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「元祖直美」美容医療30年の医師が直美問題を語る、今なら迷わず形成外科に行くと述べる理由、ジョウクリニック理事長重本譲氏

カレンダー2024.11.13 フォルダーインタビュー

 医学部を卒業後、2年間の初期研修を経て直接美容医療の道へ進む「直美」。現在、多くの若い医師が美容医療に早期から取り組もうと直美という進路を選ぶ流れがあるが、一方で保険診療の基礎経験を積むべきだという声も強まっている。そんな中、医学部卒業後に直接美容外科に進んだ経験を持つことから「元祖直美」と自称している、ジョウクリニック(東京都中央区)理事長、重本譲氏に美容医療のこれからを聞いた。「今自分自身が大学生であれば迷わず形成外科に進む」と語る理由とは。

重本氏は今大学生ならば迷わず形成外科に進むという。(写真/編集部)

重本氏は今大学生ならば迷わず形成外科に進むという。(写真/編集部)

ジョウクリニック(東京都中央区)理事長
重本譲氏

※直美とは、「ちょくび」と呼ばれ、医学部卒業後に必要となる2年間の初期研修を終えた後に、直接美容医療に進むこと。若い医師の中で直美を選ぶ人数が増加していることから、国が問題として認識するようになっている。

  • 美容外科を選んだ経緯→1994年に徳島大学医学部を卒業後、当時ほとんどいなかった美容外科への直接進路を選択し、現在でいう「直美」のキャリアを歩み始めた
  • 形成外科医の助言→「形成外科では美容外科の学びが少ないので直接美容外科に進んだ方が良い」との助言を受け、美容医療に専念する道を考えるようになった

──自ら「元祖直美」と考えている。

重本氏: 私は1994年に徳島大学医学部を卒業しましたが、医学部卒業後に直接美容外科に進みました。その頃、同じような経歴の人はほかにほとんどいませんでしたし、私は今でいう「直美」の経歴を選んだと言えると思います。もちろん当時はそんな言葉はありませんでしたが。

 ただ、結論から言えば、私が今大学生だとして、どういう選択をするかというと、迷わず形成外科の専門医を目指すでしょう。現代では形成外科において美容医療に力を入れていこうという動きがあり、形成外科で美容医療に取り組むことが可能な時代になったからです。

──そもそもなぜ美容医療の道を選ぼうと?

重本氏: 徳島大学在学中、美容医療に強い興味を持ったためです。豊胸や二重施術のように、直接命を救う医療ではないものの、人々の外見を改善し幸福感を提供できる分野に魅力を感じました。今の初期研修という制度は2004年から始まりましたので、当時はどこかの専門分野をまずは選び、教授の下で医師の基礎を修めていくのが一般的でした。

 美容医療に関心を持っていた私は皮膚科や形成外科などに進む道も検討しましたが、自分のやりたいことができないのではないかと感じていました。皮膚科では豊胸や二重の施術を行うわけではありませんし、形成外科についても、今でこそ、美容医療は形成外科との関連が深いと認識されていますが、当時の徳島大学は皮膚科の中に形成外科があり、まだ新しい分野でした。その中では美容医療に取り組むという状況ができていませんでした。実際、形成外科の先生に相談したところ、「ここには美容外科を勉強するものはない、直接美容外科に行った方がいいかもよ」といった言葉を掛けられたくらいです。そこで美容医療に専念する道について考えるようになりました。

進路決定づけた「日本医事新報」掲載の求人

  • 「直美」としての葛藤→美容外科に直接進んだため、他の医師と比べ経験不足を感じ、恥ずかしい思いをしたこともあった
  • 開業までの技術習得→技術習得を目的に5回所属する医院を変え34歳で開業し、美容医療における能力を高めていく
  • 30年の美容医療経験→30年の経験を積んだことで、美容医療における実績を誇りに感じている

──その後、直接、美容外科を訪ねた。

重本氏: 当時、日本医事新報という雑誌で、「美容外科医募集」という広告をみかけました。その内容に衝撃を受けたことを覚えています。それは品川美容外科の求人でした。それをきっかけに、他の美容外科にも興味を持ちましたが、電話しても「医者になってから来てくれ」と言われて話が進みませんでした。そんな中で、品川美容外科だけが「面談してあげるよ」と声を掛けてくれたのです。そのときに創業者である綿引一先生から「学生で面談したのは君が初めてだよ」と言われました。「学生でも採っていいという空気があったから初めて面談した」と言われたんですね。そうした経緯で、医学部卒業直後に美容外科に入職することになったのです。

──直美としての経験から思うことは?

重本氏: 30年前は、美容外科というと、外科を何年か経験した後に事情を抱えて美容外科に転向した医師も多かったのですが、一方で、他科からの転科、例えば一般外科から美容外科に移る医師が少なくありませんでした。一般外科系をやっていましたといった医師に囲まれることになります。患者さんからも同僚ドクターからも「何科出身なの?」と尋ね合うことがよくありました。そうした中で、「先生は経験あるからいいよね、信用できるよね」といった話にもなります。私は美容外科医として力を付けようという思いはあるものの、医学部を卒業してすぐに美容外科に進んだため、経験値が少ない自分について恥ずかしいと思ったことを覚えています

──技術を身に付けようと努力を続けた。

重本氏: 当時は、まずは二重埋没法、ワキガ吸引法、包茎手術が代表的な手術でしたが、脂肪吸引や豊胸など、一通り手掛け、技術を身に付けました。技術を最短で身に付けるために、症例数の多いクリニックに入職したのは確かに良かった。一方で、半年くらいすると、おおよそ対応できるようになり、さらに高度な技術を学びたくなると、制約も出てきます。当時、豊胸手術は、乳輪を切開し、乳腺の下に表面が滑らかな生理食塩水のバッグを入れる方法が採られていましたが、大胸筋下に入れる方法もあり、それは脇から入れる手技であり、私もその手技に取り組みたいという思いが強くなっていきました。チェーンの医院では、一定のマニュアルもあり、自分の希望をそのまま実現するのは難しい状況でした。

 そうしたこともあり、医院を移って、技術を身に付けるという選択をしました。私は、技術習得を目的として、5回の転職を経て34歳で開業し、美容医療に携わってきました。開業後も韓国でクリニックを経営する現地医師の教えを受けたり、形成外科医を雇用して技術水準を向上させたりすることで、美容医療の対応できる能力を高めていきました。

 今は、美容医療に30年取り組んできたことになり、ここまで来れば、それは誇れる経験だと言えるように感じています。

形成外科に進むことでできる美容医療は増える

  • 美容外科に必要な技術→簡単な美容施術ではなく、皮膚切開や骨を扱う施術ができる技術を身につけることが望ましいと述べる
  • 専門医資格取得の意義→資格取得を通して技術向上だけでなく医師としての人間性や人格も育まれると強調している
  • 学会と交流の重要性→日本美容外科学会(JSAS)や日本美容外科学会(JSAPS)のような異なる学会所属の医師同士の交流を推奨し、互いに技術を学び合える環境が望ましいと述べている
  • 若い医師への環境整備→美容医療の専門性を高めたい医師が形成外科と美容外科を行き来しやすくする環境を整えることで、技術向上と医療水準の向上が期待される

──今ならば医学部卒業後は形成外科に行くだろうと。

重本氏: アフターフォローや処置は美容外科では基本的には腫れや内出血で自然に回復するものが多いですが、感染や血腫などが起きると経験の少ない医師は適切な処置がわからないこともあります。形成外科などに所属して、一般外来などで経験を積む必要もあると考えています。短い期間だけ形成外科に籍を置き、形成外科での経験が浅いまま美容に移るような「ワンタッチ美容」も最近よく耳にする問題です。

 簡単な二重埋没や糸リフト、ヒアルロン酸注入などは確かに必ずしも形成外科の専門医資格が必要とされないかもしれませんが、美容外科医になるなら、専門医資格の取得に取り組む中で、皮膚切開を伴うリフト系手術や骨切り手術などもできるようになるのが望ましいです。なぜならドクターの知識不足、スキル不足は患者さんにとって不利益になるからです。

 美容外科に直接進んでチェーンの医療機関に入ると、二重の手術の場合はマニュアルに沿って埋没手術のような手技が複雑ではないものが中心になることもあるでしょう。同じ二重の施術でも、切開を伴う手術や眼瞼下垂を扱う扱う手術など、より多様な施術が可能になりますが、決められたマニュアル施術を繰り返す中で技術の向上が難しい場合もあると思います。形成外科で培った経験と知識と人脈などを美容医療に進む前から習得しておけば、提供できる治療が広がります。直美だと、そのように技術を高める機会が失われることで、その後の治療に問題が生じる可能性があります。直美ドクターの知識では患者さんにとって最善の方法を提供できず、満足できず色々なクリニックに行くことも珍しくありません。直美として限られた施術だけやるよりも、形成外科の専門医取得するまでの経験を持つのがよいと思うのです。

──専門医の取得についてご意見は。

重本氏: 私自身は形成外科専門医資格を取得していない立場からお話ししていますが、過去には形成外科で美容医療を学ぼうとしても、なかなか難しいところがありました。一方で、最近では、形成外科でも美容医療に力を入れようという考え方が定着しつつあり、形成外科でも美容医療を学べるようになってきています。そうしたこともあり、今、美容医療を目指すのであれば、まずは専門医の資格を取るのが良いと考えています。もし私が大学生だったら、迷わず専門医を取得するでしょう。私の子どもにも専門医を取るよう勧めています。

 専門医資格を取得することに意味がないと考える人もいます。短期的に見れば、直美の道を選ぶ方が早く技術を得られるかもしれません。しかし、お伝えした通り、例えば同じ技量の人が直美と形成外科に行ったとして比べれば、最初の数年は直美ドクターの方が美容医療は上達しますが、形成外科医師が美容医療を始めれば2年もしないうちに形成外科医師の方が技術を抜いてしまうと思います。あくまでもこれは同じポテンシャルの方で比較した場合です。

 専門医の資格自体は、専門研修を経て、助けてもらいながら発表することなどで取得できるものですから、決して技術と比例するものではないですが、取得するプロセスで経験と知識を高められ、医師に必要な人間性や人格を養っていけることも大きいと思います。現在では、最初は形成外科に進むのが良いと考えるのです。

 今の若い医師が集まると、SNSの活用や情報発信の話になったり、埋没などの施術に特化する話題になったりすることもあると思います。そこにニーズがあるという面は確かです。一方で、そうした美容医療を中心にやっていく場合、二重埋没法を数万円だと経営が成り立たず永久保証やオプション追加をせざるを得なくなり、もともと提示した価格よりも高額を請求することになる傾向があります。かといって、その後の施術の対応ができなかったり保証制度に不備があったりする。中途半端に終わってしまう。そういう状況を見ると、そういうやり方はあるのかもしれないが、私はそういう風にはしない。利益重視の姿勢は、施術を受ける来院者の満足度を下げ、悪評にもつながりかねません。

 美容医療に限らずどんな医療でもそうなんですけれども、その人が持っている技術スキルを高めることで、初めて良い医療を提供できるし、自分が逆の立場ならば、そのような技術スキルのある医師から医療を受けたいと感じるものです。我々は、豊胸、脂肪吸引、鼻の手術、シワやたるみの治療に力を入れています。技術を向上させて、専門性を高めていくことが最も重要であると感じています。長く美容医療に取り組んできた私の実感です。

──今後、美容医療に関連したガイドラインが作られるなど、国を含めて検討が進みそうだ。

重本氏: 資格そのものが重要というよりも、幅広い技術を身に付けられる環境を整えることが重要だと考えています。現在、ベテランの医師で専門医資格を持たない人は多いですし、美容医療に長く取り組んでいる医師にとっては、美容に関しては誰にも負けないという思いもあります。資格や出身といった枠にとらわれず、垣根を越えて交流できるようになると良いと思います。日本美容外科学会(JSAS)や日本美容外科学会(JSAPS)など、学会が複数ありますが、そうした所属の違い、専門資格の違いなど、バックグラウンドの異なる医師同士の交流がもっと活発になることが望ましいです。大学も、美容を学びたい人が集まれる、もっと楽しい場所になってほしい。

 例えば、専門医資格を持たない医師が、技術の教えを請うことがあっても、専門医でない医師には教えないということも実際にあります。現在、直美を選ぶ若い医師が増えて問題だとされますが、そうすると美容医療の医師が過多状態になり、当然淘汰が避けられなくなります。そうなると技術が無い医師は生きていけないとなる。直美医師の中でも専門性を高めたいという医師も出てくるでしょう。そういう場合、直美ドクターが専門医資格を取ろうとしたときにそれを受け入れるような環境を整えることも必要だと考えています。技術はいつからでも身につけられると考えていますし、形成外科と美容外科を行き来しやすい環境を作ることは良いことではないでしょうか。

重本氏は形成外科と美容外科の行き来が活発になるとよいのではと考えを述べた。(写真/編集部)

重本氏は形成外科と美容外科の行き来が活発になるとよいのではと考えを述べた。(写真/編集部)

プロフィール

重本譲(しげもと・じょう)氏
1996年徳島大学卒業後、品川美容外科などを経て、ジョウクリニックを開院。30年間、美容医療に取り組む。

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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