
IMCAS World Congress会場で取材に応じた室孝明(むろ・たかあき)氏。ビスポーククリニック統括院長。(写真/編集部)
室孝明(むろ・たかあき)氏
ビスポーククリニック統括院長
- 国際学会での発信→ アジア人の鼻形成は欧米と違う難しさがあり、日本人医師の工夫を伝えることが重要。
- 欧米とアジアの違い→ 欧米は「大きい鼻を小さくする」手術が中心だが、アジアでは低い鼻を高く見せる治療が課題になる。
- 重視した考え方→ 鼻先の高さだけでなく、表情に合わせて動く自然な鼻を作ることが大切。
──IMCASの鼻のセッションで講演した。
室氏: 今はSNSを通じて、美容医療の情報も人の移動も国境を越える時代です。日本から海外へ治療を受けに行く人が増えた一方で、海外から日本を訪れる人も増えています。
米国や中国、シンガポール、インドネシアなど、さまざまな国の人が動く中で、「アジア人の治療は難しい」という点は、欧米の医師にも前提として共有してもらう必要があると感じました。
そのため、欧米中心の学会の場で、日本人医師がどのような点に気をつけ、どのような工夫をしているのかを伝えることが今回の目的でした。
また、学ぶ内容ももちろん大事ですが、国際学会は出会いが次の機会を生みます。昨年、別の国際学会に参加したときの縁で、今年前半の会合でも再会があり、今回の登壇につながりました。
結局、世界の中で外科部門のトップクラスの医師と接点を持てる。そういう出会いが、次のセッションや共同研究の場を作っていく。国際学会に出ると、その現実を実感します。
──鼻形成で、欧米とアジアの違いとは?
室氏: 欧米では、基本的に「大きい鼻を小さくする」方向の治療が多いです。ボリュームを減らす手術は、形を作るという意味では組み立てやすい面があります。
一方でアジアは逆です。鼻が低いため、鼻先を高くしようとすると、別の違和感が出やすい。
例えば、鼻先を高くしようとしても、元々鼻が低い状態ですから、十分に鼻を高くすることが難しい。そこで、肋軟骨などを使って、鼻先をしっかり出す手術が流行しています。
それ自体が誤りというわけではないが、やや過度に普及している面もある。
本当はその手術をしなくても、鼻の高さを出し、しかも鼻先の「動き」まで残せる方法があります。
──今回の発表で伝えたかったポイント。
室氏: キーワードは「動きのある鼻を作る」です。
本来、人は笑うと鼻先が適度に下がったり、小鼻を広げると鼻先が沈んだりする。触ったときの自然さも含めて、鼻の「可動性」は表情の一部です。
ところが、肋軟骨などで固定しすぎると動かない鼻になってしまう。日本人はそれをすごく嫌がります。こうした不満に向き合うことが、日本人らしさだと思います。
だから私は鼻先を高くしながら、動きを奪わない方法を重視してきました。今回も、自分の手術自慢ではなく、東洋人の特性を理解して満足度を上げる、という視点で話しました。
米国の先生から「面白かった」と言われたのは手応えでした。
──自身の工夫を伝えることができた。
室氏: 私は2020年頃から、自然な動きのある鼻を形成する手術を行ってきました。自分が「発明した」と思ってやってきました。でも論文化しようとして調べたら、フランスの医師が少し前に同じコンセプトに到達していた。だから完全なオリジナルとは言えません。ただ、そのフランスの医師は「動く鼻」を目的にしていたわけではなく、別の課題意識から同じゴールに着地していました。

IMCASの会場。(写真/編集部)
- IMCASの価値→ 世界規模の学会で、外科・皮膚科・企業まで集まり、学術的にも学ぶ点が多い場。
- 国際学会に行く意味→ 海外の情報に触れることで選択肢が広がり、より安全で満足度の高い提案につながる。
- 日本の強み→ 細かな要望への対応や、術後フォローまで含めた丁寧な診療が、日本の美容医療の強み。
──世界最大の美容医療の会議といわれるIMCASでの発表はどう評価する?
室氏: 規模が圧倒的に大きい。外科医だけでなく皮膚科医や企業も多い。参加者が2万人規模というのは、普段の学会の1000人規模と比べても別世界です。
商業的な学会というイメージもありますが、実際にはアカデミックな内容も多い。複数会場で一日中テーマ別に議論が回っています。
外科の先生が見ても価値がある場だと思いました。半日にわたり解剖について解説するセッションもあり、私はそれを一日中ずっと見て学ぶことができました。
発表では英語が課題になります。アジアで発表するのと違って、求められる英語のレベルが高い。原稿を覚えて話すことはできても、質疑応答は別物です。AIにも期待したが、今回の実感ではまだ実用的ではなかった。
結局プレゼンは「英語を気にせず話せる人」が強い。目線、ジェスチャー、画像の見せ方など、スピーチ力が結果に直結します。日本人はスライドがきれいと言われますが、話し方まで含めると米国のうまい人は本当に強い。
──それでも国際学会に行く価値がある。
室氏: 価値は大きいです。情報を吸収する窓口は広いほどいい。日本の学会だけを見ていると、日本の常識の中から選ぶことになる。世界まで窓口が広がると、選べるカードが増える。
3枚のカードから選ぶのではなく、10枚のカードから「あなたにはこれがいい」と提案できるようになる。それが最終的に安全と満足につながると考えられる。
──国内学会と海外学会で、発表の目的は違う?
室氏: 日本の学会では、PR目的とみられる発表が目立つ場合もある。過去には医師の学会での不適切な振る舞いが外に拡散され、業界の品格が問われたこともありました。美容医療は社会の目が厳しい領域です。
だから国内では、技術やコンセプトをシェアして全体のレベルを上げる方向へ、もっと舵を切る必要がある。世代としてその責任を感じていますし、誰に発表してもらうかまで含めて考えるべきだと思います。
一方、海外ではPRがなくてもいい。まずは世界に顔を出して、日本の美容医療を広めることが大事です。
──日本の美容医療の強みとは。
室氏: 日本の強みは、細やかな要望に正確に応える姿勢と、術後フォローまで含めた丁寧さだと思います。海外の複数クリニックを回った上で日本に来る方は、日本の診療の細やかさに感動することがある。
逆に薄利多売で安さを優先し、アフターケアを削るようなクリニックが増えれば、長期的には信頼を失い、海外の方々は来なくなる。美容医療はコスパで語られがちですが、丁寧さとフォローこそが日本の強みだと私は思います。
プロフィール

IMCAS World Congress会場で取材に応じた室孝明(むろ・たかあき)氏。ビスポーククリニック統括院長。(写真/編集部)
室孝明(むろ・たかあき)氏
ビスポーククリニック理事長。
2002年埼玉医科大学卒業。同年、東邦大学形成外科学教室に入局。星総合病院一般外科、東邦大学医療センター佐倉病院形成外科、東京手の外科・スポーツ医学研究所形成外科・美容外科部長、ヴェリテクリニック福岡院院長などを経て、2017年にビスポーククリニックを開院。形成外科・美容外科を専門とし、鼻形成を中心に診療。IMCASなど国際学会で発表し、アジア人治療の課題共有や日本の臨床の強みの発信にも取り組む。日本形成外科学会専門医指導医、日本美容外科学会専門医(JSAPS&JSAS)、日本抗加齢医学会専門医、臨床研修指導医。
