「細川亙 現代美容医療を殿が斬る」では、日本形成外科学会理事長をはじめ、多くの要職を歴任し、米国形成外科学会名誉会員でもある細川亙氏が、現代美容医療が抱える様々な問題に鋭い視点で問題提起する。「殿」というのは、細川氏が細川ガラシャの子孫であるから。その源流をたどれば明智光秀にまでさかのぼる。そんな歴史的背景を持つ細川氏が現代に舞台を移して美容医療の分野で一刀を振るう。激動の美容医療の世界をどう治めるか。
第2回テーマ「自由診療と保険診療」
美容医療は自由診療として行われている。これは一般的に病気の治療などとして行われている保険診療とは異なる仕組みとなる。細川氏は、医療はそもそも自由診療で行われていたものと指摘。歴史をさかのぼると、現在起きている美容医療の問題への対処法もその経緯を踏まえて実施する必要があると考える。
最近、美容医療の影の部分に焦点を当てた報道を多く見かける。美容医療による健康被害の発生が多発しているとか、臨床経験が少ない医師が美容医療分野にどんどん参入してきているなどという内容のものである。
美容医療の問題を考える第一歩
美容医療で起こっている様々な問題を考えるにあたっては、まず日本の医療制度を理解しなくてはならない。現代の人は、「医療」という言葉を聞くと、「保険医療」のことを思い浮かべる。つまり「医療」と言えば「保険医療」のことであり、それ以外の医療は特殊な医療と考え、その特殊な医療のことを「自費医療」あるいは「自由診療」と称すると思っている。しかし、その考えは大きな誤りである。
「医療」というものは、歴史的に「自由診療」なのである。であるから「健康保険制度」が日本に導入されるまでは、すべての医療は「自由診療」であり、命に関わる病気の治療を受けるにも自腹を切って医療機関にかかるしかなかったし、貧乏な人は医療を受けることができなかった。
健康保険制度の創設により、健康保険が適用される疾患が生じ、そうでない疾患と峻別すべきことになった。そして、保険が適用され自己負担が無いか極端に少ない「医療」分野である「保険医療分野」が生まれたのである。
医療においては医師の裁量権というものが無限大に認められ、治療手段や治療内容は医師に一任されていたし、それは現代でもそのままである。ただ、特殊な分野である「健康保険医療」においては、治療費の大半を公的に支出するという理由から、医療の内容について国が統制を加えることができる。その統制に従わない場合は保険適用を認めないからである。
国といえども自費診療分野に口出しするすべはない
すなわち「健康保険医療」以外の分野である「美容医療分野」では昔のままの最大限の裁量権が医師に認められ、国といえども医療に口出しするすべを持っていない。厚生労働省は美容医療の現状に危機感を感じ、「美容医療の適切な実施に関する検討会」を今年立ち上げた。しかし現在の「医療」に対する法制度の下では、実効性のある施策を「自費診療分野」に実施することはできない。
厚労省だけではなく、立法府も動かなければ美容医療の健全化は望めない状況にある。