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PRP+bFGF、ガイドラインの慎重な方針どう考える?──ジョイアクリニック京都院長の林寛子氏に聞く 前半

カレンダー2023.8.29 フォルダーインタビュー

 PRP(多血小板血漿)療法は自分の血液から得た血小板を利用する再生医療の一種。美容医療では肌質改善目的に広く使われている。またb-FGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)をPRPに添加する方法を用いている医療施設もある。

 しかし、日本美容外科学会(JSAPS)の美容医療診療指針(以下簡易的にガイドラインと表記する)では「PRP +b-FGF」の併用には「行わないことを弱く推奨する」と慎重な方針を示している。

 そこで、自身で研究会を率い、日本美容外科学会(JSAPS)再生医療等検討委員会の委員長を務めるジョイアクリニック京都(京都市)院長の林寛子氏にPRP+b-FGFの応用について課題や展望を聞いた。今回は前半をお届けする。

ジョイアクリニック京都院長の林寛子氏。(写真/ジョイアクリニック京都)

ジョイアクリニック京都院長の林寛子氏。(写真/ジョイアクリニック京都)

──PRP+b-FGFはガイドラインで実施に対して慎重なとらえ方をされています。

林氏: 注入した部位にしこりができるなどの問題があると指摘されていますが、私は厳格な基準の下で行えば大変有益な治療になると考えています。

 実態としてはPRP+b-FGFの治療後に皮下に異常なしこりが生じるなどの合併症が報告されています。私はこの治療のメカニズムに重要な「免疫学とサイトカイン」についての理解不足がこのような問題を引き起こしていると考えています。b-FGFはサイトカインの中でも中心的な存在であり、非常に強い作用を持つサイトカインなのです。車に例えるとフェラーリのような存在と言いましょうか。非常に優秀なだけに運転の仕方を熟知しなければ事故になる。それには十分な免疫学の理解が必要なのです。

──理解不足がある?

林氏: そうです。PRPの治療は血小板から放出されるサイトカインのパラクライン効果を期待するものです。パラクライン効果とは、近くの細胞に働きかけることで、これによってネットワークのように連鎖した反応を起こします。b-FGFを使用するか否かも含め、これらの方法は「創傷治癒におけるサイトカインネットワークを利用した再生医療」であるという理解の上に行うことが不可欠です。

──過剰量のbーFGFを添加することはトラブルの原因?

林氏: まず、b-FGFの添加=トラブルの原因と端的に決めつけるのは間違っています。b-FGF=悪ではありません。b-FGFの強い作用を理解した上で、それを適切に使っていく必要があると考えています。先ほどの車のたとえで言うと、大変優秀な車なのです。車の運転のように、「ルールを守って安全に運転する知識と技術を身につけてから慎重に使用するべきである」というのが正しい回答です。

 先日NHKのクローズアップ現代(※8月1日にNHKで初回放送された「その美容医療大丈夫?最新施術トラブルから身を守るには」)という番組でも慎重な意見が報道されていましたが、残念ながら同業の美容外科医の中でも十分なコンセンサスが得られていないのが現状です。日本美容外科学会の再生医療等検討委員会の委員長として安全に行うためのガイドライン作りを急がねばなりませんね。私の使命だと思っています。

──なぜb-FGFの量が多過ぎるとトラブルになるのですか?

林氏: これは、PRPの濃度に対してb-FGFの添加量が適切かどうかについての配慮がされていない場合に起こり得ることです。先ほどお話ししたようにb-FGFは非常に強い作用を持つサイトカインですので、至適量を超えて添加された場合、過剰な組織形成を起こす可能性は十分に考えられます。

──トラブルの原因は他にも?

林氏: なぜトラブルが起こるのかを理解するためには、同じように創傷治癒に関与するサイトカインが多く放出されるケガや傷において、その傷口が治らりづらい状況から推測できると考えています。

 例えば、同じ場所を繰り返し傷つけると綺麗には治りません。同じ場所を爪で掻き続けるとかゆみが慢性化してしまう経験はあるのではないでしょうか。それらは炎症反応が長時間にわたって続いた結果だと捉えられます。

 PRP+bFGFにおいてもインターバルを十分に空けずに数カ月おきに複数回注入した場合にトラブルが生じるのは、頻回に同じ場所を刺激した時と同じような反応だと考えています。皮膚や組織も記憶するので頻回の注入はトラブルの原因になります。

 また、PRPを活性化させるための塩化カルシウムを使用しないこともトラブル対策には重要なことです。

(後半へ続く)

プロフィール

林寛子(はやし・ともこ)氏
ジョイアクリニック京都(Jóia Clinic Kyoto)院長
国立滋賀医科大学医学部卒業。滋賀医科大学附属病院放射線科、大阪市立大学医学部附属病院形成外科を経て、1997年より約8年間、冨士森形成外科医院に常勤医として勤務。03年「眉下皺取り術の効果」が日本美容外科学会誌に掲載され、これが眉毛下皮膚切除術の初の論文となる。05年3月、烏丸姉小路クリニックを開業。2020年4月にJóia Clinic Kyotoに名称変更。日本形成外科学会認定専門医 形成外科専門医。日本美容外科学会(JSAPS)理事、再生医療等検討委員会委員長、日本美容外科学会(JSAPS)美容外科専門医、国際美容外科学会会員(ISAPS)active member、International Master Course on Aging Science(IMCAS) faculty member。Jóiaの名前で歌手活動も続けている。

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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