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【2025年美しさとは】暦年齢にしばられない多面的に年齢をとらえる時代へ、大阪・関西万博でも老化は重要なテーマに、日本抗加齢医学会の山田秀和理事長に聞く Vol.3

カレンダー2025.1.10 フォルダーインタビュー
山田秀和(やまだ・ひでかず)氏。近畿大学医学部皮膚科客員教授。近畿大学アンチエイジングセンターファウンダー。日本抗加齢医学会理事長。(写真/編集部)

山田秀和(やまだ・ひでかず)氏。近畿大学医学部皮膚科客員教授。近畿大学アンチエイジングセンターファウンダー。日本抗加齢医学会理事長。(写真/編集部)

山田秀和(やまだ・ひでかず)氏
近畿大学医学部皮膚科客員教授
近畿大学アンチエイジングセンターファウンダー
日本抗加齢医学会理事長

  • 若返りの可能性→ 今すぐの実現は難しいが、30年後には若返りが現実の課題になる可能性。
  • 再生医療の進展→ 日本では再生医療の研究と実用化が進む。一部で批判されるものの、米国も再生医療に参入し始めるなど国際的な動きに変化。

──日本は世界的に見ても長寿の国といえる。

山田氏: 日本は国民皆保険や介護保険がある点が偉大だと考えています。そのおかげで、世界水準で見ても高い平均寿命を誇る特異な社会を築いています。日本人は安全で、清潔な生活環境を享受していますが、幸せの尺度についての調査では比較的低めに評価される傾向があります。上を追い求めることは、ある意味で贅沢な悩みとも言えます。

 日本の平均寿命は86歳前後まで来ています。100歳や120歳、122歳を目指す人もいますが、生物学的に上限があるとも予想されます。実際、死亡データを見ると、90代後半から100歳前後に壁があるように見えます。

 寿命そのものを劇的に伸ばすことは難しいとしても、健康寿命を延ばす意義は非常に大きい。日本人は「PPK(ピンピンコロリ)」、すなわち元気なまま長生きし、最後は穏やかに亡くなることを理想としています。

 今すぐの実現は難しいとしても、30年後には若返りが現実の課題となる可能性があります。

──日本では再生医療の利用が進んでいます。

山田氏: 日本では政府が再生医療を一定程度容認しており、研究や実用化が進めやすい状況にあります。一方で、欧米の一部から「危険な先行事例」と見られる面もあり、ネイチャー誌などで批判的な論調が示されることもあります。それをどのように整合的に説明するかが日本の課題です。

 しかし数年前まで米国が再生医療に否定的だったのに、今では「自分たちもやる」と動きが変わってきた。日本が先行しようとしたからといって、一概に悪いとは言えない可能性があります。

 国際基準の整備や国際的なサポートが必要とされる一方、最先端を走っているからこそ、日本がリードできる余地もある。

  • 再生医療の実用化→ 細胞を使った「セル・セラピー」が注目されるが、「セルフリー・セラピー」はまだ発展途上で、規制強化が進む。
  • 老化研究とデジタル→ 老化解析にはエピジェネティクスやAIが重要だが、日本は人材不足で、海外企業が主導。
  • ウェルビーイングの数値化→ 健康や人間関係などをデータで解析し、政策や社会設計に役立てるアイデアが注目。

──再生医療はどのように実用化すべきか。

山田氏: 細胞を用いる「セル・セラピー」がゴールのように捉えられている一方、「セルフリー・セラピー」はまだ発展途上です。再生医療が本当に有効である可能性がある一方で、未知のリスクもあります。規制が厳しくなるのは当然の流れです。

 さらにメカニズムが不明な点も多いです。例えば、若い血液を輸血するとアンチエイジング効果があるという話も、科学的裏付けはまだ確立されていません。「パラバイオシス(マウス同士の血液交換)」などで何らかの若返り効果が示されていますが、その本質が何かはわからない。これだけ複雑だと膨大なデータ解析や高度な計算能力が求められます。量子コンピューターに頼らなければ処理しきれないかもしれません。

──老化研究とデジタルの関係は切っても切れない。

山田氏: エピジェネティクス、オミクス情報、ノンコーディングRNAなどを統合し、時間経過に沿って解析を進める。日本においても、これを担うシステムバイオロジーやデータサイエンスの専門家が求められますが、人材は不足しています。海外ではGoogleなどの大企業が黎明期から大規模に参入し、主導しています。

※エピジェネティクスは、DNAの配列そのものを変えずに、遺伝子の発現を調節する仕組みを指す。また、オミクス情報は、生物学において網羅的解析された情報のこと。ノンコーディングRNAは、タンパク質をコードしないRNA。遺伝子をコントロールする役割を果たし、老化や病気のメカニズムで重要視され始めている。システムバイオロジーは、生物をシステムと見なして研究する分野。複数のデータから生物をとらえようとする。

 日本で同様の流れを作るには、投資家を呼び込む仕組みと研究基盤が求められるでしょう。今後は企業によるエピジェネティッククロックの計測を広めて「どこまで老化をコントロール可能か」を見る動きがさらに強まると思います。若返りに直結する可能性が高い、最先端の研究領域といえるでしょう。

──大阪・関西万博では老化がテーマの一つに含まれる。

山田氏: 大阪・関西万博に際して、私は2018年頃から「暦年齢ではなく、生物学的年齢の概念を普及させよう」と言い続けてきました。30代以下の若い世代に、種を蒔くことで、50年後、彼らが60歳になったとき、「ああ、あのときこんな話があった」と思い出すかもしれない。

 暦年齢にしばられない多面的な年齢の捉え方を持つことは、未来への大きなメッセージになるのではないでしょうか。

 ストレスは健康や寿命に大きく影響します。学歴、経済力、人間関係などを老化速度と統合的に解析することが可能になる。将来的には政治家や経済学者がこれらのデータを用いて社会を設計するかもしれません。

 「ウェルビーイング」の概念を数値化し、政策立案に活用するといったベンチャー的アイデアも興味深いでしょう。(終わり)

山田秀和(やまだ・ひでかず)氏。近畿大学医学部皮膚科客員教授。近畿大学アンチエイジングセンターファウンダー。日本抗加齢医学会理事長。(写真/編集部)

山田秀和(やまだ・ひでかず)氏。近畿大学医学部皮膚科客員教授。近畿大学アンチエイジングセンターファウンダー。日本抗加齢医学会理事長。(写真/編集部)

プロフィール

山田秀和(やまだ・ひでかず)氏
近畿大学医学部皮膚科客員教授
近畿大学アンチエイジングセンターファウンダー
日本抗加齢医学会理事長

1981年近畿大学医学部卒業。1981年オーストリア政府給費生(ウィーン大学皮膚科、米国ベセスダNIH免疫学)。1989年近畿大学医学部皮膚科講師。1996年近畿大学在外研究員(ウィーン大学)。1999年近畿大学奈良病院皮膚科助教授。2005年近畿大学奈良病院皮膚科教授。2007年近畿大学アンチエイジングセンター副センター長(併任)。2022年近畿大学客員教授。日本抗加齢医学会理事長。

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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