
解約を巡るトラブル。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
美容医療では、施術料が高額になる中で、クリニックに施術を勧められて受けることを決断する状況はよくある。いったん契約しても、仕上がりや合併症などの不安はあることから、施術を本当に受けるか判断に迷うことも珍しくない。
こうしたことから解約に至ることもあり、この場合にキャンセル料が問題になりやすい。
国民生活センターは2025年3月26日、「鼻の美容整形」のキャンセル料を巡ってクリニックと施術希望者の間に起きたトラブルと、その後のやりとりの経緯を公表した。
カウンセリングの不透明さも争点に

施術希望者が国民生活センターに相談。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 事例の背景→ AさんはSNS広告を見て美容クリニックの無料カウンセリングを受け、当初予算40万円に対し、約100万円の契約を結ぶことになった。
- 勧誘の経緯→ 医師から「過去の施術が失敗しており修正が必要」「当日契約で無料にする」などと勧められ契約。カウンセリングは3時間に及び、医師との対話は10分程度にとどまった。
- トラブルの内容→ クリニックは契約当日の午後6時半まで無料でキャンセル可能と伝達。結局、翌日にキャンセルとなり、契約金額の20%にあたるキャンセル料約20万円の請求となった。
国民生活センターは「紛争解決委員会」と呼ばれる組織を持っており、この中で消費者が巻き込まれたトラブルを解決しようという取り組みを続けている。これは「ADR(裁判外紛争解決手続)」と呼ばれ、裁判とは異なる形でトラブルを解決する制度。同センターでは、ADRで対応したトラブルのうち、重要なケースを公表している。直近の3月、仲介手続きを行った事例を新たに公表した。
今回、公表されたケースの一つは、冒頭で述べたように、鼻の美容整形の解約料に関するトラブルだった。
報告によると、施術希望者(以下、Aさん)は2024年4月下旬、SNS広告を見て美容クリニックの無料カウンセリングに訪れ、予算の40万円を超える約100万円の施術契約を結ぶに至った。
Aさんは当初、鼻尖形成のモニター価格約17万円に関心を持った。すると、その治療は効果が薄いと説明されたという。こうして複数の施術を組み合わせた約200万円のプランを提案された。セカンドオピニオンを聞いてみたいと伝えると、院長が鼻を触られ、「過去のプロテーゼを挿入する施術が失敗し、修正が必要。本日中に契約すればプロテーゼ入れ替えが無料」と強く勧められたという。そのほかにも当日の午後6時半までであればキャンセルは無料であると伝えられ、Aさんによれば、とりあえず契約しておくべきだといわれ、契約を結んだとされた。
カウンセリングは約3時間に及び、その大半はカウンセラーとの面談で、院長との対話は最後の10分程度。この間に、十分な検討時間を持てなかったという。契約書には無料とされたプロテーゼの除去と挿入が有料であるかのような記載があった。その場での詳細な説明はなく、収入がないためにローンを断り、両親の家族カードで一括払いし契約したという。
その当日午後6時半に契約確認の電話連絡があり、Aさんは9月以降の施術希望を伝え、9月上旬の日程を抑えてもらうに至った。当日中に親に相談し、再検討し、翌日にキャンセルを申し入れたが、クリニック側はキャンセルには応じたが、契約金額の20%(約20万円)をキャンセル料として求めた。これに対してAさん納得できず、消費生活センターへの相談を経て、キャンセル料を支払わない道を探ったが回答は変わらず、ADRの手続を進めることになった。
- クリニック側の主張→ 説明は適切で契約を強要していないと説明。キャンセルのタイミングもあったと主張し、予約枠確保による機会損失を理由にキャンセル料を請求。
- 利用者側の主張→ プロテーゼ挿入の失敗を強調され、「このままだと大変」と不安を煽られたことが契約の決め手だったと説明。別クリニックでは問題なしとの見解も得ていた。
- ADRの判断と結果→ 手術が4カ月以上先で、翌営業日前のキャンセルだったことから、20%のキャンセル料は「平均的な損害」を超えると判断。最終的に5%に減額され、約97万円を返金する内容で和解が成立した。
当初クリニック側は交渉に応じる意向を見せなかったが、文書を送付するなどして協力する旨の回答があった。
その後の双方への聴取では、クリニックは説明に問題はなく、Aさんにキャンセル料の説明はしたが、契約を勧めたわけではないと弁明。キャンセルの電話がなかったことから、契約の確認をしたと伝えた。キャンセルのタイミングはあったと説明した。予約枠を抑えるために医師や看護師などの手配を行い、機会損失になっているなどと説明した。
一方で、Aさんは、クリニックから、プロテーゼの失敗事例の画像を見せられ、「このままだと大変なことになる」と言われたことが、契約の大きな決め手になったと説明した。契約後、他のクリニックに意見を求めた結果、プロテーゼ挿入に問題はないという見解も得られた。
仲介委員は、手術が4カ月以上先である点や、契約翌日の営業開始前の申し出であることなどを踏まえ、キャンセル料20%が消費者契約法第9条第1項第1号の「平均的な損害」を超えると指摘。キャンセル料は、解約によってクリニックが被る平均的な損害を目安に設定される。平均的な損害を超える部分は無効であるとされている。
最終的に、クリニック側は和解を選び、キャンセル料を5%に減額、約97万円を返金する条件で和解が成立した。クリニックは今回の事案を受けて、口頭によるキャンセル申し出の扱いや、契約・勧誘手続の見直しを検討する意向を示した。
解約トラブル上位にエステ脱毛や医療サービス

解約に関連して毎年3万件の消費生活相談が寄せられている。(出典/消費者庁第1回解約料の実態に関する研究会)
国内では解約料に関する消費生活相談件数が毎年3万件以上発生している。このうち美容関連では、脱毛エステや医療サービスに関する相談も少なくない。22年度の相談件数のうち、脱毛エステは890件、医療サービスは492件だった。
ヒフコNEWSでも、鼻の手術に関連して当日キャンセル料が100%となったことによるトラブル、アートメイクでのキャンセル料を巡るトラブルなどを報じている。
美容医療の契約は高額になりやすいが、契約前には十分に検討したり、セカンドオピニオンを得たりすることは可能。またキャンセルポリシーについても、事前に必ず確認することが重要だ。
今後、業界ガイドラインが作られる予定だが、このようなトラブルを防ぐための説明の仕方も盛り込まれる可能性がある。安心して受けられる美容医療の環境整備が今後の課題となる。