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PRP+bFGF、リスクと対策──ジョイアクリニック京都院長の林寛子氏に聞く 後半

 PRP(多血小板血漿)療法は自分の血液から得た血小板を利用する再生医療の一種。美容医療では肌質改善目的に広く使われている。またb-FGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)をPRPに添加する方法を用いている医療施設もある。

 しかし、日本美容外科学会(JSAPS)の美容医療診療指針(以下簡易的にガイドラインと表記する)では「PRP +b-FGF」の併用には「行わないことを弱く推奨する」と慎重な方針を示している。

 そこで、自身で研究会を率い、日本美容外科学会(JSAPS)再生医療等検討委員会の委員長を務めるジョイアクリニック京都(京都市)院長の林寛子氏にPRP+b-FGFの応用について課題や展望を聞いた。今回は前半をお届けする。

ジョイアクリニック京都院長の林寛子氏。(写真/ジョイアクリニック京都)

ジョイアクリニック京都院長の林寛子氏。(写真/ジョイアクリニック京都)

──リスクを減らすための注意点は?

林氏: (インタビュー前半で)お話ししたことと重複しますが、PRPにb-FGFを添加する治療におけるリスクにはb-FGFの使用に起因するリスクと、それ以外のリスクもあるのです。

 私がこの13年間で学会や論文で何度も訴えてきたリスクヘッジは主に7項目あります。

 安全に行うためにとても大切なことなので順番に説明していきますね。

 なお、私は独自のプロトコールに基づくPRP+b-FGF を実践し、この治療は「PRPF療法」と名付け、商標登録も行っています。PRPF療法においては、これら7項目を守って実施しています。

安全対策その① 塩化カルシウムを使用しない

 血小板を活性化させるために添加されることが多い塩化カルシウムですが、皮下に注入すると炎症やしこりを作る危険があります。

 製品の添付文書では血管外に入ると硬結、壊死を生じる恐れがあると注意喚起されているので添加しないことが推奨されます。

 PRPF療法では塩化カルシウムは使用しません。

安全対策その② 治療の間隔を十分に空ける

 この治療は人体に備わっている傷を治す免疫反応(=創傷治癒機転)を生理的に利用して組織再生をさせている再生医療です。

 身体はケガやストレスを記憶する性質があります。何度も同じ場所を打つとたんこぶができたり、同じ場所を繰り返し傷つけると治りにくくなったり盛り上がってしまいますよね。

 ワクチンなども2回目3回目に副反応が強く出ることも記憶に新しいかと思います。

 このことからわかるように b-FGF入りのPRPを同じ場所へ数カ月おきに何度も注入すると過剰反応してしまう恐れがあります。2回目の治療を行う場合、十分な間隔を空けることはとても大切なポイントだと考えています。

 PRPF療法のプロトコールでは同じ場所への注入は1年間のインターバルをおくことを原則としています。

安全対策その③ 異物が入っている部位へは行わない

 スレッドリフトの糸、シリコンプロテーゼなど人体には存在していないものを異物と言いますが、それに対して免疫反応が攻撃する可能性がありますので、異物のある周囲に行わないようにすることが大切です。

 また、注入部位周囲の細胞に働きかけて組織を再生することから、すでに脂肪注入された部位にも行わない方が無難です。注入された脂肪は元々の場所の性質を持ったまま(ドナーのお腹や内太腿の脂肪と同じ性質)なので、お顔の脂肪と性質が違う脂肪が増えてしまうと不自然になる可能性が高いためです。

安全対策その④ PRPに白血球をいれない

 PRPを精製するときにバッファーコートという白血球を多く含む部分を入れる施設が多いのですが、白血球は炎症性サイトカインを産生してしまい、治療後に発赤や熱感を引き起こしてしまいます。また治療後にアレルギーを生じることもあります。

 以前、W-PRPという名称でわざと白血球を多く入れる方法を行っていた施設がありますが、このような危険なトラブルが多く生じていました(今でもされている施設があるかもしれません)。このことは整形外科領域でもすでに知られていることで、関節内にPRPを注入する場合、白血球の多いPRPで治療すると関節内に炎症反応が誘起され、痛みが生じ、軟骨に炎症や繊維化が生じるという報告があります。

 PRPF療法では白血球を含まないPRPを使用しますので、アレルギー症状や持続する発赤を生じる危険はありません。

安全対策その⑤  b-FGFの添加量が適切である

 b-FGF(線維芽細胞増殖因子)は作用の強いサイトカインですので、その添加量が大変重要です。京大再生医療研究所との共同研究を経て、PRP1ccに対してb-FGFを10μgという量が適正であることが分かりました。また、PRPは1μl当たり100万~200万という濃度が最も効果があることも判明しました。つまり、人体の創傷治癒という免疫反応の濃度に限りなく近づけた生理的添加量を守ることがb-FGFを使用する場合の最重要ポイントです。

 PRPの濃度とb-FGFの濃度をここまで正確にプロトコールにしているのはPRPF療法だけです。

安全対策その⑥ 必ず1カ月以内にフォローアップする

 もし注入量が多過ぎたり希望にそぐわないボリュームが出てしまったりした場合、1カ月以内であればステロイドの注射でボリュームを減らすことが可能です。必ず1カ月以内に診察することは必要不可欠だと考えています。私はPRPF療法を行った方々の全てに2週間目の診察を欠かさず15年間続けてきました。

──安全基準を守るとリスクも避けられる?

林氏: はい、そう思います。非常によく効くお薬でも容量用法を間違うと副作用が出るように、効果と副作用は表裏一体です。だからと言ってやみくもに全てを否定するのではなく、安全に正しくかつ慎重に行うことで、副作用を最小限にすることが可能です。これは再生医療に限らず全ての医療に言えることなのではないでしょうか。

——ガイドラインでは「行わないよう弱く推奨」とされている。そこに自身の2本の論文が引用文献になっている。

林氏: 私が出した論文以外に安全性について記載したものはないためです。できることならば有効性と安全性を臨床試験や後ろ向き調査で証明し、国内外にエビデンスを示したいと考えています。

 お話ししたように、7項目の厳しい安全基準と生理的で精度の高いPRPF療法はその注入手技も含めb-FGFを添加したPRP療法の最も洗練されたプロトコールだと自信を持って言えるところまで来ました。研究会の仲間のドクターの症例を合わせると数千例を超えますが、この10年間いまだに大きなトラブルの報告は聞いておりません。

 PRPF療法は脂肪注入に優る画期的な方法で、目の下のクマやほうれい線はもちろんのこと、今まで方法がなかった首の横シワや手の甲の老化にも広く適応できます。また、ケロイドやヤケド後の皮膚や外傷後のへこみ、先天奇形や術後変形など形成外科領域にも今後広く応用が期待できる恩恵の多い方法になると信じています。

 PRPF療法研究会を主宰しています(公式サイト:https://www.prpf.jp)。

 2013年にPRPF療法研究会を立ち上げ、毎年再生医療に関する講演会とワークショップを開催し、さらに2カ月ごとにオンラインでの症例相談会を主宰しています。この研究会は形成外科専門医を持つ美容外科医と基礎研究分野の共同研究者とで構成されています。

 会員相互の技術向上に努めるだけでなく、学術データの構築(臨床症例・エビデンスの蓄積)を継続的に行うことでこの治療の理解や知識を深め、より安心安全な精度の高いPRPF療法の継続を目的とし、学会発表や論文投稿で国内外へ正しくPRPF療法を啓発し広めることを目的としています。

PRPF療法研究会で技術を伝えている。ジョイアクリニック京都院長の林寛子氏。(写真/ジョイアクリニック京都)

PRPF療法研究会で技術を伝えている。ジョイアクリニック京都院長の林寛子氏。(写真/ジョイアクリニック京都)

プロフィール

林寛子(はやし・ともこ)氏
ジョイアクリニック京都(Jóia Clinic Kyoto)院長
国立滋賀医科大学医学部卒業。滋賀医科大学附属病院放射線科、大阪市立大学医学部附属病院形成外科を経て、1997年より約8年間、冨士森形成外科医院に常勤医として勤務。03年「眉下皺取り術の効果」が日本美容外科学会誌に掲載され、これが眉毛下皮膚切除術の初の論文となる。05年3月、烏丸姉小路クリニックを開業。2020年4月にJóia Clinic Kyotoに名称変更。日本形成外科学会認定専門医 形成外科専門医。日本美容外科学会(JSAPS)理事、再生医療等検討委員会委員長、日本美容外科学会(JSAPS)美容外科専門医、国際美容外科学会会員(ISAPS)active member、International Master Course on Aging Science(IMCAS) faculty member。Jóiaの名前で歌手活動も続けている。

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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