第152回日本美容外科学会学術集会を大阪府豊中市の千里ライフサイエンスセンターで令和7年1月18日(土)に私・細川亙が主催する。美容医療界になじみの薄い方のために説明を加えると、日本には「日本美容外科学会」という名前の学術団体が2つ存在する。一つは形成外科医が会員となっている団体であり、もう一つは主に形成外科医以外が会員となっている団体である。前者を「JSAPS」、後者を「JSAS」と呼んで区別しているが、その差である「P」は形成外科の英語表記である「Plastic Surgery」を指している。今回私が開催するのはJSAPSの学術集会である。
さてこの学術集会のシンポジウムでは、「手術と非手術技術の併用による効果的な治療結果」という主題で、すなおクリニック(京都)の土屋すなお先生、当山美容形成外科(沖縄)の当山拓也先生、ドクタースパ・クリニック(東京)の鈴木芳郎先生が講演される予定である。またスポンサードセミナーでは、「美容医療における健康被害」という題で、大阪みなと中央病院の天木理恵先生と私とが講演する。そして最後(トリ)の特別講演では自由が丘クリニック(東京)の古山登隆先生により「私が思う美容外科の未来とノンサージェリー治療について」が講演される。
「無い」ことにされている実情
スポンサードセミナーで私は「美容医療による重大健康被害」について講演するが、「重大健康被害」とは「死亡」を意味するものとして使った。私は大阪みなと中央病院の美容医療センターで美容医療後遺症外来を開いており、美容医療を受けたがために様々な健康被害を生じた人たちを多数見てきた。しかし当然ながら「重大健康被害」に遭遇した人はこの外来を訪れることはできない。「重大健康被害」に関して私が情報を得るのは美容医療後遺症外来からではなく、実はほとんどの場合、司法関係者からである。
これまでに私のところには、警視庁、大阪府警、兵庫県警、神戸地方検察庁、被害者家族の弁護士などから「重大健康被害」に関する情報の提供があった。これにより私は「美容医療による重大健康被害」の発生を知ることができた。私が知った「重大健康被害」は、発生後長い間マスコミにも取り上げられず、また学会にも報告されていないものばかりであった。つまり、「美容医療による重大健康被害」は、世の中に知られずに密かに闇に葬られているものがほとんどのようなのである。
警察・検察が動いて医師を送検したり起訴したりすれば、その時点でマスコミも報道するが、そうでなければ世間的には「無い」ことにされているのが実情であるらしい。そのため、美容医療業界では繰り返し同様の医療事故が多施設で繰り返し発生している。教訓が共有されない社会になっているのだから当然のことである。
私が大阪みなと中央病院美容医療センターで開いている美容医療後遺症外来で、最も頻度高く訪れる患者はフィラーの注入を受けた人である。アクアミド、アクアフィリングといった一時期流行ったフィラーの注入後のトラブルが多いが、ヒアルロン酸のような安全と思われているフィラーの注入でもトラブルは起こっている。明治期のトップスターだった松井須磨子が鼻を高くするために鼻に注入してもらった蝋により後年大変苦しめられたようなことが、百数十年後の今も起こっているのである。
また、私の下に寄せられた情報から判断すれば、重大健康被害を生じる施術として最も頻度が高いのは頸部の脂肪吸引である。術中の窒息、術後早期の窒息、術後半日以上経過してのちの窒息など様々な時点での呼吸困難が原因となって死亡事故が起こっていることがわかった。頸部の脂肪吸引には格別の注意を払う必要があると思っている。