2024年10月25日、京都大学を中心とした研究グループが、エクソソームを用いた治療に関する規制整備の必要性を強調する研究結果を国際的な学術誌に発表した。
エクソソーム治療が美容目的に拡大
エクソソームは細胞から分泌される微小な粒子で、細胞間の情報伝達や組織の修復を促す性質を持つ。そのため、新たな治療法として、老化防止や組織再生などの分野で注目を集めている。
一方、日本国内ではエクソソーム治療が自由診療として広がっているが、科学的エビデンスや安全性の確立が不十分なまま提供されている現状がある。研究グループの研究報告によれば、2023年には669の医療機関がエクソソーム治療を提供しており、その多くがアンチエイジングや育毛、疲労回復を目的としている。
治療目的 | 件数 |
---|---|
アンチエイジング・美容 | 532件 |
育毛 | 358件 |
疲労回復 | 135件 |
研究によると、エクソソームを提供する医療機関の約73%(488件)がウェブサイト上で「再生医療」をキーワードとして使用している。
「エクソソームは細胞間の情報伝達を担う微小な粒子で、新しい治療法や診断法の開発可能性に注目が集まっています。しかし、これまでに厚生労働省が治療手段として承認したものはありません」(研究グループ)。
安全性や有効性を裏付ける十分なデータが不足している中で、深刻な事例も報告されており、2023年には投与された人の死亡や投与後のがんの悪化が見られたケースが報じられていると問題視している。しかし、明確な規制がないため、これらの有害事象に対する適切な追跡・評価体制が整っておらず、患者の安全確保が課題となっているとしている。
「このような事態を防ぐためには、患者さんを保護し、かつ研究の発展を妨げない規制の早急な整備が求められます。また、この問題は日本だけのものではありません」(研究グループ)。
日本ではガイドライン整備の見通し
日本においては、厚生労働省は24年7月にエクソソームの自由診療に関して「未承認」医療である点に注意を促す通知を発出し、同年6月に成立した再生医療等安全性確保法(安確法)の下での法的整備の議論が開始されている。日本再生医療学会が公表した「細胞外小胞等の臨床応用ガイダンス」も、エクソソーム治療に関する注意喚起を行っている。
現行の日本の法制度では、エクソソームは「細胞そのもの」ではないため規制の対象外とされており、医師の裁量で治療が提供可能な状態が続いている。しかし、医療機関の増加と有害事象の報告を受け、患者保護と研究開発を両立させるための迅速な規制整備が求められている。
国際的にもエクソソーム治療に対する規制強化の議論が進んでいる。例えば、オーストラリアでも美容目的のエクソソーム治療が行われているものの、臨床データの不足や治療の標準化といった課題が残されている。24年10月にはオーストラリア美容皮膚科学アカデミー(AACDS)が、製品の品質保証と効果検証の重要性を指摘した。
厚生労働省は2025年を目途にエクソソームに関するガイドラインを整備するとしており、日本再生医療学会もエクソソームの安全使用に向けた基準整備を進めている。
これらの動向を踏まえ、エクソソーム治療の有望性とリスク管理のバランスを考慮した規制は整備される見通し。美容医療の現場で実施されるエクソソーム治療も今後は規制に従う形で状況は変化していくものと予想される。