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脱脂術だけではかえって陰影が強調される、その理由と対処法、クマ取り・下まぶた手術の考察、神戸大学客員教授、RE_CELL CLINIC医師 原岡剛一氏に聞く Vol.1

カレンダー2024.11.25 フォルダーインタビュー

 クマ取り・下まぶたの手術が人気で、脱脂術、表ハムラ、裏ハムラなどの手術の方法により、目の下のたるみを改善したり、深い溝を目立たなくしたりする施術が行われている。こうした手術をどのような基準で選ぶと良いのだろうか。神戸大学客員教授で、RE_CELL CLINIC医師 原岡剛一氏にクマの見方と、その改善のための施術の考え方を聞いた。最初は脱脂術の課題と対処法について。

原岡剛一(はらおか・ごういち)氏。(写真/編集部)

原岡剛一(はらおか・ごういち)氏。(写真/編集部)

原岡剛一(はらおか・ごういち)氏
神戸大学客員教授 RE_CELL CLINIC医師

──そもそも「クマ」とは。

原岡氏: 元々は歌舞伎役者の「隈取り」に由来しているのだと思います。歌舞伎のメイクでは、目元を下げて怒りなどの感情を表現するために「隈取り」が行われてきました。そこから「クマ」という言葉が派生したのでしょう。

 一般的にクマというと、寝不足などで目の下の肌が暗くなった状態について言っていたのではないでしょうか。それに対して、最近、美容医療で言われる「クマ」を考えてみると、基本的には目の下に影をつくるたるみや溝が「クマ」と認識されるようになっています。

 このような言葉遣いは大手美容外科が広めたと思いますが、最近は一般的に美容医療の分野では使われるようになりました。

──なぜ「クマ」ができるのか?

原岡氏: クマの構造を説明しましょう。診察時には必ず図を用いて説明しますが、クマは下まぶたの下縁にできる陰として現れます。この陰がなぜできるかと言えば、顔の筋肉の一つ、目の周りを囲むように存在している「眼輪筋」と、その周囲の「脂肪組織」の構造が関係します。

 まず、まぶしい表情をすると、目頭付近に皮膚が集まってくる要素が観察されます。それは眼輪筋の収縮によるものですが、眼輪筋は目頭とその下の骨に付着して、皮膚を動かす筋肉です。

 では、なぜクマのできる部分がへこむのでしょう。

 それは、皮膚の層と眼輪筋の層との間に脂肪が存在しないためです。解剖学的に見ると、眼輪筋が付着している目頭の辺りには、骨と筋肉、そして薄い皮膚しかありません。脂肪などの柔らかい組織が不足しているために、この部分がへこみやすくなります。

下まぶた。薄い皮膚と眼輪筋の間には脂肪がない。筋肉の下はすぐ骨がある。下まぶたを後方から押すように眼窩脂肪がある。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

下まぶた。薄い皮膚と眼輪筋の間には脂肪がない。筋肉の下はすぐ骨がある。下まぶたを後方から押すように眼窩脂肪がある。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

  • 眼窩脂肪とクマの原因→眼窩脂肪が大きくなると下まぶたが前方に突出し、頬との間に空間が生じ、これが陰としてクマとして見える
  • 脱脂手術の注意点→脂肪を取りすぎると目の下から頬にかけてくぼんだ印象を与え、顔全体がやつれたような印象になる
  • クマ治療のポイント→出っ張りとへこみの両方に注目し、脂肪移動を組み合わせたアプローチでバランスを整えることが重要

 一方で、眼窩内の脂肪(眼窩脂肪)が大きくなると、眼輪筋の後方から前方へと突出してきます。これにより下まぶたの部分がふくらみます。

 結果として、下まぶたが前に出っ張る一方で、眼輪筋の下には頬との間に空間が生じます。この空間が陰として現れ、これがクマとして見えるのです。

 クマは顔の筋肉と脂肪の配置によって生じているわけです。適切な手術を判断するためには、これらの解剖学的な理解が非常に重要となります。

──目の周りの筋肉や脂肪の位置と、手術法の関係は?

原岡氏:  クマの治療法を考える際、関連する「出っ張り」と「へこみ」に注目することが基本的なコンセプトとなります。

 以前は、脱脂(眼窩脂肪の除去)が圧倒的に主流の手術法でした。具体的には、まぶたの裏側からアプローチし、下まぶたを後方から前方に押し出している眼窩脂肪を減らす方法です。あっかんべーをした状態でまぶたの裏側から眼窩脂肪を取ります。この手術のポイントは、「へこませる治療」であるということです。

 では、どこまでへこませれば満足できるでしょうか。

 一つの基準として、まぶたの最も深い溝であるボトムラインに合わせて脂肪を減らす方法があります。

 しかし、ここで注意すべきなのは、頬のボリューム低下です。若い頃は頬がふっくらとしており、垂れていません。しかし、年齢とともに頬の上部のボリュームが減り、全体的に寂しい印象を与えるようになります。この状態でボトムラインに合わせて脂肪を取りすぎると、目の下から頬にかけて全体的にくぼんだ印象となり、陰影が強調されてしまいます。

 結果として、下まぶたの局所的な形はきれいに整いますが、顔全体がやつれたような寂しい印象を残すことになります。つまり、従来の出っ張り(脂肪)を減らすだけのアプローチでは不十分で、頬のボリューム低下やへこみに対応する新たな戦略が必要となります。

──出っ張りに注目するアプローチだけでは足りない。

原岡氏: クマの改善には、まぶたの「出っ張り」だけではなく、「へこみ」にも注目する必要があります。

 具体的には、眼輪筋が付着している「床面」、つまり骨と接している面に目を向けます。眼輪筋は骨に付着しており、さらに眼窩脂肪が後方からまぶたを押しています。このため、下まぶたの下縁がへこんで見えるのです。

 このへこみを改善するために、手術により眼輪筋と骨の接着部位をチョキチョキとはがします。これにより一時的に筋肉を持ち上げ、へこみを解消できます。しかし、手を離すと筋肉はまた元の位置に戻ってしまいます。

 つまり単に筋肉をはがすだけでは持続的な効果が得られないために、何らかの対処をする必要があります。これによりクマを根本的に改善することができます。

──筋肉をはがして浮かせた状態に対処を?

原岡氏: 筋肉をはがして浮いた後の空間には、眼窩脂肪を移動させてスペースを埋めるのです。これにより部分的なへこみや出っ張りがバランスよく整えられ、自然なラインが形成されます。

眼窩脂肪を眼輪筋の下の空間に挿入する。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

眼窩脂肪を眼輪筋の下の空間に挿入する。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

  • 従来の脱脂アプローチ→目の下のくぼみを一番低い部分に合わせて脂肪を減らす方法が主流だった
  • 新しいコンセプト→少し高い部分に合わせたアプローチを重視し、「脂肪の移動術」や「脂肪の再配置」を行う
  • 脂肪移動の目的→単なる脂肪の移動ではなく、へこみの原因である筋肉やリガメント(靭帯)を処理した部分にスペーサーとして脂肪を活用することが目的

──脂肪の移動により全体の印象が良くなる。

原岡氏: 従来の脱脂では、海が荒れているような状態を平らにするために、一番低い部分に合わせて脂肪を減らすアプローチが主流でした。

 しかし、私のコンセプトでは、少し高い部分に合わせることを重視しています。これは「脂肪の移動術」や「脂肪の再配置」と呼ばれますが、脂肪を移動させることが目的ではなく、へこみの原因となった筋肉を処理した部分にスペーサーを挿入することが目的です。その材料として脂肪を活用しているのです。

 多くの先生方が「余っている脂肪を足りない部分に移動させる」と説明していますが、これは確かに理解しやすい表現です。しかし、私たちのアプローチでは、元々の筋肉やリガメント(靭帯)を適切に処理する。具体的には「はがすこと」が重要です。これにより、脂肪の移動がより効果的に行われ、自然でバランスの取れた仕上がりを実現することができます。(続く)

原岡剛一(はらおか・ごういち)氏

原岡剛一(はらおか・ごういち)氏

プロフィール

原岡剛一(はらおか・ごういち)氏
1994年大阪市立大学医学部卒業。神戸大学医学部附属病院美容外科診療科長兼特命准教授などを経て、23年、神戸大学大学院医学研究科形成外科学客員教授、ソウル大学 形成外科 海外教員、24年、RE_CELL CLINIC医師。日本形成外科学会美容医療に関する委員長、評議員、日本美容外科学会JSAPS理事、評議員、学術教育委員長、日本美容医療協会理事などの公職を務める。

インタビューの記事一覧

  • 脱脂術だけではかえって陰影が強調される、その理由と対処法、クマ取り・下まぶた手術の考察、神戸大学客員教授、RE_CELL CLINIC医師 原岡剛一氏に聞く Vol.1
    https://biyouhifuko.com/news/interview/10066/
  • 目のクマ取り 「表ハムラ」と「裏ハムラ」の選び方、知っておきたい選択の判断基準、神戸大学客員教授、RE_CELL CLINIC医師 原岡剛一氏に聞く Vol.2
    https://biyouhifuko.com/news/interview/10126/
  • 自然な仕上がりのためクマ取りの手術で気を付けるポイント、光と影のバランスや出血の最小化などについて、神戸大学客員教授、RE_CELL CLINIC医師 原岡剛一氏に聞く Vol.3
    https://biyouhifuko.com/news/interview/10194/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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