日本解剖学会は2024年12月27日、2013年に発表した「人体および人体標本を用いた医学・歯学の教育と研究における倫理的問題に関する提言」を再掲した。
この提言は、日本解剖学会のほか、日本病理学会と日本法医学会の理事長の名義で公表されたもの。この中では、遺体や標本の撮影およびインターネットへの掲載を厳禁とし、倫理的な指針を明示した。
献体のSNS投稿問題が社会的に注目される中で、献体を用いた教育や研究の適正な実施を確保するため、同学会が改めて提言の重要性を強調している。
SNSの普及がもたらす問題
同提言の前文では、提言を公表する背景となる法律で求められる点として、 「死体解剖保存法によって、『死因解明』、『医学教育』、『医学研究』という公共の利益となる明確な目的をもつこと、および、遺体の取扱に当たっては礼意を失わないように注意しなければならないことが規定されている(死体解剖保存法第一条および第二十条)」と強調している。
その上で、カメラ機能付き端末やSNSの普及により、個人によるネット向け情報発信が日常化している状況を指摘していた。実際、人体や人体標本が教育・研究以外の目的で撮影され、その画像がインターネット上に流れる事例があると指摘した。「人体および人体標本に対する礼意を欠き、死体解剖保存法の精神から逸脱するものと強く批判されるべきものである」と問題視している。
さらに、 「このような事態を放置しておくことは、医学・歯学の教育と研究における人体および人体標本の使用に対する社会の理解や協力を失い、医学・歯学の教育と研究に大きな支障を来すような事態を引き起こしかねない。さらに、人体および人体標本の提供者の個人情報の遺漏が伴うような事態となれば、その影響は計り知れないものと危惧する」(提言)。
先述の通り、2024年12月に、美容外科医が、献体を背景にピースをした写真などをSNSに投稿し、非難を受けた。現在、献体ばかりではなく、臓器提供まで控えるという意見がSNSで投稿されるようになっている。提言では10年以上前の時点で既に懸念を表明していた。
提言は、ネットリテラシー教育の重要性を強調するなど、解剖に携わる者に倫理観を求めている。今回の再掲を機に、提言内容への理解を深め、倫理的な解剖教育の実現を目指すべきだろう。美容医療の分野でも倫理観の再確認が重要だ。
提言本文(2013年発表)
提言
1.大学等は、学習者に対して、人体および人体標本に接する前に、遺体やその一部である標本、手術による摘出標本等に対する礼意や倫理に関する教育、学習上知り得た個人情報などの秘密を守る義務(守秘義務)に関する教育、さらにネットリテラシー教育を行うこと。
2.大学等は、講義室・実習室において、学習者による人体および人体標本の撮影・録画・録音ならびにそのインターネット掲載の禁止を徹底させること。ヒト以外の動物や動物標本を用いる場合も、人体標本と混同されることを避けるという観点に加え、生命体への畏敬の念を育む意味でも撮影を禁止する。また、実物だけでなくスライドで供覧される標本写真等についても撮影ならびにインターネット掲載を禁ずること。
3.大学等は、人体や人体標本提供者の個人情報の管理を徹底し、学生に提供する情報は教育上必要と認められる最小限なものに限定すること。
以上
平成25年8月1日
一般社団法人日本解剖学会 理事長 河田 光博
一般社団法人日本病理学会 理事長 深山 正久
特定非営利活動法人 日本法医学会 理事長 池田 典昭