美容医療において、フィラー治療は世界的に広く行われており、非吸収性フィラーと吸収性フィラーが使用されている。これらのフィラーは合併症のリスクを伴うため、施術を受ける際には十分な注意が必要である。
オランダのエラスムス医療センターの研究チームは、2024年9月23日に発表した研究で、2011年から2016年と2022年のデータを比較し、非吸収性フィラーと吸収性フィラーによる合併症の発生率に変化が確認されたと報告した。
非吸収性フィラーの合併症リスクと使用の禁止
非吸収性フィラーは、かつて多くの国で広く使用されていたが、合併症のリスクが高いため、その使用は減少傾向にある。オランダでは2015年から非吸収性フィラーの使用が禁止されており、日本でも美容医療診療指針で使用を推奨されていない。
非吸収性フィラーは体内に長期間にわたって残り、遅発性(遅れて発生する)炎症や感染、異物反応による肉芽腫(しこり)形成などの合併症を引き起こす可能性が高い。これらの合併症は施術から数年後に発症することがあり、患者にとって長期的な身体的・精神的負担となる。
11年から16年の間にエラスムス医療センターの皮膚科外来をフィラーの合併症で受診した401人の新規患者のうち、77.6%(311人)が非吸収性フィラーによる合併症を経験していた。
データをまとめると次のようになる。
フィラーの種類 | 患者数(%) | |
---|---|---|
2011~2016年 | 2022年 | |
非吸収性 | 311人(77.6%) | 160人(50.6%) |
吸収性 | 75人(18.7%) | 139人(44%) |
ヒアルロン酸 | 55人(13.7%) | 131人(41.5%) |
バイオスティミュレーター | 14人(3.5%) | 8人(2.5%) |
CaHa(カルシウムハイドロキシアパタイト) | 13人(3.2%) | 7人(2.2%) |
PLLA(ポリ-L-乳酸) | 1人(0.3%) | 1人(0.3%) |
コラーゲン | 6人(1.5%) | 0人(0) |
不明 | 0人(0) | 5人(1.6%) |
その他 | 15人(3.7%) | 12人(3.8%) |
一方、2022年にはフィラー合併症で受診した316人の新規患者のうち、非吸収性フィラーによる合併症は50.6%(160人)に減少した。この減少は、非吸収性フィラーの禁止措置や使用の減少によるもの見なされる。
非吸収性フィラーの使用が禁止されてから数年経過しているにもかかわらず、海外で施術を受けた患者や、合併症の発症が遅れるケースがあるため、新たな合併症の報告が続いている。特に、中東やカリブ海地域でのフィラー注入が原因となる例が多く見られる。
一方で、吸収性フィラーによる合併症も起こっているので、そちらも注意する必要がある。特にヒアルロン酸フィラーおよびバイオスティミュレーターによる合併症は増加している。
11年から16年の間では、吸収性フィラーによる合併症は18.7%(75人)で、そのうちヒアルロン酸フィラーは13.7%(55人)だった。22年には、吸収性フィラーによる合併症は44%(139人)に増加し、そのうちヒアルロン酸フィラーは41.5%(131人)を占めている。
バイオスティミュレーターは、コラーゲン産生を促進することで効果を発揮する吸収性フィラー。これらのフィラーによる合併症も報告されており、主にしこりや遅発性の炎症などが見られる。割合は少ないが注意は必要だ。
11年から16年の間では、バイオスティミュレーター3.5%(14人)で、内訳はCaHa(カルシウムハイドロキシアパタイト)が3.2%(13人)で、PLLA(ポリ-L-乳酸)が0.3%(1人)。22年、バイオスティミュレーターは2.5%(8人)で、CaHa2.2%(7人)、PLLA0.3%(1人)と報告されている。
長期に非吸収性フィラーの合併症には注意
研究グループによると、非吸収性フィラーによる合併症は、施術から数年後に遅発性として発症することが多い。一方、吸収性フィラーによる合併症は、施術直後から数週間以内に発症することが多いが、まれに遅発性の反応も報告されている。
先に述べたように、日本の美容医療診療指針でも、非吸収性フィラーの使用は推奨されておらず、特にその不可逆性や長期的な合併症リスクが問題視されている。
過去に非吸収性フィラーの施術を受けた人を中心に、その後の合併症に継続的に注意しておく必要がありそうだ。