
なぜ老化?写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)
人は老化すると、肌にシワができたり、たるんだり、病気になりやすくなったりする。これらの現象は、細胞が老化していくから。これに対し、今回、老化細胞を若返らせる方法が新たに見つかった。
中国の研究グループが2025年1月に国際的な科学誌で発表したものだ。
ヒフコNEWSでは、老化細胞や若返りの研究に以前から注目しているが、どう考えるとよいだろうか。
人が老いる背景に「老化細胞」

老化していく。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 老化の原因→ 老化細胞が体内に増えることで、肌のシワやたるみ、病気になりやすくなる。
- 老化細胞の影響→ 老化細胞が有害物質を分泌し、周囲の細胞を老化させることで老化を加速させる。
- 若返りの手法→ 老化細胞を取り除く「老化細胞除去ワクチン」の開発が進められている。
- miR-302bの発見→ マイクロRNAの一種「miR-302b」が老化細胞を活性化し、増殖能力を回復させる効果があると判明。
人はなぜ老いてしまうのだろうか。
これまでの研究では、人は老化すると、体内に衰えた「老化細胞」が増えてくることが分かっている。老化細胞が増えることで、人の肌にシワができたり、たるんだり、病気になりやすくなる。
この老化細胞は問題を引き起こし、周りの細胞を老化させ、人の老化を加速させることも分かっている。これは「SASP(Senescence-Associated Secretory Phenotype、サスプ)」と呼ばれ、老化細胞が分泌する有害な物質によって引き起こされる。
こうした理由から、若返りのためには、老化細胞を取り除くことが効果的と考えられている。実際、老化細胞を取り除く「老化細胞除去ワクチン」という方法も開発されている。
そうした中で、今回の研究では、「マイクロRNA(miRNA)-302b(miR-302b)」という物質が若返りにつながると分かった。miR-302bの効果とは、衰えた老化細胞をいわば再び活性化するというものだ。具体的には、老化細胞の増殖能力を回復させるというもので、研究グループは、この効果について「「セノリバース(Senoreverse)」」と呼んでいる。
miR-302bは、細胞内で遺伝子の発現を調節するマイクロRNAの一種である。
※今回の研究は、受精卵が分割してできる「胚(はい)」に含まれている幹細胞(胚性幹細胞)から出てくるエクソソームの中から、若返りにつながるものを見つけ出したという研究だ。
エクソソームとは、細胞から放出される粒子の一種。この中には、細胞と細胞の間のメッセージのやり取りを可能にする物質が多く含まれている。
こうした物質の一つに、マイクロRNA(miRNA)がある。RNAは、細胞内で設計図となるDNAから転写されて作られる物質。このRNAに基づいてタンパク質が合成される。miRNAはタンパク質を作り出すのに直接は関わらず、遺伝子発現を抑制するなど、細胞の機能を調節する役割。
なお、こうしたエクソソームに関連した用語は次の記事で詳しく解説している。
エクソソームをもっと理解するための9つキーワード、「EVs」「ISEV」「miRNA」「CQA」……日本再生医療学会の講演から振り返る
https://biyouhifuko.com/news/japan/6338/
寿命の延長、毛の増加、皮膚の若返りなど確認
- マウス実験の結果→ miR-302bの投与によって、身体能力や認知機能が向上し、若返り効果が確認された。
- 長期投与の効果→ 24カ月間の投与により、寿命の延長、毛の増加、皮膚の若返り、体重減少の防止が確認された。
- 安全性→ 投与による副作用(しこりや病気のリスク増加)は見られず、安全性が高い可能性が示された。
研究グループは、老化したマウスによる実験で、miR-302bを投与することによって、身体能力や認知機能が向上するなどの若返り効果が確認された。
さらに24カ月にわたって投与したところ、寿命が延び、毛が増え、皮膚が若返り、体重減少が防がれることも確認された。
一方で、この投与によって、しこりができたり、病気になりやすくなったりする影響は見られなかった。研究グループでは安全性も高い可能性が示されている。
これらの結果から、miR-302bにより若返りにつながると考えられた。
エクソソームを単純に使っても狙った効果は見込めない

老化は防げるのか。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- miR-302bとエクソソームの関係→ miR-302bはエクソソームに含まれる物質だが、エクソソーム全体が若返りにつながるとは限らない。
- エクソソーム内の多様性→ エクソソームには数十種類以上のマイクロRNAが含まれており、miR-302bと逆効果を持つものも存在する可能性がある。
- 課題→ エクソソームや幹細胞培養上清を単純に使用しても、狙い通りの効果が得られる保証はなく、さらなる研究が必要。
今回の研究から、miR-302bがエクソソームに含まれている物質であることから、エクソソームが若返りにつながるのかと言えば、そう単純ではない。
これまでの研究では、エクソソームに含まれるマイクロRNAは、数十種類を超える、豊富な種類が存在していると考えられている。結局、miR-302bと全く逆の効果を持つものがある可能性もある。
そのためエクソソームや幹細胞培養上清を単純に使ったからといって、狙い通りの効果が期待できるとは限らない。
エクソソームの研究は発展途上であるので、若返り効果を実用化するためには、さらなる研究が必要と言えるだろう。