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「不誠実な美容医療に未来はない」と警鐘、形成外科の価値を説く、山脇孝徳氏、田中真輔氏、小川英朗氏、華山博美氏が登壇、日本形成外科学会で議論

カレンダー2024.4.13 フォルダー 国内

 美容医療の領域では形成外科の価値が再評価されつつある。

 2024年4月11日、第67回日本形成外科学会総会・学術集会では「ニッポンの美容外科の未来のために、われわれがなすべきこと」というテーマでシンポジウムが、前日の10日に引き続き開かれた。この中で形成外科の知識や技術が美容医療に生かされる場面が多いことが具体的に示されていた。引き続き形成外科医からの関心は高く、多くの人たちが会場に集まり、立ち見も出ていた。

 形成外科医の間での話し合いではあるものの、一般の美容医療に関心がある人にとっても、美容医療と専門の医師との関係を理解する上で参考になる部分もありそうだ。

形成外科の魅力と若手医師への期待

シンポジウムの企画をまとめたのは、座長を務めた、帝京大学形成口腔顎顔面外科学主任教授の小室裕造氏、RE_CELL CLINIC/リセルクリニック(大阪市中央区)の原岡剛一氏。(写真/編集部)

シンポジウムの企画をまとめたのは、座長を務めた、帝京大学形成口腔顎顔面外科学主任教授の小室裕造氏、RE_CELL CLINIC/リセルクリニック(大阪市中央区)の原岡剛一氏。(写真/編集部)

  • 美容医療への形成外科医の認識→山脇孝徳氏は、形成外科医が美容医療に対して抱く拒否感を克服する必要があると強調。
  • 美容医療と形成外科の共通点→山脇氏によると、美容医療と形成外科は技術的に多くの共通点があり、互いに技術を生かすことが可能。
  • 若手医師の動機→若い医師が美容医療へ進む主な動機は好奇心や経済的理由で、一度美容医療へ進むと形成外科へ戻りづらい状況がある。
  • 美容医療への早期接触の重要性→山脇氏は、美容医療への早期接触を通じて、形成外科医の理解を深めることが技術還元にもつながると説いた。
  • 形成外科と美容外科の協力→田中真輔氏は、保険診療の形成外科と自由診療の美容外科の協力が可能であり、例として口唇口蓋裂の手術後の美容医療による形の整形を挙げた。
  • 美容医療との連携の可能性→再生医療の発展と美容医療の繰り返しによる「美容難民」への対応で、形成外科との連携が重要であるとの指摘がある。

 YOUR FACE CLINIC(東京都港区)院長の山脇孝徳氏は、「『どうせ美容に行くんでしょ』と言わない形成外科教室が勝つ時代」というタイトルで、美容医療に対する形成外科医の拒否感を克服する必要があると強調した。

 「不気味なものを親しみのあるものに変える必要がある」と同氏。形成外科では病気の治療を行う一方で、美容医療ではボツリヌス療法やヒアルロン酸注入など、形成外科でなじみの薄い施術が多く行われる。結果として、形成外科からは「不気味」に見えるが、山脇氏は双方の技術はお互いに生かされるという考えだ。

 山脇氏は形成外科出身だが、美容医療に進むことを希望する若い医師の心理を考えてみることを提案した。同氏によると、美容医療への進出を希望する若手医師は、好奇心や経済的理由を動機としていることが多いという。また、一度美容医療に進むと形成外科に戻りづらい状況により、没交渉になっている面もあるという。

 山脇氏は、これらの動機を逆手に取り、早期に美容医療に触れさせることの重要性を説いた。このような取り組みが、形成外科医の美容医療への理解を深め、技術の還元にもつながるとした。

 「美容医療に実際に行くと、形成外科でやっていることと共通点が多いと気が付く」(山脇氏)

 美容外科をありきたりのものにとらえられるようになれば、形成外科への取り組みも変わる可能性がある。経済的理由や形成外科に戻りづらい状況も、大学に所属しながら、美容外科でも勤務できるようにしたり、いつでも戻っておいでと発想転換したりして自由度を高めると、美容外科で得た技術が形成外科に逆に生かされるメリットにもなると説明した。

 城本クリニック新宿院(東京都新宿区)院長の田中真輔氏は、実際のケースを示しながら、保険診療の形成外科と、自由診療の形成外科の共存、協力できる部分は大きいと述べた。

 典型的な例は、唇や口の中に裂け目ができて生まれる先天異常の口唇口蓋裂の手術で、形成外科で機能を改善した後、美容医療でさらに形を整えることができる。田中氏は場合によっては美容外科で保険適用される部分があってもいいのではないかと話した。

 このほかにも、美容医療を繰り返す美容難民の対応では、形成外科に連携、相談したい場面も多いという。さらに再生医療が盛んに行われているが、有効性や安全性が確かではないこともあり、研究機関と連携できる部分もあるとした。

「不誠実な美容医療に未来はない」

神戸市で開催された第67回日本形成外科学会総会・学術集会の会場より。(写真/編集部)

神戸市で開催された第67回日本形成外科学会総会・学術集会の会場より。(写真/編集部)

  • 脳神経外科から美容外科への転身→小川英朗氏は、元脳神経外科医として美容外科に転身し、美容医療における形成外科の価値を認識。
  • 美容外科の選択と課題→小川氏は美容外科への希望があったものの、医師社会におけるその地位の低さに不安を感じ、当初は脳神経外科を選択。
  • SNSを利用した美容医療の影響→美容医療でのSNS活用に早期から取り組み、国内で有数のフォロワーを持つ医師に成長。しかし、技術よりSNSスキルが先行する「SNSモンスター」の存在を問題視。
  • 形成外科の重要性→小川氏は形成外科医の基礎知識と技術が美容医療でより広範な治療を提供するために不可欠であると強調。
  • 美容外科の成功要因→臨床能力、コミュニケーション能力、適切なSNS利用が美容外科で成功するための鍵と述べ、運も一因としている。
  • 形成外科の活躍の増加→近年、美容外科における形成外科医の採用が増えており、10年前には半数だった形成外科医が、ほとんどになるクリニックもあるとのこと。

 城本クリニック福岡院(福岡市中央区)院長の小川英朗氏は、脳神経外科から美容外科への転身経験を通じて、美容医療での形成外科の価値を語った。

 九州大学出身の同氏は、美容外科に進む希望はあったが、美容外科の医師社会での地位の低さに不安を覚えていたという。形成外科の選択もあったが、九州大学には形成外科の部門がなく、最終的に脳神経外科を選んだ。しかし、後に自分の希望に再び向き合い、美容外科に進むことにした。

 10年近く前、医師は、美容外科へと幅広い診療科から入りやすく、脳神経外科出身であっても、知識や経験を生かして真面目に取り組むことで着実に実績を上げることができたという。美容医療のSNS活用も始まったばかりで、小川氏はそこにも継続的に取り組み、国内でも有数のSNSフォロワーを誇る美容医療の医師の一人になった。

 それでも、「形成外科医がもっと美容医療に関わってもらいたい」と、小川氏は考えている。

 小川氏によると、自身は形成外科を経ておらず、手術で対応できる範囲を一定の難易度に限定せざるを得ないと紹介した。形成外科医であれば、基礎的な知識と技術を得て美容医療に関わり、広い範囲の治療を提供できるのは強みと力説した。

 現状はSNSを使った競争が激化しているが、「技術がなくてSNだけうまくなるSNSモンスターがいる。そうではなくて、技術があってSNSでさらに伸びる医師になってほしい。教育目的のSNSでの情報発信をして、被害に遭う人たちを減らすことにも貢献できる」と解説した。

 小川氏は、「美容外科で成功するためには、臨床能力、コミュ力、SNSが適切な利用が欠かない。それに運も関係する」と話し、美容医療への医師の新規参入が増えて、競争は激しいが、小川氏は、「美容医療が不誠実なままなら美容医療に未来はない」として、形成外科が活躍できるようになってほしいと訴えた。実際、クリニックによっては、10年前は、採用医師のうち形成外科は半数程度だったのが、直近ではほとんど形成外科になっている例もあると紹介した。

病院内の形成外科「四方良し」

神戸市で開催された第67回日本形成外科学会総会・学術集会の会場より。(写真/編集部)

神戸市で開催された第67回日本形成外科学会総会・学術集会の会場より。(写真/編集部)

  • 病院内形成外科の美容医療への貢献→華山博美氏によると、病院内の形成外科が美容医療に関与することで権威が付き、アクセスが容易になるため、SNSで集客する手法とは異なる顧客層を引き寄せることが可能。
  • ブランディングと教育のメリット→病院にとってはブランディング効果があり、受診者にはニーズに応じたサービスを提供することができる。また、医師にとっては学びの場となり、形成外科にとっては強みとなる。

 神戸ほくと病院(神戸市北区)形成外科・美容外科部長の華山博美氏は、病院での美容外科運営20年の経験から、病院内の形成外科で美容医療に取り組むメリットを述べた。

 病院内の形成外科が美容医療の特徴を、美容医療全体の中での位置づけで考えると、権威付けがされていて門戸が広いという特徴があるという。そのためSNSで集まってくるのとは異なる層が、利用しやすい美容医療になるという。

 病院にとってはブランディングになり、受診する人たちにとってはニーズに応える形になり、形成外科にとっては強みになり、医師にとっては学びになるという「四方良しになる」(華山氏)。

 美容医療に形成外科が関わるのは欠かせない時代になるのかもしれない。 

 美容医療の現場で取材していると、美容医療に形成外科の知識や経験はあまり役立たないという声を聞くこともあるが、今回の議論を踏まえると、十分に生かされるのではないかと見える。実際、形成外科医を美容医療に採用する動きも増えていると見られ、今後、形成外科と美容医療はもっと密接なつながりが生まれてくる可能性もありそうだ。

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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