ヒフコNEWSでは監修に医療法人医誠会国際総合病院医療美容センター長の細川亙氏を迎えている。日本形成外科学会理事長など歴任し、現在は2023年10月に大阪市で新たに開院した医療法人医誠会国際総合病院の医療美容センター長を務める。美容医療の領域では形成外科医の役割が注目されている。形成外科の経歴を歩んだ細川氏から、美容医療のこれからについて聞いた。後半は、美容医療センター長を立ち上げた経験と、美容医療への提言を語る。(聞き手、星良孝=ヒフコNEWS編集長)
細川亙氏
医療法人医誠会国際総合病院医療美容センター長、大阪大学の形成外科学教室初代教授
- 美容医療への本格的な関与→2018年にJCHO大阪みなと中央病院の院長に就任し、美容医療センターを設置。
- 設立に至る経緯→公的病院で前例のない取り組みをするため、自身が責任を取る覚悟で設置を決定。
- センターの成果→被害者の受け皿として機能し、安全な美容医療を提供。
- 今後の取り組み→2024年10月に開院の医誠会国際総合病院で、医療美容センター長として引き続き安心安全な美容医療を目指す。診療体制を整備中。
──美容医療センターを立ち上げた。
細川氏: 本格的に美容医療に関わるようになったのは、2018年にJCHO大阪みなと中央病院の院長に就任したことがきっかけです。大学の定年を2年後に控えた時期に引き受けたものです。このときに私の判断で設置したのが美容医療センターでした。
お話ししたように、形成外科に関わっていると、美容医療のトラブルで被害に遭った人の合併症や後遺症を治療することが多くあります。私も幾度となく美容医療のトラブル後の症例を診てきました。皮膚が死んで赤黒く変色するケースや、失明に至るケース、あるいは死に至るようなケースもあります。
──そうしたトラブルの救済を考えた。
細川氏: はい。美容医療センターの設立には、美容医療の被害者を救い、安心で安全な美容医療を提供したいという思いがありました。
しかし大阪みなと中央病院は公的な病院ですから、美容医療に限らず、前例のない取り組みには消極的になりがちです。ですから、美容医療センターを設立するに当たって、本部に責任を取らせるのではなく、私が責任を取るつもりで本部に相談することなく設置を決めました。結果として、センターは美容医療の被害者の受け皿として機能し、また形成外科を基盤とする安全安心な美容医療を提供することもできました。また、美容医療部門は明らかな黒字であり、病院経営に資する部門になっています。設置して良かったとJCHO本部も現病院首脳部も私も考えています。
2023年10月、大阪市北区扇町に医療法人医誠会が国際総合病院を開院し、25年4月には医誠会プレシジョン医療センターという施設を新たに開設する予定です。このセンターは「あなたに合わせた予防医療と先進医療と美容医療」がコンセプトで、美容医療が一つの大きな柱になっており、私はここに招かれて美容医療部門の創設に関わっています。
大阪みなと中央病院での美容医療センターの立ち上げのときもそうでしたが、保険医療のことしか知らない組織の中で美容医療のシステムを立ち上げるにはたくさんの障害が立ちはだかります。医誠会プレシジョンセンターの美容部門が真っ当な美容医療の提供をできる組織になるよう頑張っています。
規制と教育の重要性
- 自費診療であること→保険が使えず、管理監督が甘い。治療の質と価格が一定でない。
- 広い診療圏→広範囲から患者を集めるため広告が必須。広告費が治療費に影響。
- 教育システムの不備→美容外科医の教育が不十分。修行や独学が多く、質が担保されない。
- 2016年の要望書→日本美容外科学会(JSAPS)が施術の安全性と有効性の説明を厚生労働省に要望。
──美容医療をめぐる課題は何でしょうか。
細川氏: 美容医療をめぐっては、2016年に日本美容外科学会(JSAPS)が「施術に使用する薬剤・材料・機器の安全性と有効性の説明が必要」とする要望書を厚生労働省に提出しました。この時は、豊胸のために注入するタイプの施術が多数の健康被害を引き起こすなど、美容医療のトラブルが発生したことがありました。医師の説明が不足するまま、また医師自身が安全性に関する確信がないまま、国が承認していない医療行為が広く行われる事態になったのは問題でした。
美容医療にはいくつかの課題があります。まず一つは「自費診療であること」、次に「クリニックの診療圏が広いこと」、そして最後に「教育システムが確立していないこと」、この3つが特に重要な課題です。
まず、「自費診療であること」に関しては、健康保険が使えないため、厚生労働省の管理監督が緩いという現実があります。自費診療では治療法や医療機器などの選択が医師の裁量に委ねられ、標準治療が確立されていません。そのため、医療の質が担保されず、価格も施設によってばらばらです。
次に、「クリニックの診療圏が広いこと」は、広い範囲から患者(客)を集めなければならないため、宣伝広告が必須になります。これにより、莫大な広告費が経営の重荷となり、最終的には治療費に上乗せされることになります。
最後に、「教育システムが確立していないこと」は、美容外科を志す医師の教育が十分できていない現状につながりますし、将来にわたって禍根になります。大学や大病院での美容医療教育が進んでいないため、既存の必ずしも真っ当でない美容外科クリニックでの修行や独学が美容外科の修練方法となっています。そのため、美容外科医の質は担保されていません。
──美容医療に関する規制についてどう考えているか?
細川氏: 日本の保険医療は、さまざまな課題はありつつも、世界的に見ると、低価格であるにもかかわらず、高品質で安全、安心を保てています。厚労省による規制がうまく機能していると考えています。それに対して、美容医療は自由診療であるために厚労省の規制が甘く、国による承認を経ていない医薬品や医療機器などが一般的に使われています。また自費診療は施術を受ける方と医療機関の自由な契約に基づいて行われ、国が関与しません。しかし、このような自由放任主義のために、日本の美容外科および美容医療は世界的に見ても安心感のないものになっています。
美容医療に関する規制については、厚生労働省が美容医療を担う医療機関の監督を強化し、過度な広告の対策や医師の教育を進めることが重要だと考えています。
現在、厚労省は検討会を開催し、美容医療が安全に提供されるための取り組みを進めています。私たちも美容医療の質を向上させるために努力を続けていきます。
──美容医療を健全化するための提言を聞かせてください。
細川氏: 日本の美容医療が信頼を得るためには、以下の四つの点について考える必要があります。
- 医師の質→倫理的な質と技量の両方が重要であり、悪徳医師の排除が必要である。
- 医療の質→医師教育と医療監査を通じて医療の質を担保するシステムづくりが必要である。
- 施術を受ける方と医療機関の信頼関係→十分なインフォームドコンセントを取ることで、患者との信頼関係を構築する。
- 広告宣伝→広告宣伝の適正化を図り、患者に正しい情報を提供することが重要である。
私たちは「美容医療という業界を信頼される医療の一分野にする」という方向性を持って進んでいくことが重要です。そうすることで、信頼される美容医療を実現していくことができると考えています。
物事の改革を進めるには、どちらを向いて進むかが重要です。「美容医療という業界を信頼される医療の1分野にしたい」というその方向性さえ一致していれば、ほかの些細な意見の違いなどは問題になりません。志のない悪徳医師などは排除しつつ、2つの日本美容外科学会(JSAS、JSAPS)と日本形成外科学会、厚労省や消費者庁、保健所などの行政や立法府が協力して「信頼される美容医療」の実現に遇進していく必要があるでしょう。