
最先端技術を展示するCEATEC 2025では美容関連の新技術も紹介された。(写真/編集部)
年齢や乾燥肌、脂性肌といった従来の分類とは異なる「RNA肌タイプ」に基づいたスキンケアや美容に新たな広がりをもたらす可能性がある。
2025年10月、幕張メッセで開催されたテクノロジー展示会「CEATEC 2025」で、ひときわ注目を集めたのが「RNA–Tech Driven Society」と題された展示エリアだ。
花王、キリン、アイスタイルなどが参画する「RNA共創コンソーシアム」が主催し、RNA(リボ核酸)解析を「美容・健康・社会生活」にまで応用する未来像を提示するものだった。
皮脂から「肌の中」を読む

スマートフォンで撮影された画像から「RNA肌タイプ」を推定できる。(写真/花王)
- RNAとは → DNAの設計図から作られる分子で、体内や肌の「今の状態」をリアルタイムに反映する。
- 花王の技術 → 世界初の「皮脂RNAモニタリング」を開発。あぶら取り紙から採取した皮脂中のRNAを解析し、肌のバリア機能や免疫状態を分子レベルで評価可能に。
- 新技術 → スマートフォンで撮影した素肌画像から「皮脂RNA」に基づき肌タイプを推定する「肌遺伝子モード」を開発。
RNAは、DNAが持つ設計図を基に体内で作られている。DNAのそのときに必要な部分からRNAが作られるので、その変化を捉えることで「いま身体や肌がどのような状態か」をリアルタイムに把握できるのが特徴となる。
そこで、このRNAのデータを活用して、肌や健康状態を理解しようというのが、RNA共創コンソーシアムが進めているプロジェクトの一つ。
花王は、世界で初めて同社が開発した「皮脂RNAモニタリング」を中心に紹介した。
これは、あぶら取り紙で採取した皮脂からRNAを抽出し、解析する技術。皮脂腺細胞が、脂質をため込んだ後に、細胞が崩壊して細胞内のすべての成分を放出する現象に注目。この皮脂の中に、RNAが分解を免れて存在することを突き止めて、分子レベルで解析できることを確認した。
ここから、肌のバリア機能や免疫の傾向を分子レベルで理解できると分かった。
花王によると、RNA発現パターンから、肌は年齢や乾燥肌や脂性肌などの肌質とは別に、大きく2つのタイプに分けられることを発見した。
それは角質に関連する遺伝子が活発な「RNA肌タイプ C1」と、免疫応答に関連する遺伝子が活発な「RNA肌タイプ C2」。大まかにいえば、角質層がバリアになって身を守るタイプと、角質層が薄いかわりに、体内の免疫が働いて、身を守っているタイプとなる。
花王では、スマートフォンで素肌の写真を撮るだけで、皮脂RNAに基づいて肌タイプを推定することに成功。これを「肌遺伝子モード」と呼んでいる。
もともとRNA測定には皮脂採取が必要だったが、画像解析技術の進化により、短時間で肌遺伝子モードを判別できるようになる可能性がある。
また、花王では、RNAに基づいて、肌のバリア機能やターンオーバーを解析して、最適なスキンケアを提案する「スキンポテンシャルアナリシス」、赤ちゃんの皮脂からアトピーリスクを評価する「乳幼児バリア機能検査」といった応用例を紹介していた。
例えば、「スキンポテンシャルアナリシス」では、老化の三大要因である「角化不良」「酸化」「糖化」の状態を目で見えるようにする。その結果に基づいて、食生活、ストレス、運動、睡眠、入浴などの対策をクリアにする。
RNAテックで8つの変化

アットコスメは簡単にRNA肌タイプを推定できるようにする。(写真/RNA共創コンソーシアム)
- RNAスキャン機能 → アットコスメアプリに搭載予定の新機能。顔写真を撮るだけでRNA肌タイプ(C1/C2)を推定し、肌に合った化粧品をレコメンド。
- 実用化の進展 → 2022年に実証実験を開始し、2024年には実用化段階に。RNAデータに基づくスキンケア提案を展開中。
- RNAの未来像 → RNAを血圧や脈拍と並ぶ「新しいバイタルサイン」として日常生活に取り入れ、自身の内面状態を理解する社会を目指す。
アットコスメ(@cosme)を運営するアイスタイルは、肌遺伝子モードを分かりやすく調べられるアットコスメアプリに搭載予定の「RNAスキャン機能」を紹介した。
これは、顔写真を撮影するだけでRNA肌タイプ(C1/C2)を推定し、肌タイプに合った化粧品をレコメンドするというもの。
2022年に実証実験を開始し、2024年には実用化段階に入り、RNAデータに基づいたスキンケア提案を進めている。
また、キリンは、RNA解析を利用して体内時計や免疫リズムを可視化する研究を紹介した。RNA発現の時間的変動をもとに、「その人のリズムに合わせた飲料や栄養提案」を行う未来像を描いている。
会場中央には、「RNAテックで変わる暮らしの8の新基準」と掲げた大型パネルが設置され、未来の生活像を描いていた。
- 朝のRNA周期スキャンで、毎日の体調を測る
- RNA周期に合わせたコスメ選び
- RNA傾向に基づく科学的サプリメント摂取
- RNAリズムに合わせた旅行の提案
- 照明や香りなど住環境の自動最適化
- 学校や企業での心身のRNA健康チェック
- RNAによる肌老化のモニタリング
- 乳幼児のRNAによる肌トラブル防止
RNAは自分のリアルタイムの状態を反映するので、毎日、測るような生活も現実味はある。RNA共創コンソーシアムでは、RNAを血圧や脈拍などと並ぶ新しい「バイタルサイン」として日常に組み込み、自分の体の内側を理解するような未来像を描いている。
「遺伝子レベルで自分を知り、一人ひとりが輝く社会へ」
この展示が示したのは、RNA解析という先端科学を美容や生活設計のインフラに変えるというビジョン。従来の医療や美容を超え、RNAデータを軸にした進化の動きが注目されるかもしれない。CEATEC 2025の展示は、そんな未来の始まりを感じさせるものだった。
