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ピコ秒レーザーの安全性と効果を高める2つの研究、シミや刺青などの治療条件を最適に、第42回日本美容皮膚科学会で下条氏と宮田氏が講演

カレンダー2024.10.7 フォルダー 国内

 美容医療において、シミや刺青などを安全かつ効果的な治療の技術が進化している。

 2024年8月31日から9月1日にかけて名古屋市で開催された第42回日本美容皮膚科学会では、大阪公立大学大学院医学研究科皮膚病態学薬物生理動態共同研究部門ポスドク研究員、大阪大学大学院工学研究科招へい教員の下条裕氏と、みやた形成外科・皮ふクリニック院長の宮田成章氏が、ピコ秒レーザーの安全性向上に関する最新の研究成果を発表した。

レーザーの条件を最適にして合併症を予防

  • ピコ秒レーザーの特徴→ 1兆分の1秒の短い時間で光を照射し、メラニン色素や刺青インクを効果的に破壊し、周囲の肌へのダメージを軽減する技術。
  • 下条氏が「治療モデル」を作る→ スキンタイプやメラニンの分布、レーザーの設定条件に基づき、個別に最適な治療を提供し、合併症リスクを低減する。
  • 目標→ 下条氏は、ピコ秒レーザーの効果と安全性をさらに高めることを目指している。

 下条氏は、シミなどの色素性の病変において、メラニン色素を持った細胞内の小器官「メラノソーム」を選択的に破壊できるピコ秒レーザーが注目されている背景を述べ、その安全性と有効性を高めるための研究を発表した。

 まず、ピコ秒レーザーについて簡単に説明する。ピコ秒とは、1兆分の1秒という短い時間の単位。この単位で表現されるような極めて短い時間で光を照射することで、標的となるメラニン色素(シミやそばかすの原因)や刺青のインクなどを効果的に破壊することができる。従来のレーザー治療よりも周囲の肌へのダメージが少なく、治療後の回復も早いと報告されている。

※ナノ秒レーザー、ピコ秒レーザーはそれぞれ1億~10億分の1秒、10億~100億分の1秒の時間単位でレーザー光を照射する技術。なお、100万分の1秒はマイクロ秒単位のレーザー。パルス幅はQスイッチルビーレーザーが20~40ナノ秒、QスイッチNd:YAGレーザーが5~10ナノ秒、Qスイッチアレキサンドライトレーザーが50~100ナノ秒。ピコ秒レーザーはさらに短い250~750ピコ秒のパルス幅でレーザーを出すことができる。これらの技術により、レーザーにより発生させる熱エネルギーを標的に集中させやすくなる。

 しかし、ピコ秒レーザーの効果は一律ではない。肌の色(スキンタイプ)やメラニンの分布、レーザーの照射条件(波長やフルエンス)、スポットサイズ(皮膚表面に照射されるレーザーのサイズ)によって、治療の結果が大きく変わってくる。

スキンタイプ 肌の色が明るい人と暗い人では、メラニンの量が異なるため、レーザーの吸収度合いも変わる。
メラニンの分布 シミの深さや濃さによって、レーザーがどこまで届くべきかが異なる。
照射条件 レーザーの波長(光の色)やフルエンス(エネルギーの強さ)を適切に設定する必要がある。

 これらの要因を無視すると、色素の破壊が不十分だったり、かえって周囲の肌にダメージを与えてしまったりする可能性がある。

 下条氏は、これら複雑な要因を考慮したピコ秒レーザーの「治療モデル」を作り上げた。このモデルでは、皮膚内での光の広がり方や、メラニンがどれだけ光を吸収するか、そして破壊されるために必要なエネルギー量(破壊閾値、はかいしきいち)を数値的に解析している。

 このモデルを使うことで、一人ひとりの肌質やシミの状態に合わせて、最適なレーザーの波長やフルエンスを計算することが可能となる。つまり、効果的にシミを取り除きながら、合併症のリスクを最小限に抑えることができる。

 実際、この治療モデルを用いた結果、合併症の発生率が低く、高い有効性が確認された。既存の臨床データとも一致しており、モデルの有効性が示された。

 加えて下条氏はピコ秒レーザーの効果をさらに高め、より安全な治療を実現しようと目指している。

ピコ秒レーザーの臨床応用と最適な応用法を探究

第42回日本美容皮膚科学会総会・学術大会が開かれた名古屋国際会議場。(写真/編集部)

第42回日本美容皮膚科学会総会・学術大会が開かれた名古屋国際会議場。(写真/編集部)

  • ピコ秒レーザーの利点→ 高いピークパワーと短い照射時間で、周囲の肌へのダメージを最小限に抑え、刺青や薄いシミに効果的。
  • 肝斑治療への応用→ 低フルエンスのレーザーを用いることで、色素沈着のリスクを軽減し、複数の波長を組み合わせて総合的な美肌治療が可能。
  • ナノ秒レーザーとの比較→ ピコ秒レーザーが全てにおいて優れているわけではなく、シミのタイプや肌質に応じてナノ秒レーザーの方が効果的な場合もある。

 宮田氏は、メラニン色素性疾患に対するピコ秒レーザーの臨床応用について、理論的視点から考察した。

 これまで、シミやそばかすの治療には「Qスイッチナノ秒レーザー」が使われてきた。これは1980年代に理論化された方法で、メラニンに選択的に吸収される波長の光を、ナノ秒(10億分の1秒)の時間単位で照射して、メラニンを破壊する。一方、ピコ秒レーザーはより短いピコ秒(1兆分の1秒)で光を照射する。これにより、メラニン色素だけでなく、より小さな色素粒子(タトゥーのインクなど)も効果的に破壊できる。

※従来、メラニン色素性疾患の治療には、Qスイッチナノ秒発振レーザーが広く用いられてきた。1983年にR.Andersonが提唱した「選択的光熱融解理論」により、メラノソームに選択的に吸収されやすい波長で、パルス幅(照射時間)が熱緩和時間内であるため。つまり、照射時間を、熱が拡散する前に設定することで、メラノソームだけを効果的に破壊し、周囲の肌へのダメージを最小限に抑えることができる。しかし、最近では欧米で需要の高い刺青治療を中心にピコ秒発振レーザーが登場し、より優れた結果を得られている。熱緩和時間より遥かに短いピコ秒では熱作用はほとんど発生せず、急激に圧力が高まることで発生する強い衝撃波を用いた非熱的な機械的作用によって刺青色素の粒子を粉砕する。

 ピコ秒レーザーの大きな利点は、高いピークパワーと短い照射時間による周囲の肌へのダメージを最小限に抑えられる点だ。高いピークパワーによって薄いしみに効果的であり、また強い衝撃波が限られた範囲に作用するため、周囲へのダメージが少なく炎症後色素沈着のリスクが低い。メラノソームよりも粒子径が小さく密集している刺青の色素を効果的に破壊できる。

 宮田氏は、ピコ秒レーザーを肝斑の治療にも補助的に用いている。肝斑に対するレーザー治療は有効だが、他のシミと異なり、過剰なレーザーがかえって色素沈着を悪化させる可能性もあると知られ、低フルエンスのレーザーが使われることが多い。宮田氏によると、顔全体に対して複数の波長を組み合わせることで、総合的な美肌治療を行うことも可能となることを解説した。

 一方で、宮田氏は、「ピコ秒レーザーがすべての点で従来のナノ秒発振レーザーより優れているわけではない」と指摘。臨床における印象や統計学的な有意差だけでなく、理論を理解して臨床に生かすことで、ピコ秒レーザーの最適な活用法が見いだせると強調した。例えば、特定のタイプのシミや肌質によっては、ナノ秒レーザーの方が効果的な場合もあり得る。状態を正確に見極め、最適なレーザーと照射条件を選択することが大切だと述べた。

 ピコ秒レーザーは、美容医療に新たな可能性をもたらしているが、その活用法にはまだ研究の余地があるということだろう。レーザー治療はさまざまな医療機関で行われているが、講演で下条氏や宮田氏が示したような理論を熟知した施術者の治療を受けることで、よりよい治療効果が期待できる。

参考文献

「BONSAI」の美学で美容医療のプランニングを洗練、HIFUやレーザー治療も進化、古山登隆氏、宮田成章氏、河野太郎氏が登壇
https://biyouhifuko.com/news/japan/7749/

SUPERBやニードルRFなど最新機器も、機器を使ったたるみの治療、進化と使い分け、10代、20代前半のHIFU希望は困りの種、第112回日本美容外科学会(JSAS)で講演
https://biyouhifuko.com/news/japan/7619/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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