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日本の美容外科の未来、形成外科専門医が求められる理由、神戸大学形成外科教授の寺師浩人氏に聞く

カレンダー2023.10.12 フォルダーインタビュー

 美容整形外科は民間のクリニックが手掛けていることがほとんどだが、一部の大学病院が美容医療を強化する動きも見られる。大学病院は高度な医療を提供するイメージだが、美容医療のトラブルで駆け込み寺になっている面もあるとされる。15年にわたって美容外科の診療科を独立して置き、この4月にいったん形成外科に統合することになった神戸大学では、美容外科に対してどのように取り組んできたのだろうか。同大学形成外科教授・診療科長である寺師浩人氏に聞いた。

──神戸大学は、2008年から15年にわたり大学病院として美容外科に取り組んできた。

寺師氏: その通りです。国立大学の中で、美容外科を独立した診療科として扱っているのは神戸大学だけでした。

 最初の10年間は、一人が主に活動していましたが、5年前にもう一人を迎え入れました。しかしながら、大学の方針もあり美容外科を持続的に続けることは難しくなり、23年4月からは形成外科に統合する形となりました。

──大学病院で美容外科を運営する難しさもある。

寺師氏: 保険診療と保険外診療を分けて行うのは難しさもありましたし、教育や採用も簡単ではありません。しかし、美容外科の教育を行い、人材の輩出もすることはできました。

 大学の方針として美容外科を継続しないことになったのは、私たちとしては残念でしたが、続けてきた保険外診療は突然中止するわけにはいきませんから、外部の医師に手伝ってもらいながら対応を続けています。

 私たちは美容外科への取り組みは続けていきたいと考えていますので、これからの新しい体制を検討しているところです。今後の計画としては、例えば、寄付口座のような形で運営できないかと考えています。企業の協力を得られれば、神戸大学が認めてくれるとも考えています。

──日本の中でも独自の取り組み。

寺師氏: 目指すところとして、教育体制を整えることがありました。日本では、内科や外科など、自由標ぼうといって、医師免許があり、手を挙げれば誰でも自由に名乗ることができるルールになっています。美容外科もそうです。

 ただし、医療は研修をして、専門の研修を受けてというプロセスがあります。

 美容外科ではそのようなプロセスがないいびつな状態が続いてきました。神戸大学では、先駆者として美容外科の教育システムの中で医師を育てようとしてきました。

 もう一つの役割として、美容医療を受けてトラブルになっている方を救うという側面もありました。他の美容外科での治療に失敗したときの障害を診ることができる受け皿になろうとしてきました。いわば駆け込み寺です。

 これら2つが大きいと考えていますが、さらに3つ目として、日本では、日本美容外科学会という同じ名称で、「JSAPS」と「JSAS」という2つの学会が存在しています、それらが上手に機能してこなかったために、学会として専門医を作る仕組みがうまくできていませんでした。ですから、それを実現しようと考えてきました。

神戸大学医学部附属病院。(写真/編集部)

神戸大学医学部附属病院。(写真/編集部)

──美容外科の教育を手掛ける意義は何か。

寺師氏: 形成外科は何らかの障害があって、それをなるべくノーマルに近づける診療科です。それに対して、美容外科は、ノーマルからビューティーに引き上げる診療科です。ある意味で、形成外科という素地があって、初めて美容外科に行けるのではないかと思っています。

 形成外科というのは本来4つの主要な柱があります。一つは、先天奇形を治すこと。もう一つは、キズ(外傷)を治すこと。さらに、できもの(腫瘍)を治すことがあります。それから、美容外科です。手技を駆使して4つの柱をやっています。大学病院では、これら4つの柱のうち、美容外科を入れていないのが日本の現状なのですが、やはり入れるべきだろうという考えが神戸大学だったのです。

 最初から美容外科をやる方もいますが、形成外科を基礎とするルートを作ろうと考えてきました。

──トラブルの対応においては形成外科専門医の資格が役立つ?

寺師氏: 重大なトラブルはよくニュースになりますが、報道されない軽度のトラブルの方がはるかに多いです。その場合に、形成外科専門医を持つ医師が対処に優れていると考えています。

 形成外科専門医は、キズがどうやって治るか、キズを治すときにどういうことをしなければならないか基本を習得しています。キズが治らない、感染するといったケースの対応は形成外科の得意分野です。

 美容外科をやっている人の中には、形成外科専門医を持たない人も多いです。そうした方は、形成外科専門医の称号は不要と考えているかもしれません。しかし、残念ながら、美容クリニックでは、トラブルに対して対応しないケースが多いという実態があるのです。

 例えば、トラブルを経験した方が私たちの元を訪れたときに、トラブルを起こしたクリニックからの紹介状は基本的にありません。対処するために、トラブルを起こした医療機関に問い合わせても十分な情報を得ることができないことも多くあります。

 このような状態が横行していれば、世の中から美容医療はうさんくさいと思われても仕方ありません。

──そうした中で、形成外科と、美容外科が同じ大学に置かれる意義とは。

寺師氏: 形成外科と美容外科が一緒にあることで、形成外科から見て、美容外科が考えていること、美容外科から見て形成外科が考えていることを、互いに理解することができます。それは形成外科にとっても、美容外科にとってもレベルアップにつながるのです。

 カンファレンスでは、互いに意見のやりとりがあります。手術についてはすべての方の手術記録と写真を、医師全員が見ます。小さなホクロの手術であっても、手術記録を見ます。全員が集まってカンファレンスする中でもまれていきます。白熱したディスカッションがあります。

 診療の質を上げる上で、さきほど申し上げたように、美容外科にとっては、形成外科の基本は重要ですが、逆に形成外科においても美容外科の見方は必要です。

 例えば、ほんの小さな見た目の違いがあるときに、それでもいいじゃないかと考えてしまえば、形成外科のレベルは落ちると思います。治療を受けた本人が違和感を持っていたら、それは良くないと考えます。このような見た目を重要視する面は、ほかの医療分野では一般的ではありません。形成外科には美容外科の要素は必ず求められます。

──教育はどのようなプロセスで進められるのか。

寺師氏: 日本の医師の研修は、国家試験に合格後に2年間の研修を経て、その後、形成外科を含めた19の基本診療科のいずれかの専門研修を4年間受けて専門医が取れます。つまり専門医の試験は7年目に受けることになります。

 私たちが重視しているのは、美容外科医を目指す学生も、まずは形成外科の基礎となる教育を受け、専門医としての資格を取得した上で、さらに美容の分野に進むという流れです。この方針に基づき、多数の美容外科医を輩出してきました。

 彼らは形成外科の基本的な手技や知識を身につけた上で、美容の分野での活躍をしています。

──大学病院と民間のクリニックとの収入の違いは問題になる。

寺師氏: 民間のクリニックにおいて自由診療で得られる収入は大きいので、大学病院の形成外科の中で、診療、教育、研究に忙しく取り組むよりも、家族があるなど事情があれば、民間のクリニックで診療だけをやった方がよいという考え方はあるでしょう。そのように経済的な観点から見ると、形成外科の中で研修を続けてから、美容外科に進むというプロセスは難しいところではあります。

 しかし、形成外科において、美容外科も含めて専門性を高めていくことが、長い目で見ると、社会を良くするのではないかと考えています。

──形成外科と美容外科の交流は意味がある。

寺師氏: 私は2024年4月に、第68回日本形成外科学会総会・学術集会で会長を務めますが、「ニッポンの形成外科に未来を託す」というテーマで開催します。この中では、美容外科も重要な柱と位置づけています。偉い人が話すというよりも、若い人が話す機会を増やしたいと考えています。

 美容外科の分野でも、JSAPS、JSASという2つの学会の医師双方から是非参加していただきたいと考えています。美容外科の医師にとっても、形成外科とは、このようなことをやっているのだと知ってもらえると思いますし、美容外科に役立つところがあると考えています。そのように考えるきっかけになってくれれば嬉しく思います。

 美容医療を受ける一般の方々に、形成外科専門医が美容外科を手掛けている意義について理解していただければ幸いです。

形成外科の基礎が美容外科に役立つと説明する神戸大学の寺師氏。(写真/編集部)

形成外科の基礎が美容外科に役立つと説明する神戸大学の寺師氏。(写真/編集部)

プロフィール

寺師浩人(てらし・ひろと)氏
神戸大学形成外科教授・診療科長
1986年、大分医科大学(現大分大学)医学部医学科を卒業し、同大学付属病院での勤務を開始。97から99年、米ミシガン大学医学部形成外科で2年間の勤務。01年、神戸大学医学部附属病院形成外科助教授に就任。12年、神戸大学大学院医学研究科形成外科学教授。19年、大阪大学大学院で招聘教授(兼任)を務める。19年9月、日本フットケア・足病医学会の理事長に就任。

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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