ステマと美容医療 Vol.5 欧米のルールを紐解き、美容医療との結びつきを考える 消費者庁による検討会を振り返って考える⑤
ポイント
- ステマが流行る「市場」と「マーケティング」に関連した2つの背景
- 諸外国で先行しているステマに関わる規制の実態
- 美容医療を利用する場合、ステマ被害を避けるためにできること
2023年10月1日から、ステルスマーケティング(以下、ステマ)は、景品表示法違反となった。
ステマが流行する背景は何なのか。そして、ステマを防止するためにはどのような規制が必要なのだろうか。
規制の制定にあたり、22年9月16日から12月27日まで8回にわたって行われた、消費者庁による「ステルスマーケティングに関する検討会」を振り返りながら、美容医療の利用者が注意するべき点について考えていく。今回は第5回。
ステマが流行する背景
5回目の検討会は、検討会の委員を務める弁護士の壇俊光氏と、京都大学大学院法学研究科准教授のカライスコス・アントニオス氏をヒアリングする内容で議論が進んだ。
その後、これまでのヒアリングや検討会の議論を踏まえて、事務局より主な検討事項の整理が行われた。
まず、壇氏よりステマの問題点について報告された。壇氏によると、インターネット商取引において、ステマが流行る背景が主に2つあるという。
一つには、イーコマース市場の拡大が挙げられる。ネット販売では買おうとしている商品を手に取って見ることができないため、商品の品質を第三者の評価によって判断せざるを得ないという特徴があるようだ。
もう一つは、消費者心理を利用したマーケティング手法の進化が挙げられる。代表的なものとして、「人間は個人の判断よりも集団の意見の方が正しいと考える」とする『バンドワゴン効果』、そして「直接よりも第三者や口コミを介して間接的に知る情報の方をより信頼する」とする『ウィンザー効果』があるという。
これらの背景により、美容医療に関わる情報にもステマが混在してくる可能性がありそうだ。
ステマを規制する必要性
議論によれば、既に多くの国でステマ規制が導入されているが、この討論会の時点において、日本ではステマを正面から規制した法律が存在していなかったという。
業界団体が自主的にステマに関する基準を定めていたとしても、業界の外にいるアウトサイダーにへの効力は出づらいという難しさがあった。また、事実上ステマを放置していると言わざるを得ないプラットフォーマーも存在するようだ。
そのような実態を考えると、ステマを規制する実体法が必要だということに関しては、同意を得られるのではないかと、考え方が示された。
では、どのような法律でステマを規制するといいのか。
壇氏によると、「刑事法による規制」は濫用の恐れがあり、「民事法による規制」では証拠の収集に限界があるという。よって、壇氏は景品表示法を改正することによる行政規制で対応するのがよいという見方を示していた。
ただ、法律を整備するだけでは不十分で、「どこからがステマに該当するのかを示すガイドラインを作ること」「ステマを見つけた際の通報窓口を作ること」に加え、「事業者・消費者に対するステマに関する教育の実施」が必要とも指摘している。
EUにおけるステマ規制
続いて、カライスコス氏より、諸外国におけるステマ規制について報告された。
まずはEUにおける規制が紹介された。EUには2005年に立法された不公正取引方法指令があり、契約が締結されているか否かを問わず、取引の前・最中・その後まで規制対象とする取引方法全般を広く規制する法律があるという。
ルールが定められている取引方法の中には「広告」や「マーケティング」も入り、この一環としてステマは規制されている。不公正取引方法指令は一般法だが、その他にもいくつか特別法があり、その総体であるEU法全体として、「広告は広告であることが明確に示されなければならない」とされているという。
また、広告に限らず、取引行為については、それらが消費者の誤認を生じさせないようにしなければならないということが基本になっていると解説された。
米国におけるステマ規制
次に米国における規制が紹介された。「連邦取引委員会法」という法律が中核となり、「不公正」または「欺瞞的」な行為または慣行は違法であると定められているという。
他にも複数の規制があるが、日本で注目されると思われるものとして、「広告における推奨及び証言の利用に関する指針」というものがあるという。
これによると、広告主は推奨を通じて行われた「虚偽の」または「根拠のない」表明、および広告主と推奨者との間の重要な結びつきを開示しなかったことについて責任を負うとされるそうだ。
また、推奨者もその推奨の一環として行われた表示について責任を負う場合があるとされており、フェイクレビューの問題などが対象となりそうである。
企業がインフルエンサーに依頼してステマを行った場合を考えると、企業もインフルエンサーも両者が責任を問われることになる。
その他、オーストラリアの消費者法やカナダの競争法についても簡単に説明が行われた。カライスコス氏によるまとめによると、諸外国の規制の特徴として、規制の範囲が広範囲となっており、広く不公正な取引方法を禁止し、消費者の誤認を生じさせてはならないという規制になっているようである。
事務局による最終的な見解
最後に、事務局より主な検討事項のこれまでの整理について説明が行われた。
まず、ステマが起こる理由として、広告であることを開示すると一般消費者の商品やサービスに対する好感度が下がることが挙げられた。
この結果、実際は広告であるにもかかわらず、広告であることが隠される場合があり、消費者が質の悪い商品やサービスを購入することで損失が発生してしまう。
よって、広告であることを隠した広告であるステマを規制しなければならない、という見解で一致した。
美容医療の利用者ができること
ここまで検討会の委員及び事務局によって示された、ステマに関するまとめを見てきた。
23年10月1日からステマは景品表示法違反となり、規制が始まったものの、法規制の網をすり抜けようとする悪質な業者がステマを行おうとする動機自体が失われるわけではないと考えられる。
美容医療の利用者がステマによる被害を受けないために、検討会で議論された内容を改めて振り返ることには意味があるだろう。
そして、消費者の心理として、集団や、第三者などによる感想を過大に評価しがちな傾向があることについて自覚した方がいいかもしれない。
また、ステマの典型例(インフルエンサーによる紹介、不正レビューなど)やステマにグレーゾーンが存在し得ることも把握しておくとよさそうだ。
法規制が始まったとはいえ、消費者は常にステマの脅威にさらされている、という自覚を持っておくことが必要だ。
参考文献
ステルスマーケティングに関する検討会
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/meeting_materials/review_meeting_005/
第1回 ステルスマーケティングに関する検討会(2022年9月16日)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/meeting_materials/review_meeting_005/029951.html
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