福岡県の美容皮膚科で行われた多汗症治療により両手指のしびれを引き起こす合併症が発生していた。
この事故は2024年6月に発生し、同年12月に消費者庁が通知を受理した。これを受けて消費者庁は25年1月9日に事故の発生を公表した。
「腕神経叢」が損傷を受ける

2025年1月9日に医療関連の重大事故を公表。(出典/消費者庁)
消費者庁では、一般の人が受けた健康被害について重大事故とそれ以外の事例に分類して定期的に公表している。
今回、公表された事故の一つとして、美容皮膚科で発生した事故が含まれていた。
事故の内容は次の通り。
事故発生日 | 通知受理日 | 製品名等 | 被害状況等 | 事故内容 | 事故発生都道府県 |
---|---|---|---|---|---|
令和6年6月21日 | 令和6年12月27日 | 医療サービス(美容皮膚科) | 重症1名 | 美容皮膚科において、多汗症治療の施術を受けた後、両手指にしびれ等を発症。他院を受診したところ、両腕神経叢損傷と診断された。 | 福岡県 |
多汗症治療の施術は、複数の方法がある。今回、消費者庁の公表資料では施術法の詳細は示されていないが、腕の深部に存在している「腕神経叢」が影響を受けたことから、施術によりこの神経に影響が及んだことになる。
※腕の付け根の領域には、複数の神経が通っており、その状態は叢(くさむら)になぞらえて、「腕神経叢」と呼ばれている。
2022年には多汗症治療で死亡事故の報告
今回の2024年の事故では具体的な施術法が特定されていない。一方で、多汗症治療を巡っては2022年にマイクロ波による熱を利用した施術に関連した死亡事故が報告されている。
そのケースは、マイクロ波による重度の原発性腋窩(えきか)多汗症の治療を目的とした医療機器(一般的名称マイクロ波メス、商品名Miradryシステム、以下ミラドライ)使用者で発生したものだったことが報告された。
※重度の原発性腋窩多汗症は、汗の分泌が促される病気がないにもかかわらず、過剰な発汗が脇の下に続く症状を言う。腋窩とは脇の下のこと。
この死亡事故は、下腹部の周囲を含む部位にミラドライの治療が行われ、発熱や出血などの副作用が起きて、全身に症状が広がり、6日目に亡くなった。
この事故の後、国内の医学会などが脇以外の部位へのミラドライの有効性や安全性が確立されておらず、使用は推奨されていないと指摘。適用部位以外の使用は、重大な副作用につながるリスクがあり、使用は禁止すべきだと説明した。
当時のヒフコNEWS記事で、大阪大学名誉教授の細川亙氏は、「高度の熱傷事故は、普通は起こらないものだ。どのような使い方をするとこのようなことが起こるのか、また、認可された腋窩での使用ならば決して起こらないことなのかというような疑問を十分に検討したうえで、しっかりと対策を明確にしていくことが重要」と指摘していた。
24年の事故では手指のしびれなどの症状が確認されており、22年の死亡事故とは被害の内容が異なる。また、24年の事故では施術法が特定されていないため、22年に報告されたマイクロ波治療と同じ手法であるかは明らかではない。しかし、多汗症治療全般において、施術後の合併症のリスクが課題であることは共通している。施術法の違いを問わず、神経や周辺組織への影響が及ぶリスクがあることが示されている。これを踏まえ、多汗症治療では、脇に対する治療を含めて、医療機関と十分に相談し、安全性や適用範囲を確認することが不可欠だ。