ヒアルロン酸などフィラー治療のトラブル防ぐ秘訣とは?第111回日本美容外科学会でシンポジウム
ポイント
- フィラー治療の内容については、医師から十分な説明を受けるようにする
- まれながらフィラー治療後に軽微なものから重いものまで問題が起こる可能性がある
- 過去の問題を認めず完全に安全だと主張する医療機関の説明は鵜呑みにできない
第111回日本美容外科学会(JSAS)において、「フィラー治療 トラブルシューティング こんな時どうする(ヒアルロン酸・ボトックス)」というシンポジウムで、多くの医療関係者が熱心に聞き入っていた。会場後方にもあふれんばかりの聴衆が集まり、多くの施術を経験した最前線の医師から語られるトラブルを防ぐ秘訣への関心の高さを物語った。
「副作用も説明してくれる医療機関が好ましい」
座長と演者を務めた今泉スキンクリニック(東京都港区)院長の今泉明子氏は、施術の際に医師が丁寧なコミュニケーションを取ることの重要性を強調した。ヒアルロン酸の種類や注入する部位、期待される結果、起こり得るトラブルなどについて、丁寧な話し合いを持つことが欠かせないという。
その上で、万が一問題が発生したときにも、正面からトラブルの解決に取り組むことが施術した医療機関の責任であると認識するよう呼びかけた。
今泉氏はフィラー治療のトラブルについて順に説明した。この中で、ヒアルロン酸注入については、起こり得るトラブルが大きく2つに分けられると整理した。一つはヒアルロン酸による血流障害、もう一つは細菌感染によるバイオフィルムの形成。医療関係者は、このようなトラブルに対応できるよう事前に十分な準備をし、特に注意すべき失明の合併症を防ぐために、必要があれば速やかに救急搬送できる能力を持つよう強調した。また、注入後に感染が起こり、細菌が膜状の物質を作るバイオフィルムについては、衛生的な施術を心掛けるよう説明。対策の一つとして、メイクについて挙げ、施術前にはメイクを落とし、施術後も化粧を控えるなど注意点に触れた。
「千回トラブルがなくても、次の1回でトラブルが起きる可能性を常に考えておくことが重要。トラブルが起きたときには、逃げずにトラブルシューティングを行わなければならない」と今泉氏。
また、今泉氏は、シンポジウム後に施術を検討している一般の人たちへのアドバイスとして次のように述べた。
「過去にトラブルが1回もないので大丈夫、大丈夫と説明するような医療機関は好ましくない。ヒアルロン酸注入に取り組んでいると、どうしてもトラブルは起こることがある。そうした副作用についてきちんと説明してくれる医療機関が良いだろう」
ヒフコNEWSで伝えているように美容医療ではトラブルが起こることは確かである。医療機関からの「絶対安全」といった説明は鵜呑みにせず、副作用まで説明してくれる医療機関で施術を検討するのは賢明だろう。
鼻の血管に見られる個人差には注意が必要
続いて登壇したBIANCAクリニック(東京都中央区)理事長の堀田和亮氏は、鼻先のヒアルロン酸注入について注意点を述べた。鼻先のヒアルロン酸は、血管を詰まらせたり、鼻先の組織が壊死したり、最悪の場合には失明に至るリスクが高いとされる。その背景について、堀田氏は鼻筋に沿って存在する「鼻背動脈」の経路に個人差があり、注入のときに血管を傷つけやすい注意点を図解した。通常、鼻筋に沿って一対があるが、それに当てはまるのは3分の1の人しかおらず、ほかの人たちは一本しかなかったり、斜めに横切っていたり、人により異なるという。堀田氏は聴講者に対して注入のポイントを説明しながら、血管の個人差を考慮してフィラー治療に取り組むよう求めた。
シンポジウム後、堀田氏は、「フィラー治療に伴うトラブルに遭わないようにするためには、施術を検討する段階で、施術件数が多い医療機関を選ぶと良いだろう。私たちも最近5カ月だけで1338件に対応したが、過去を振り返ると数万件を経験している。施術件数は重要だと思う」と述べた。
また続いて登壇した麻布ビューティクリニック(東京都港区)理事長の加藤聖子氏は、目の下のクマへの対処方についてノウハウを披露した。加藤氏は、若い人は手術に前向きであるのに対して、年を重ねるにつれて手術に消極的になりフィラー治療での解決を望む傾向にあると説明した。目の下のクマについては一般的にはトラブルは少ないものの、小さな問題が起こることはあり、そこに対処する必要があるとした。その一つとして紹介したのは、ヒアルロン酸注入後に水分が吸収され、膨らみが目立つようになる「チンダル現象」。このために目の下のくぼみ(ティアトラフ)にヒアルロン酸注入した場合に、たるみが目立つことがある。しかし、ティアトラフへの注入量を最小限に抑えつつ、ほおをリフトアップさせるように、ほおに戦略的にヒアルロン酸を注入することで、これを防ぐことができると解説した。
あらおクリニック(横浜市青葉区)院長の荒屋直樹氏は、フィラー治療で起こり得るマイナートラブルの予防法と対処法を解説した。失明や皮膚壊死などの重大なトラブルに注意するのは大前提だが、そのほかのマイナートラブルとして皮下出血、肌の盛り上がり、痛み、アレルギー、施術に対する不満などを挙げた。
その一つとして、フィラー治療後の変化に対して、特に年を重ねるにつれて、施術を受けた本人がその変化を受け入れづらく、不満を感じる問題を説明した。「これに対処するために、段階的に注入するフィラーの量を増やし、医師の判断に頼るだけではなく、本人からのフィードバックに基づいて決定するのが大切」と荒尾氏。
シンポジウム後には、今泉氏が強調したように、荒尾氏も「医師が慢心しないで取り組むことが重要」と述べた。
参考文献
フィラー注入のリスクと合併症。影響を受けやすい顔の部位とは?
https://biyouhifuko.com/news/research/787/
「異物肉芽腫、しこり形成」が美容治療の合併症では最多、厚労省研究班報告
https://biyouhifuko.com/news/japan/1248/
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