男性看護師座談会 Vol.4 「ちょっと待った!施術の前に今一度考えたい慎重になったほうが良い施術は?」
美容医療の現場に立つ男性看護師に集まってもらい、座談会を開催。女性看護師とは違った視点もあり、美容医療を検討するときのヒントにもなるかもしれない。第4回は、慎重になった方がよい施術について。
──「良い!」とは言われているが、慎重になった方が良い施術はあるか。
髙橋: 僕は全体的に慎重派で「これは大丈夫かな」と少しずつ試していきます。こばさんのお話を伺っていると「アグレッシブに施術をしているようでうらやましいな」と感じます。お客さまの肌状態、ダウンタイムの可否をお聞きした上でアグレッシブな治療を行うこともありますが、過去の術後の経過、色素沈着などを考慮すると“守り”の姿勢になることも。それがいい時もあるし、“攻め”の弱さから時間を要することもあるかもしれません。
こば: 基本、皮膚科って守りの分野ですよね。施術による肌の赤みや痛みにつながる炎症を起こさないように考える傾向があり、いわば「炎症が敵」となりますから。
髙橋: あとは、クリニックに来られる方の、年齢層や職業によるところもあるんだと思います。こばさんのところは、肌のターンオーバーが早い、思春期の若い世代の方が多いようので、攻めの姿勢で臨みがちになりますよね。うちは40〜50代の女性、人前に出られるお仕事をされている方ですと、ちょっとした炎症やダウンタイム、ボトックスの針跡さえも気にされるので、慎重になります。常々「大丈夫かな」と細心の注意を払いながら慎重にやっています。
──年代やその人のパーソナルな部分によって、慎重にいくか、積極的な姿勢でいくかは変わる。
髙橋: その通りです。うちのクリニックの年齢層や職業を考慮すると、どれが慎重というよりも、僕は全部慎重ですね。
──慎重になった方が良い施術、具体的に何かあるか?
こうじ: 最近エクソソームが流行っているじゃないですか。そのエクソソームに対しては、自分もまだ2回ぐらいしか治療をしたことがないこともあり半信半疑です。
※エクソソームを含むとされている幹細胞培養上清の治療を受けた人の死亡事例が23年10月に報告されている。
──エクソソーム点滴?
こうじ: 注射、点滴のみならず、お肌や頭皮に塗る方法もあります。
エクソソームは、弱った細胞やもう働いていない細胞も元気にしてくれる、という治療で、「アンチエイジングになる」と言われています。ただ、細胞分裂を増殖させるということは、「がん細胞があった人の場合どうなるんだろう?」と、心配に思っています。
──確かに、がん細胞をも増殖活性化させてしまう可能性も。
こうじ: そうなんですよ。その辺りがまだ曖昧なのに、SNSに注力しているクリニックでは、エクソソームをすごく推していて。一回の注射で約10万円のものを2週間おきに打っていくので、お金を惜しまない人は月に300万円ほど、注射の薬剤だけで支払われる方がいます。
がん細胞を増殖させないのか?という安全面での懸念点があることと、自分が試して本当に良かったら勧めたいので、まだ何度も試せていないことから「どうなのかな?」という気持ちがあります。
──以前、他の看護師座談会でも「まだ開拓段階で未知な部分もある」という話だった。
こうじ: 「新治療を始めよう」と思った時には、何でも慎重に行く必要があると思うんです。作用だけを見る方が多いんですけど、一番重要なのは、実は副作用だと思っています。これからの生活、長い人生が待っているわけじゃないですか。そこを左右してしまう副作用が出たら元も子もないと思うので、副作用、懸念点が徹底的に検証されてから提供したいですし、受ける側もしっかり調べた上で臨んだ方が良いと思います。
──がん細胞の増殖は、本来の生活をも脅かす。本当に怖いですね。
こうじ: そうなんです。
ご存知ではない方もいるかもしれないですが、エクソソーム治療で使われている薬剤には色んな種類があります。
こば: エクソソームの由来としては、豚、植物のバラ、人が使われているとされています。人についてはさらに細分化され、人種や年齢で数種類あります。バラと豚由来のエクソソームは安いんですが、人のものは高いです。
こうじ: 価格によってですよね。人がすごい高いですけど、現状では人の方が良いのではないかと思っています。人でも、バラのミックスなどもありますよね。植物由来のサイトカイニンと呼ばれる成分が知られています。
人のエクソソームにも、脂肪、臍帯から取ったものや、歯髄(歯)から取ったものなど色々ありますよね。それによって作用がまた変わってくるんですけど。
こば: 広告では、どこ由来とは書かないんです。モヤモヤしますし「大丈夫なの?」と、内心思っています。
──本当にそこを教えてほしい。
こば: 「安いから、バラ由来のエクソソームだけどいいかな」と、せめて由来を把握した上で悩みたい。
こうじ: 実際、「植物性ってどうなの?」と疑問視している医療関係の方もいらっしゃいますし、現状やるならば人の方がいいとは思っています。人で、かつ環境の整ったクリーンルームでしっかり作ってあるものならいいんですけど、どんな場所で、どんな方法で作られているかが不明だと怖いです。
──作る工程もまだ定められていない。
こうじ: そうです。それもすごく懸念要素ではあります……。
こば: 再生医療を勧めているクリニックは、培地とか培養方法を明かすんですけど、エクソソームに関しては培養方法をあまり明かしていないんですよね。
──「エクソソームいいんだ!じゃあ、やろう」と、由来や培養方法の重要性は知らないし、気にしない方が多そう。受ける側もしっかり調べてから受けないといけない。
他に、慎重になった方が良い施術は?
こば: 私、最近よく言っているんですけど、ルメッカです。
私たちは、そばかすや赤みに対して、IPL(光治療)の中でも色みに強い治療であることを理解しているので、誤った使い方はしません。適した使い方をすればいい機械だと思います。しかし、ルメッカを調べていると「一回で効く治療」という触れ込みをSNSで多数見掛けるんですよ。
※ルメッカ(Lummeca)は、イスラエルのInmodeが開発製造しているIPL(Intense Pulsed Light=インテンス・パルス・ライト)医療機器。
こうじ: ありますよね。
こば: まず「一回じゃ効かないよ!」と。SNSの触れ込みにより、受けられる方の期待値が高い。確かに、そばかすは一度で消えるくらいに薄くはなりますが、一回で全てのトラブルがなくなるわけではないんです。
そもそも「赤み」は、すごく難しいんです。様々な肌の悩み、たるみ、シミ、ニキビ、毛穴はきちんとメカニズムがあるので見ればある程度は分かるんです。しかし、赤みを引き起こす要因はたくさんあります。
例えば、脂漏性皮膚炎による赤みだったり、日焼けの赤み、炎症の赤みだったりする。あと、酒さ(しゅさ)という美容医療の立場から見ると、保健医療で適切に診療を受けるべき病気ですから、酒さが来たら「美容医療としての施術はせずに、他の医療機関で治療を受けていただきたい」というものまである。
こうじ: 酒さは、なかなか良くならないですよね。
こば: 薬を出す、炎症を抑えるくらいしかできないのが酒さです。酒さに関しては、乳がんや花咲き乳がんの時に臭いを止めるようなお薬を塗ったりするんです。
※花咲き乳がんは乳房の細胞が皮膚の表面に現れた状態のこと。乳がんでは症状の一つとして病変から悪臭が発生することがある。
あと、毛細血管拡張、炎症を抑えるだけであれば、炎症止めの服用で済みますし、適用される治療は、要因によってさまざまです。赤みの要因って本真に何通りもあるんですよ。
SNSによる過剰解釈で、原因も探らずに「赤にはルメッカ」「ルメッカで赤みを治してほしい」と言って来る方が多すぎます。原因解明が先なのに……。中には、レチノールを塗り赤くなって来られる方も。
こうじ: 来ますよね。うちもレチノールによる赤みトラブルで来院される方多いです。
こば: レチノールにも6種類の形態があるとされ、市販されている韓国のコスメなどに入っているピュアレチノールというものは、お肌のターンオーバーを28日のところを「1週間くらい早めろ」という風に強い命令を出すお薬といえるでしょう。
強い命令を肌に下すと、肌はびっくりして炎症を起こします。お肌が「ちょっと今お腹いっぱいですよ、刺激は控えてくださいね」というサインなので、レチノールを止めれば良いだけなのに「ルメッカ打って」と……。
こうじ: すごく多いですよね。
こば: ルメッカの機械は有能で、すごく良いと考えています。ただ、解釈がおかしなっている。
「ヒフコNEWS」は、皮膚科ベースできちんと書かれているので分かりやすいんですけど、インフルエンサーによる宣伝のような口コミには無責任な発言も多い。それが今の美容情報の真実がねじ曲がって知られていく要因になっていると思います。美容医療に携わる身として「どうなの?」と危惧せざるを得ない現状です。
自由診療の難しいところは、「やりたい」と言う人を、何らかの理由で施術できないためにパーンと突き返すと、クレームになってしまうことがある。だから、ルメッカについても、「打ちたくないな」と思いつつ、本当に弱い出力で当てることもあるんです。
ルメッカの誤った解釈により、正しい適応で来られる方は少ないです。情報発信はすごく大事なんで、ここで必ず言おうと思って今日来ました。
──ありがとうございます。
髙橋: 他の機械に比べて、ルメッカは最大出力である「ピークパワー」が高いというグラフが出たことがありますよね。ルメッカは、ピークパワー、一回の衝撃が強いから「シミや赤みに対して効く」「効果的」という触れ込みをSNSで見たことがあります。「他の治療器よりパワーが強い!じゃあルメッカやろう」という流れになってしまうところもあるのでしょうね。
──合う合わない、赤みへの適応などは関係なく?
髙橋: そうです、単に「強いから」という理由で。
──なるべく早く治したい、コスパを抑えたいなどがあるのか。
髙橋: そうなんでしょうね。
びっくりしたのは、以前勤務するクリニックの看護師が「うちルメッカないんだ。あなたのクリニックはルメッカあるよね?受けに行っていい?」と聞いていて。適応云々をすっ飛ばして、一部の看護師でさえ「ピークパワーが高い」という言葉だけで、受けたがるんです。
こば: 最後に、念を押したいのは、ルメッカが悪いという訳ではないんです。「赤み、何にでも効く」という間違えた解釈をされているから、そこを気を付けてほしいんです。
原因を突き止めた上で、適切な治療に使用することは、ものすごく効果があるのがルメッカです。「赤み、何にでも効く!」ではない。
髙橋: 本当にそうですよね。ルメッカは有能ですので。
──適した治療ができるよう、全ての口コミを鵜呑みにせず、情報を精査の上で施術に臨むようにしたい。
看護師プロフィール ※50音順 敬称略
こうじ 新井孝二(29)
大学病院の小児科で3年間勤務した後、大手美容外科でリーダー・スタッフ指導を担当し3年半勤務。現在は立ち上げから携わった赤坂にあるイートップクリニックに勤務。同医院では、眉下の皮膚を切除する“ぱちキワ”が「二重幅が広がる!」と人気。ニキビに悩んでいたとは思えぬほどのツヤのある肌は、自身の美容研究の成果という。サプリメントの知識を常に集めている。美容看護師歴6年目。
Instagram → @e_coopi.a(美容ナース こーじ)
こば(31)
美容関連クリニックのオープンと同時にアルバイトとして入社し3年間勤務。現在は新宿にあるSHERIE CLINICに勤務し4年目。皮膚の重症治療にも携わる。また、男性美容ナースとしてSNSで情報発信を続け、Instagramのフォロワーは23年8月時点で2400人を超える。美容看護師歴は4年目だが、皮膚の解剖生理とスキンケアの研究を続け、勤務する皮膚科では管理職も務める。
Instagram → @dsk_glam(こば。)
髙橋良(48)
美容皮膚科のアルバイトから始まり、複数の美容クリニックで幅広く看護師業務を経験。現在は、東京・神谷町にあるTHE ONE.で主任を務める。細かな分析を行い、一人一人の肌に合わせたカスタマイズ治療が人気。よりよく年を重ねていく「ウェルエイジング」の考え方で、無理のない寄り添った施術を提案してくれる。学んだ美容知識を自ら実践し、年を感じさせない肌の状態を保つ。美容看護師歴16年目。
Instagram → @Theone__clinic(THE ONE. | 美容医療)
(写真/編集部)
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