るか取らないかにもばらつきがあり、19%は同意を取得していなかった。
統一のガイドラインが求められるとの見方
- 承認状況→多くの国で受け入れられているが、国が有効性や安全性を認めているわけではない。FDAを含め、どの国もヒアルロン酸フィラーを溶かす薬剤としては承認していない
- ガイドラインの問題→存在しないことが問題視され、使用方法にもばらつきがある
- 今後の課題→安全なフィラー注入と副作用への適切な対処が重要。ガイドラインの必要性が国内外で注目される可能性
日本でもヒアルロン酸の注射は一般的で、緊急時にはヒアルロニダーゼが使われることが説明されている。
ヒアルロニダーゼは本来、薬の吸収を早めたり点滴が漏れに対処したりするときに使われる薬で、美容医療でヒアルロン酸のフィラー製剤を尽かすために使うのは国の承認を受けた用途ではない。ヒアルロニダーゼはヒアルロン酸フィラー注射を溶かすために多くの国で受け入れられてはいるが、その有効性や安全性を国が認めていると説明するのは必ずしも正しくはない。米国食品医薬品局(FDA)を含めて、どこの国もヒアルロン酸フィラーを解かす薬剤としては承認していないからだ。そうした中で、海外の報告では、ガイドラインが存在しないことが問題視されており、使い方にもばらつきがある課題が浮上した。
ヒアルロン酸のフィラー注入を間違いなく安全に行うのが大前提ではあるが、副作用への対処を適切に行うことも重要だ。今後、ガイドラインをまとめる必要性が国内外で注目される可能性もある。