歯科医療や美容医療のほか、再生医療や免疫療法も手掛ける「サカイクリニック62」(東京都渋谷区)の医療広告の内容が違法であるとして、消費者団体が差止請求訴訟を提起した。
原告である消費者機構日本が2024年9月10日にこの件を発表し、8つの治療に関連した広告が消費者に対して誤解を招く表現を含むとして訴状を提出したと公表した。
再生医療や免疫療法の広告が問題と指摘
消費者機構日本が問題視したのは、サカイクリニック62による再生医療や免疫療法などの8つの自由診療として行われている治療に関連した広告内容。これが景品表示法の不当表示に該当すると訴えを提起した。
※自由診療とは、医療を受ける人が自己負担で受ける医療のこと。また、国が公式に医薬品の製造や販売を認めることを承認または薬事承認といい、承認を受けていないことを未承認という。
問題としている自由診療の治療は、「マクロファージ活性化療法」「テロメア注射」「エクソソーム点滴療法」などで、これらの治療法が「老化防止」や「若返り」をもたらすとうたっているという。しかし、消費者機構日本によると、これらの治療法には十分な科学的根拠がなく、効果や安全性に関する裏付けが乏しいと指摘している。これらの治療法が他の治療と比べて優れているかのように表現されていた点が景品表示法が禁止する不当表示、特に優良誤認表示に該当するとして、広告の差止を求めている。
消費者機構日本は、クリニックの広告が消費者の期待を煽り、適切な治療選択を誤らせると主張している。
消費者機構日本は提訴に至るまでの経緯も説明した。
今回の提訴は、消費者団体訴訟制度に基づく差止請求である。消費者機構日本が消費者からの被害情報を受け、訴訟を提起するに至った。
※消費者団体訴訟制度は、内閣総理大臣が認定した適格消費者団体が、被害者の利益を擁護するために、差止めを求めるなどの権限を与えられる制度。消費者機構日本は適格消費者団体の一つ。
消費者機構日本は24年4月にクリニックへ質問書を送付し、同クリニックの事務担当者からホームページに掲載しないという回答を得たというが、その後も広告表示が改善されなかった。
同団体は、24年7月に、広告内容の修正あるいは削除を求める申し入れ書をクリニックに送付。
さらに、8月に法律に基づく差止請求書を送付。その後、改善が見られなかったことから、提訴に踏み切った。
差止請求の対象になっている自由診療で行われている治療は次の通り。
治療法 | 優良誤認表示とされている内容 |
---|---|
マクロファージ活性化療法 | アレルギー性疾患、自己免疫疾患、がん(早期・末期含む)、アトピー性皮膚炎、傷、熱傷、感染症、糖尿病、骨粗鬆症、不妊症、美肌、花粉症、アルツハイマー、精子・卵子の活性化などに対する効果があるとうたう表示。 |
マクロファージ活性化化粧品・サプリメント | がん治療、アトピー性皮膚炎、アレルギー性疾患、肌免疫細胞の活性化、更年期症状、ホットフラッシュ、新型コロナ後遺症、味覚障害、慢性疲労症候群に効果があるとする表示。 |
テロメア注射・点滴 | 小じわ、肌荒れ、白髪、浮腫み、痩身、自律神経調整、更年期障害、不妊治療、アルツハイマー、鬱、アレルギー、アトピー、がん、認知症、パーキンソン病、自閉症、糖尿病、動脈硬化、ED、脳機能亢進などに対する効果があるという表示。 |
腸内フローラ移植 | 腸内疾患、肥満、美肌、自閉症、アトピー、喘息、鬱などに対する効果があるという表示。 |
エクソソーム点滴療法 | エクソソーム含有量が他の治療法より圧倒的に多い、安全性が高い、日本最高品質、免疫力維持、アンチエイジング、疲労回復、睡眠の質改善などに効果があるとする表示。 |
マイクロウェーブ温熱器による温熱療法 | がん細胞を死滅させる効果があるとする表示。 |
高濃度水素吸入療法 | 脳血流増加、認知症予防、肥満、コレステロール改善、脳梗塞後遺症、痛み緩和、便秘改善、肺機能向上、若返り、新型コロナ後遺症に効果があるとする表示。 |
ACRS(自己血サイトカインリッチ血清療法) | 副作用がない、安全性が高い、アレルギー改善、免疫機能改善、肌や歯肉の若返り、リウマチ、更年期障害に効果があるとする表示。 |
同クリニックのウェブサイトのほか、インスタグラム、Youtube、Xなどの情報発信の内容が差止の対象になる。
規制強化が進む医療広告
これまでにヒフコNEWSが伝えている通り、自由診療で行われる医療行為は一部再生医療については安確法の下で、民間審査を経て行われているものがあるが、国内で未承認のものも多く、安全性や有効性が乏しいものがあると指摘されている。
※安確法は、再生医療等の安全性の確保等に関する法律の略称。再生医療法と呼ばれることもある。
今回の提訴で問題視されている法律に違反した状況は、エクソソームなどを手掛けている他のクリニックの広告においても問題視される可能性がある。
医療広告をめぐっては規制強化の動きが活発になっている。この8月にも、厚生労働省が取り締まり強化のために行政による指導のひな形を作成した。
消費者が誤解を抱かないようにするための広告基準は既に医療広告ガイドラインとして示されているが、多くの医療機関でルールが守られていない実態がある。国としては違法状態が放置されている状況を正そうとしている。
そうした中で、消費者機構日本によると、医療広告と優良誤認表示についての論点で争われる裁判は国内で初めてである可能性があるという。訴訟を通じて、自由診療の医療広告における「優良誤認表示」の判断基準がより明確になると推測される。
美容医療を含めた自由診療の広告をどう適切にしていくかという点で注目されることになる。ネット、SNS広告の内容が改善されることが望まれる。