フィラー注入以後に遅れて発生する合併症には注意が必要だ。
2024年11月10日、東京都内で開催された「AMWC(Aesthetic and Anti-Aging Medicine World Congress) JAPAN 2024」で、オーストラリアで世界初の美容医療救命救急チームAMETを創設したブロンウィン・グラナタ(Bronwyn Granata)氏が講演した。
遅れて発生する合併症「DIR」「DON」「VO」に注意
グラナタ氏は講演の中で、遅発性の合併症に関連して英語の略語について繰り返し言及していた。
それらは、遅発性炎症反応(DIR)、遅発性結節(DON)、血管閉塞(VO)の3つだ。
DIR(Delayed Inflammatory Reaction)
DIRは、治療から遅れて発生する「遅発性炎症反応」を指す。主な症状は、腫れ、発赤、痛みで、免疫反応や感染が原因とされる。
DON(Delayed Onset Nodules)
DONは「遅発性結節」で、しこりの形で現れる合併症となる。原因として、腫れや赤みが継続的に起こる「慢性炎症」や、異物などに反応して組織が増える「肉芽腫」が考えられる。製剤の成分に体が反応して起こるとされる。
VO(Vascular Occlusion)
VOは血管閉塞で、血管がフィラーの製剤によって詰まることで、その部分の肌が白く抜けたように見えるのが特徴だ。血液の流れが遮られることで、組織に栄養や酸素が届かなくなるため、放置すると組織が死んでしまう「壊死」につながる可能性があり、早期にヒアルロン酸を溶かすなどの対応が求められる。目に血液を供給する血管が詰まった場合に失明につながる可能性があり特に注意が必要となる。また、脳の血管が詰まると脳卒中につながる可能性もある。
グラナタ氏は、フィラーによる遅発性合併症はヒアルロン酸のフィラーが多く、特定のブランドの製品で多いわけではないと解説した。また、顔面のどこの部位にも有害事象は起こり得ると注意を促した。
AMETが合併症に24時間対応
グラナタ氏のLinkedInによると、同氏は皮膚科分野の製薬企業ガルデルマなどを経て、21年にAMETを共同で創設している。「MET」というのは、救命救急チームのことで「medical emergency team」の略称となる。これは救急医療で一般的な用語で、AMETは美容医療版となる。
AMETによると、美容医療のトレーニングは製薬企業や医療機器企業に依存しているが、それらのトレーニングは短期間で実施されることが重視され、合併症の対処についての支援は不十分になっていると指摘する。結果として、美容医療の施術者は孤立しがちになるが、AMETではそうした課題を抱えた状況に対して十分な支援を受けられる環境を提供している。
AMETでは、美容医療の施術者を支援するために24時間体制で合併症への対応に当たっているほか、安全な注射技術のための情報提供なども行っている。
グラナタ氏は、「合併症が発生した場合だけでなく、予防に向けた取り組みも同じくらい重要だ」と説明しており、AMETが美容医療の安全性向上に貢献するとの役割を語った。日本でもフィラー注入の合併症は問題になることから、AMETのような仕組みがあれば望ましいのだろう。