ヒフコNEWSでは監修に医療法人医誠会国際総合病院医療美容センター長の細川亙氏を迎えている。日本形成外科学会理事長など歴任。現在は2023年10月に大阪市で新たに開院した医療法人医誠会国際総合病院の医療美容センター長を務める。美容医療の領域では形成外科医の役割が注目されている。形成外科のキャリアを積んできた細川氏から、美容医療のこれからについて聞いた。前半は形成外科と美容外科の関わりについて。(聞き手、星良孝=ヒフコNEWS編集長)
細川亙氏
医療法人医誠会国際総合病院医療美容センター長、大阪大学の形成外科学教室初代教授
- 細川氏→ 大阪大学の形成外科学教室初代教授
- 形成外科の柱→ 外傷、腫瘍、先天異常、美容外科
- 美容医療の課題→ トラブルが増加。安全で安心できる美容医療の提供体制が求められている。
- 最近の課題→ 学会に属していない医師が美容クリニックで診療に当たることも増えた。
- 形成外科の役割→ 再建・修復と美容を担う専門分野として、混乱を収束させる役割を果たす必要がある。
──大阪大学の形成外科学教室初代教授を務めている。
細川氏: 長い間、形成外科に携わってきました。日本では形成外科は皮膚科や耳鼻科や整形外科などから分かれた専門分野で、大阪大学では1999年に皮膚科から形成外科が独立し、それから四半世紀の歴史になりました。形成外科は美容外科と深く関わります。形成外科の柱は、外傷(けが)、腫瘍(がんなど)、先天異常(奇形など)、美容外科です。形成外科を基礎として美容外科は存在しています。
──形成外科と美容外科の違いをどうとらえている?
細川氏: 日本国内では戦後、民間の医院が中心となって美容外科を手掛けていた歴史があります。戦後まもなく設立された日本美容外科学会(JSAS)はこうした民間の医院が中心となった団体として現在まで続いています。一方で、美容外科の領域では手術のトラブルが幾度も問題になってきました。そうした中で、大学の形成外科としても美容医療への関わりを強める機運が1970年代に高まりました。こうして形成外科医が中心となり設立されたのが日本美容外科学会(JSAPS)で、こちらも現在まで続いています。
国内に2つの日本美容外科学会があるのはそうした経緯があるためです。いずれの団体も美容外科を発展させようという考えは共通していますが、形成外科という医療分野を基盤とするかどうかという背景の違いもありますから、方向性を合わせていくのが課題になっています。
さらに現在では、こうした学会のいずれにも属していない医師が美容クリニックで診療に当たることも多く、さらに難しい時代に突入していると感じます。美容外科を担う医師が多様になっている中で、以前にも増して美容医療を原因としたトラブルが起きています。被害に対処できる仕組みを作り、安全で安心できる美容医療を提供する体制が求められており、そうした中で病的な状態を正常に戻す「再建・修復」と、正常をさらに美しく変えていく「美容」を担う基礎的な専門分野である形成外科がこの混乱を収束させる役割を果たさなければならないと考えています。
私としてもこれまでの経験を注ぎ込み、美容医療に取り組んでいます。
- 美容外科への関わり→ 住友病院形成外科で自費診療を行い、美容医療にも携わっていた。
- 純表皮移植法の考案→ 表皮と真皮を分け、真皮の層だけを捨てて表皮を再び体に戻す方法を考案。傷跡が残りにくくなった。
- 美容医療の課題→ 皮膚医療にはまだ分からないことが多く、思い込みで誤った治療を行うと失敗につながる。謙虚に医療に取り組む必要がある。
──美容外科にも長く関わってきた。
細川氏: 私自身が形成外科医としての歩みを始めた財団法人住友病院形成外科では自費診療も行っていましたので、若いころにはある程度の美容医療には携わっていました。しかし大阪大学で形成外科を率いる立場にたってからは私自身は美容医療の実践から離れました。
美容医療との関わりといえるか分かりませんが、美容クリニックで現に行われている医療行為につながる話として記憶に残るのは刺青除去の手術です。1980年代、刺青除去と言えば、表皮と真皮を含めた皮膚を剥ぎとる治療が一般的でした。しかし、皮膚を剥げば醜い傷跡が残ります。そこで、「純表皮移植」という方法を考案しました。これは皮膚を剥いだ後、表皮と真皮の層を分けて、色素を持つ真皮の層だけを捨て、表皮の層を再び体に戻す方法です。これにより、それまでの刺青の除去手術に比べてはるかに傷跡が残りづらくなりました。
──画期的な治療だった。
細川氏: この純表皮移植という方法は大変面白い特徴を持った皮膚移植法であることがその後わかってきました。純表皮をもともとあった場所以外に移植すると、移植先の特徴を持つようになるのです。例えば純表皮移植以外の皮膚移植では、背中の皮膚の細胞を顔に移植してもその細胞は背中の皮膚の特徴を持ち続けます。しかし、阪大形成外科医局で私の下にいた山口裕史博士の研究により、純表皮移植では表皮の特徴が移植先の表皮に変化することが明らかになりました。つまり先ほどの例でいえば、背中の純表皮を顔に移植すると、顔の表皮の特徴を持った表皮に変化するということです。これは皮膚科学の常識を覆す歴史的な発見でした。
美容医療に関係することですが、まだまだ皮膚の医療には分からないことが多く存在しています。脂肪移植や皮膚移植、皮膚の治療が盛んに行われていますが、思い込みで誤った治療を手掛けるのは失敗につながります。謙虚に医療に取り組んでいかねばならないと考えています。
(後半に続く)