美容医療の分野において、シワを改善するなどの効果があるとされている「PRP+bFGF」は、その有効性や安全性について賛否が分かれる施術として知られている。
2024年1月、この施術を巡る裁判で、美容クリニックが施術を受けた女性に解決金を支払うという形で決着したことが報道された。
日本のガイドラインは推奨していない施術
そもそもPRP+bFGFは、多血小板血漿(PRP)に、ヒト塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を添加し、これを皮膚に注射する施術だ。この薬剤は組織を増やす効果を持ち、それによってシワを伸ばしたり、くぼみを改善したりする効果があるとされている。一方で、bFGFを添加することで効果が過剰に現れ、しこりが残ったり、組織が増えすぎたりするトラブルにつながることも問題視されている。
日本の美容医療診療指針では、PRP+bFGFについては、「行わないことを弱く推奨する」と明記されている。その上で、この施術は、「安易には勧められない」、「注入部の硬結や膨隆などの合併症の報告も多く、bFGFの注入投与は適正使用とは言えない」と説明している。
NHKによると、「PRP+bFGF」の施術を受けた女性に対して、施術前にしこりができるリスクなどについて説明しなかったとして、美容クリニックが東京地方裁判所から調停で、施術費や治療費などの解決金を支払う決定を受けた。女性は施術を受けた後に、目の下やこめかみにしこりができたとして、クリニックに賠償を求めていた。
PRP+bFGFの施術は、クリニックによって施術名が異なる場合があるが、今回問題となったのは聖心美容クリニックが提供した「プレミアムPRP皮膚再生療法」。
NHKによると、決定で裁判所は、添加されたbFGFである「フィブラストスプレー」は皮下注射には推奨されていないとし、クリニック側がその事情やしこりができるなどのリスクについての説明義務を怠ったと指摘した。
説明義務を怠ったことを問題に
ヒフコNEWSで以前に伝えているが、PRP+bFGFについては、ガイドラインで推奨されていないものの、一部の美容クリニックで現在も実施されている。製剤の作り方次第で合併症を起こさずに施術することが可能という考え方を示す医師もいる。一方で、PRP+bFGFについては科学的根拠が不足しており、実施すべきではないとする医師もいる。
そうした中で、裁判所の決定でも、施術の有効性や安全性を問題視するというよりも、説明義務を怠った点を中心に問題視する決着が図られたと読み取れる。
今回の裁判所の決定も踏まえれば、今後は、この施術を実施する際には、しこりなどのリスクが存在していることを確実に理解してもらうことは欠かせなくなる。また、PRP+bFGFは施術名ではbFGFが添加されていることが分かりにくい場合もあるが、bFGFを添加していることの説明も不可欠と理解する必要がある。厚生労働省で示された方針に基づいて2025年は美容医療の業界ガイドラインが作られる見通しだが、このような施術一つ一つについて施術前の説明の仕方についても適切な方法が示される方向だ。ルールを定めることで、説明義務のトラブルを防ぐべきだ。
一方で、PRP+bFGFの有効性や安全性を巡る議論は今後も続くことが予想される。美容医療でトラブルが多発する現状を踏まえ、安全性に問題がある施術を減らす努力を続けることが重要だ。