美容外科の診療所が2020年から23年の3年間で約4割急増していることが分かった。
医師不足の中で美容医療のクリニックが突出して増えている状況になる中で、国は開業規制のルールに注目している。それで解決できるかは不透明な状況だ。
美容クリニックの増加率が突出して高い
- 美容外科の施設数増加→美容外科は前年から612施設増加し、43.6%の増加率を記録。形成外科(15.0%増)、皮膚科(6.2%増)も増加傾向にある
- 美容医療の存在感→国内で美容医療分野の拡大が続き、内科(0.9%増)などと比較しても増加率の高さが目立つ
- 小児科の減少傾向→少子高齢化の影響で、小児科は1,020施設減少し、5.4%の減少率となった
厚生労働省が24年11月22日に「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告」を公表し、この中の調査結果で「診療所の診療科目別にみた施設数(重複計上)」が示されている。この中で、診療科目による20年と23年の施設数がまとめられており、美容外科の施設数の増加率が最も高かった。
美容外科のほか、美容医療との関連がある形成外科や皮膚科も同様に増加率が高い。施設数が多く安定している内科と比べると、その増加率の高さが際立つ。診療科目が元々少ない場合、増加率が高くなるケースもあるが、美容外科は既に千単位の施設があるため、少ない施設とは事情が異なる。国内で美容医療の存在感が一層高まっているといえる。
診療科目 | 前年の施設数 | 今年の施設数 | 増減数 | 増減率(%) |
---|---|---|---|---|
美容外科 | 1,404 | 2,016 | +612 | +43.6% |
形成外科 | 2,167 | 2,491 | +324 | +15.0% |
皮膚科 | 12,410 | 13,185 | +775 | +6.2% |
内科 | 64,747 | 64,143 | +604 | +0.9% |
一方で、減少率が高い診療科目は次の通り。元々少ないところもあるが、少子高齢化で小児科が大幅に減っているのが特徴的だ。
診療科目 | 前年の施設数 | 今年の施設数 | 増減数 | 増減率(%) |
---|---|---|---|---|
気管食道外科 | 390 | 295 | -95 | -24.4% |
放射線科 | 3,031 | 2,738 | -293 | -9.7% |
麻酔科 | 1,943 | 1,792 | -151 | -7.8% |
小児科 | 18,798 | 17,778 | -1,020 | -5.4% |
リハビリテーション科 | 11,458 | 10,958 | -500 | -4.4% |
整形外科 | 12,298 | 12,439 | -141 | -1.1% |
開業規制の議論が進む
- 診療所の医療機能偏り→地域によって必要な医療機能が不足している問題が指摘され、提供ルールの整備が検討されている
- 開業届出と許可制の検討→医療法に基づき、診療所開設時の事前届出や、不足する医療機能提供の要請、許可制の導入が議論されている
- 日本医療全体への影響→美容医療の課題を解決することは、日本の医療全体を見直すきっかけになると考えられる
国では地方の医師不足を解決するため、医師偏在をテーマとして議論を進めている。厚生労働省では「新たな地域医療構想等に関する検討会」などを開催し、具体的な対応策を模索している。
この中では、多くの課題について議論が行われているが、注目されている課題の一つが診療所の開業規制だ。
地域によって診療所の「医療機能」に偏りがあると指摘されており、必要な医療機能を提供してもらうためのルールが議論されている。
具体的には、医療法に基づき、公的医療機関には医師の確保への協力が求められている。そのため、診療所を開設しようとする医師に対し、事前の届出を義務付け、不足する医療機能の提供を要請するルールが検討されている。さらに、許可制の導入も議論されている。
今後、開業規制が強化される方向性が示される中、美容外科クリニックの急増を示すデータが公開され、開業規制への関心が再び高まっている。
一般の美容医療を利用する人にとって、開業が急増する状況では診療所選びが難しくなる。また、競争が激化するとクリニックの経営が悪化し、施術の安定的な提供が困難になる恐れもある。一方で、実績の高いクリニックを利用できることは利用者にとって大きな利点となる。適切なルールの整備によって、高品質な美容医療が安定的に提供されることが望まれる。
また別に視点から見ると、これは直美問題の中でも注目されている。
ヒフコNEWSでも何度も伝えているが、直美の医師が年間に医学部2つ分などと言われる中で、開業規制を使って直美の医師を減らそうという案が出ている。公的医療機関を開業するためには、直美ではなく、地方などで勤務するのを条件にするといった案だ。一方で、美容医療を良くするという点では、無理がある印象もある。自費診療のクリニックをそれで規制できるのかは難しい可能性がある。そもそも地方で美容医療をやりたい人が技能を磨けない問題もある。医師不足というポイントで話を進めていくと、より良い美容医療という観点は失われてしまうのかもしれない。美容医療を考えることは、実は日本の医療全体を考えることなのだろう。