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大阪・関西万博でなぜ「リボーン体験」は生まれたか、25年後の自分から知る「生物学的年齢」、常識になるアンチエイジングと若返り、日本抗加齢医学会・山田秀和理事長2025年6月インタビュー 前編

カレンダー2025.6.13 フォルダーインタビュー

 2025年開幕の大阪・関西万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」を掲げ、生命を主題にしたパビリオンが連日盛況だ。その象徴が、大阪府市パビリオンで予約困難な人気ぶりとなっている「リボーン体験」。来場者の顔画像や生体データを解析し、「生物学的年齢」を基に、25年後の自分の姿をCG映像で提示する。この企画の大元をたどると、いわば「言い出しっぺ」となったのが、日本抗加齢医学会理事長であり、近畿大学医学部客員教授・近畿大学アンチエイジングセンターファウンダーの山田秀和氏。構想の経緯とAI時代のアンチエイジングの最前線を聞く。前編では大阪・関西万博の動きと背景にある生物学的年齢の考え方、中・後編では国際的な老化防止のコンペティション「XPRIZE healthspan」の最新動向についてお届けする。(聞き手/ヒフコNEWS編集長 星良孝)

山田秀和(やまだ・ひでかず)氏。近畿大学医学部皮膚科客員教授。近畿大学アンチエイジングセンターファウンダー。日本抗加齢医学会理事長。(写真/編集部)

山田秀和(やまだ・ひでかず)氏。近畿大学医学部客員教授。近畿大学アンチエイジングセンターファウンダー。日本抗加齢医学会理事長。(写真/編集部)

山田秀和(やまだ・ひでかず)氏
近畿大学医学部客員教授。近畿大学アンチエイジングセンターファウンダー。日本抗加齢医学会理事長。

  • リボーン体験→ 大阪・関西万博で実施され、25年後の自分の姿を生物学的年齢に基づき可視化する展示として連日満員の人気。
  • 構想の出発点→ 2014年、大阪大学の森下教授を介して万博誘致に協力。松井府知事、橋下市長に「アンチエイジングを中核テーマに」と提案。
  • 着想の源→ 2013年に発表されたホーヴァス氏の「エピジェネティック・クロック」が衝撃的な影響を与え、構想に大きな影響を与えた。

──25年後の自分と向き合う「リボーン体験」が大反響。構想のスタートに関わっている。

山田氏: 連日満員と聞き、安堵しています。

 構想が始まったのは2014年にさかのぼります。大阪・関西万博誘致の話が持ち上がった時、当時の大阪大学の森下竜一教授から声がかかり、松井一郎大阪府知事や橋下徹大阪市長らに「アンチエイジングを中核テーマに」と伝え、「100%協力」を宣言しました。

 その後、私が会長を務めた2018年の第18回日本抗加齢医学会総会で、老化研究で名の知られていた米国ハーバード大学教授のデービッド・シンクレア氏、米国メイヨー・クリニックのジェームズ・カークランド氏という2人を大阪に招き、万博とアンチエイジングを結びつける布石を打ちました。当時から専門家の間では2人とも有名でしたが、一般にはまだ広く知られていない時期でした。

 その頃、2013年の米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校、スティーブ・ホーヴァス氏が示した「エピジェネティック・クロック」の論文は衝撃的なものでした。DNAのメチル化パターンから生物学的年齢を推定する方法です。

 アンチエイジングの専門家でさえも半信半疑なほどでした。

 結局、この考え方の先に、今人気のリボーン体験もあるのです。

※エピジェネティック・クロックは生物学的年齢を測定する方法。生物学的年齢とは、生まれてからの年月によって決まる「暦年齢」とは異なり、体の組織や細胞の老化の度合いなどに基づいて決まる年齢。エピジェネティック・クロックでは、「DNAのメチル化」と呼ばれる遺伝的な変化に基づいて生物学的年齢を測定する。DNAのメチル化とは、遺伝情報を収めているDNAにメチル基と呼ばれる分子が付くことで、遺伝子の発現のオン、オフを調整する仕組み。DNAの「CpG」と呼ばれるシトシンとグアニンが並んだ配列の部位でメチル化が起こると分かっている。このようなDNAの調節の仕組みは、エピジェネティックな変化と呼ばれている。

大阪・関西万博の会場。公式キャラクターミャクミャクと大屋根リング。(写真/編集部)

大阪・関西万博の会場。公式キャラクターミャクミャクと大屋根リング。(写真/編集部)

  • 逆転の発想→ 通常の「メカニズム重視」の分析とは異なり、エピジェネティック・クロックは、因果を問わず、寿命と相関するCpG部位を統計的に抽出する手法。
  • AIとの親和性→ ChatGPTのようなAIが登場したことで、「メカニズム不明でも予測可能」というアプローチへの理解が進み、エピジェネティック・クロックの価値も再評価された。
  • 大阪・関西万博のリボーン体験→ 顔画像や心拍数などをもとに、生物学的年齢を予測し、25年後の自分をCGで可視化。生物学的年齢を直感的に理解できる機会を創出。

──エピジェネティック・クロックは常識破りだった。

山田氏: そのアプローチは逆転の発想から生み出されたものでした。

 通常の考え方であれば、先に寿命に関わるメカニズムを考えて、重要なDNAの部位であるCpGの部位を特定し、そこに注目して、寿命との関連性を分析していくアプローチになります。統計分析をして、本当に相関関係があるのかを証明していくのです。

 それに対して、ホーヴァス氏の方法は全く逆。メカニズムが分からないままに、膨大な数存在しているDNAのCpGの中から、寿命と最も相関するCpGの部位の組み合わせを選別していくのです。ホーヴァス氏の場合には、353カ所の選ばれたCpGの情報から寿命を予測します。統計学的な分析だけで寿命を予測していくのです。

──メカニズムが分からなくても良いと考えた。

山田氏: 2018年の段階でも学生が同じようなアプローチで実験したら、「いい加減な統計解析は認められない」とたしなめたのかもしれません。誰も考えつかない方法だったのではないかと思います。

 ホーヴァス氏のエピジェネティック・クロックは、なぜ選んだCpGが寿命に関連するのかというメカニズムがいまだに分かっていないわけです。

 申し上げたように、私がエピジェネティック・クロックについて話をしたところ、日本抗加齢医学会の中でさえも、「統計でこじつけているのでは」という懐疑的な声が聞こえるほど。正直、私自身も半信半疑だったのです。

 しかし、本当なら、とてつもない発見だと私は思いました。

──人工知能(AI)の台頭で状況が変わった。

山田氏: その通りです。状況は2022年にChatGPTが登場した頃から大きく変わりました。

 ありとあらゆるデータを集めて、それらを統計分析することで、情報を紡ぎ出していくのがディープラーニングの原理です。ChatGPTなどでは、情報を投入すると、あっという間に整理されて、従来ならば不可能と思われていた情報処理が可能になりました。

 このようなAIが世に出たことで、エピジェネティック・クロックの考え方も理解しやすくなりました。たとえメカニズムは分からなくても、DNAなどの大量のデータから寿命を予測するというアプローチはAIの考え方に近いものです。

──エピジェネティック・クロックは既に実用化されている。

山田氏: 今では、心拍、睡眠、歩行速度を記録するウエアラブルデバイスによる機能的な情報、DNAやRNA、タンパク質などの大量の情報から成り立つマルチオミクス、胃腸の細菌などの腸内細菌叢(マイクロバイオーム)、老化の指標としても注目されている細胞の形態まで、あらゆるデータをクラウドに放り込み、統合型のエイジング・クロックを作る動きが世界中で加速しています。そこから「ウェルビーイングスコア」という考えも出てきます。

 言い方を変えると、「表現型(フェノタイプ)」という、表に出る情報を片端からデジタル化して、AIに投入して未来を予測するというアプローチです。例えば、画像から病気を予測するディープラーニングも実現しつつあり、最近では顔写真だけでがんリスクを算出するモデルまで報告されています。

──大阪・関西万博のリボーン体験は、「表現型に基づく生物学的年齢の予測」の一つの形といえる。

山田氏: リボーン体験では、顔画像、心拍数などの生体データを写真撮影やセンサーで取り込み、推定された生物学的年齢に合わせて25年後の鮮やかなCG映像を生成しています。

 企画を作る際には、ウエアラブルデバイスの利用など、どのような情報を得るか、顔画像の撮影は個人情報保護の観点から問題がないか、といった課題もありました。体験した方にエピジェネティック・クロックの検査キットを提供する案もあり得ました。検討を重ねた結果、現在の形に落ち着きました。結果として多くの方に受け入れられ、うれしく思います。

 私の夢は、暦年齢とは異なる生物学的年齢を10歳の子どもにも理解してもらうというものでしたが、その夢が叶った形です。

大阪・関西万博。リボーン体験が連日盛況の大阪府市パビリオン。(写真/編集部)

大阪・関西万博。リボーン体験が連日盛況の大阪府市パビリオン。(写真/編集部)

──成功を受けてアンチエイジングや若返りの意識も高まる。

山田氏: 日本国内で2021年にシンクレア氏の『LIFE SPAN 老いなき世界』が出版された辺りから、専門家の間では老化を遅らせる研究開発についての理解は進みました。マウスの寿命延長を示す研究成果も報告されています。

 2022年くらいから慶應義塾大学の早野元詞氏が米国から帰国して老化予防に関する情報発信などの動きが見られ、一般にも理解されるようになったと考えています。

 「若返り」というと、従来ならば一般の方々はどこか胡散臭い印象を持つことが多かったと思います。そうした状況が変化してから、まだ1年も経っていないと考えています。大阪・関西万博の開催によりアンチエイジングの意識はさらに高まるでしょう。

 暦年齢ではなく、生物学的年齢で考えるという形に社会が変わっていくと考えています。今後は、生物学的年齢を測定した上で、何ができるかという課題を考えていく必要があります。例えば、生物学的年齢の進行を遅らせることができるかなどの取り組みを進めていくことが重要です。(続く)

大阪・関西万博の大屋根リング。(写真/編集部)

大阪・関西万博の大屋根リング。(写真/編集部)

プロフィール

山田秀和(やまだ・ひでかず)氏
近畿大学医学部客員教授
近畿大学アンチエイジングセンターファウンダー
日本抗加齢医学会理事長
1981年近畿大学医学部卒業。1981年オーストリア政府給費生(ウィーン大学皮膚科、米国ベセスダNIH免疫学)。1989年近畿大学医学部皮膚科講師。1996年近畿大学在外研究員(ウィーン大学)。1999年近畿大学奈良病院皮膚科助教授。2005年近畿大学奈良病院皮膚科教授。2007年近畿大学アンチエイジングセンター創設者(併任)。2022年近畿大学客員教授。日本抗加齢医学会理事長。日本におけるアンチエイジング医学の黎明期から第一線で活躍し、近年はエピジェネティック・クロックやAI解析を活用した老化制御研究を推進している。大阪大学大学院医学系研究科招聘教授/大阪公立大学皮膚科客員教授。

参考文献

【2025年美しさとは】暦年齢にしばられない多面的に年齢をとらえる時代へ、大阪・関西万博でも老化は重要なテーマに、日本抗加齢医学会の山田秀和理事長に聞く Vol.3
https://biyouhifuko.com/news/interview/10837/

記事一覧

  • 大阪・関西万博でなぜ「リボーン体験」は生まれたか、25年後の自分から知る「生物学的年齢」、常識になるアンチエイジングと若返り、日本抗加齢医学会・山田秀和理事長2025年6月インタビュー 前編
    https://biyouhifuko.com/news/interview/13115/
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    https://biyouhifuko.com/news/interview/13131/
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    https://biyouhifuko.com/news/interview/13149/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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