ヒフコNEWS 美容医療に関する最新ニュースをお届けするサイト

美容医療の発展と課題と求められる倫理観、厚生労働省の検討会でも構成員として意見、共立美容外科理事長の久次米秋人氏に聞く、前半

カレンダー2024.10.10 フォルダーインタビュー

 美容医療は手術ばかりではなく、フィラー注射や糸リフトなどの非外科的治療が広がったことで利用者の裾野が広がり、急速に発展した。広告やSNSなどの発達で、一般の人たちの美容医療との接点は替わり、より身近な存在になった。しかし、一方で、未熟な施術などで健康被害を負う人が出たり、キャンペーンをきっかけに高額な請求に直面し、トラブルに巻き込まれたりする人たちも多い。国も「美容医療の適切な実施に関する検討会」を設置し、対策を検討している。1989年より医院を運営し、厚労省検討会の構成員も務める共立美容外科理事長の久次米秋人理事長に、美容医療業界の現状や直面する問題について聞いた。(前半)

2024年から厚生労働省「美容医療の適切な実施に関する検討会」構成員も務める共立美容外科理事長の久次米秋人氏。(写真/編集部)

2024年から厚生労働省「美容医療の適切な実施に関する検討会」構成員も務める共立美容外科理事長の久次米秋人氏。(写真/編集部)

久次米秋人氏
共立美容外科理事長

──美容医療を取り巻く風景は大きく変わった。

久次米氏: 共立美容外科は36年前に設立され、日本で先駆的に美容医療に取り組んできました。当時の美容医療は今と比べると未熟な面が多かったものの、私たちはそれでもできるだけ早く治療を提供することに努め、手術後の痛みや腫れなどダウンタイムを短くする方法を追求してきました。

 脂肪吸引のような施術も、今でこそカニューレ(吸引するための管)が非常に細くなり、顔やお腹の脂肪も細かく丁寧に取ることができるようになっているものの、36年前、私たちが美容医療を始めた当時は、もっと太く、入院施設が必要なほどの大がかりな手術でした。今では2.5ミリや3ミリのカニューレを使い、短時間かつ少ない負担で手術を行えるようになりました。私たちは独自に改良を重ねて脂肪吸引のカニューレを開発してきました。当時は学会などであまり発表する機会が少なかったので、私たちが開発した細いカニューレなども他の医師たちにはあまり知られていませんでした。

 学会に発表すると、「そんな細いカニューレでは時間がかかるだけだ」と言われたこともありましたが、私たちはできるだけ負担をかけず、仕上がりも滑らかにしたいという思いで時間をかけて手術を行っていました。その結果、凸凹も少なく、出血も少ない仕上がりを実現することができました。今では細いカニューレが当たり前になっていますが、当時は「時間がかかるからもっと太いカニューレで一気に行えばいい」といった風潮が強かったです。それでも、私たちは最善の方法を常に追求してきました。

──クリニックが増える中で、施術を受ける人たちが置き去りになっている状況も聞こえてくる。

久次米氏: 美容医療は経営を考えるべき側面もありますが、やはり医師として施術を受ける人たち第一に考えるべきです。最近、美容医療も経済的な視点で考える医師が増えてきました。急拡大する美容クリニックも存在する中で、経済的な利益を優先するような動きも見られます。広告やSNSで大々的に宣伝をして人を集めていくものの、その後、トラブルになっているという話が報道されるようになりました。そうした、施術を受ける人を第一に考えていないと思われる経営手法は、美容医療が本来目指すべき方向から外れているのではないかと考えています。

──広告のインパクトは大きい。

久次米氏: 広告の出し方一つにしても、電車広告などで見られる低価格のキャンペーンが、過度に安さを強調して集客する手法として広がっています。しかし、実際に来院したら追加料金が発生し、最終的に高額な料金を支払わされるという、いわゆる「ぼったくりバー」的な商法が一部で行われていることが報道されるようになりました。

 こうした契約が平然と行われていては施術を希望する方々に不親切ですし、お互いに信頼関係を築くのは難しいです。医療面でのトラブル以前の問題といっていいでしょう。ただし、施術希望者とクリニックとの間のやり取りは証拠が残らない場合もあり、詐欺まがいの行為を証明するのは難しく、泣き寝入りせざるを得ない状況も多い。

──美容医療のトラブルを聞かない日がない。

久次米氏: はい。ここ15年ほどの間に急激に増えてきたものだと考えています。私たち共立美容外科も昔は雑誌の広告を出していたこともありましたが、そうした広告は最近は減り、テレビ広告、インターネットやSNSなどの広告が増えました。今では美容クリニックの数も増えて過飽和状態で、競争が激化しているのです。信頼できるクリニックの選択が難しくなっています。

 この結果、価格競争が激化し、全体的なサービスの一貫性や品質の維持が難しくなっています。特に、価格を前面に出すクリニックが増えることで、施術の質よりも価格が重視される傾向が強まっています。

──低価格で美容医療を受けようという人も増えた。

久次米氏: より多くの人が手軽に情報を得られるようになった半面、誤解や過剰な期待を抱く人も増加しています。情報の非対称性を利用して、安易に施術希望者に高額な施術を勧めるような流れができてしまいました。

 目の施術でも「この施術なら30万円です。でも、もう少しお金を出せばもっと良い結果が得られますよ」といった具合に“アップセールス”を繰り返すケースが多く見受けられます。例えば、二重の埋没手術において、糸の結び方をオプションとして設定したり、下まぶたの脱脂の施術で、脂肪の取り方をオプションに設定したりするケースがあります。

 こうした違いは、施術を受ける一般の方には理解するのが難しい。実質的な意味もほとんどないのに、不安や期待を利用し、必要以上に高額な施術を推奨しているのです。それは医師としての倫理に反します。

──美容医療における倫理観の問題に注目している。

久次米氏: 医師としてのモラルや倫理観は、美容医療において極めて重要です。利益を追求するあまり、無理な施術を勧めたり、過剰な治療を行ったりすることは避けなければなりません。施術を希望する方々には誠実に対応し、治療のリスクや限界について正直に説明することで、信頼関係を築くことが不可欠です。

 例えば、来院された方が望んでいる結果が現実的でないと判断された場合には、適切に断る勇気も必要です。安全と満足を最優先に考え、倫理的な医療提供を徹底しています。

 私たちは誇大広告を避け、正確で信頼性のある情報提供を心掛け、広告よりも実際の施術の質とサービスに重点を置いています。来院してきた人たちのニーズに真摯に向き合い、最適な治療法を提案することを心掛けています。信頼関係を築くことが、長期的には満足度向上とクリニックの信頼につながると考えています。(続く)

倫理観が重要と述べる共立美容外科理事長の久次米秋人氏。(写真/編集部)

倫理観が重要と述べる共立美容外科理事長の久次米秋人氏。(写真/編集部)

プロフィール

久次米秋人(くじめ・あきひと)氏
1983年、金沢医科大学医学部卒業。高知医科大学整形外科を経て、89年、共立美容外科を開院し、現在理事長を務める。第107回日本美容外科学会(JSAS)学会長、JSAS理事を務め、24年から厚生労働省「美容医療の適切な実施に関する検討会」構成員なども歴任。

連載の記事一覧

  • 美容医療の発展と課題と求められる倫理観、厚生労働省の検討会でも構成員として意見、共立美容外科理事長の久次米秋人氏に聞く、前半
    https://biyouhifuko.com/news/interview/9403/
  • 美容医療の「直美」問題と専門医資格を取得する意義、信頼ある美容医療を提供するための課題、共立美容外科理事長の久次米秋人氏に聞く、後半
    https://biyouhifuko.com/news/interview/9492/

ヒフコNEWSは、国内外の美容医療に関する最新ニュースをお届けするサイトです。美容医療に関連するニュースを中立的な立場から提供しています。それらのニュースにはポジティブな話題もネガティブな話題もありますが、それらは必ずしも美容医療分野全体を反映しているわけではありません。当サイトの目標は、豊富な情報を提供し、個人が美容医療に関して適切な判断を下せるように支援することです。また、当サイトが美容医療の利用を勧めることはありません。

Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

お問い合わせ

下記よりお気軽にお問い合わせ・ご相談ください。