皮下に注入してコラーゲンの生成を促すバイオスティミュレーターが人気を集めている。
「新しい施術であるため、有効性だけでなく安全性のデータも理解した上で施術を受けることが重要である。
ブラジルの研究グループは2024年9月、バイオスティミュレーターによる合併症が生じた55例について報告した。
顔面で高頻度に生じるしこり
論文では、「コラーゲンバイオスティミュレーター」と表現している。以下では、バイオスティミュレーターと呼ぶこととする。一般には、スキンブースターやコラーゲンブースターなどと呼ばれることもある。
バイオスティミュレーターとは、ポリ-L-乳酸(PLLA)、カルシウムハイドロキシアパタイト(CaHA)、ポリカプロラクトン(PCL)などを有効成分とする注入剤。さらに、ポリーD-乳酸(PDLA)、ポリーDLー乳酸(PDLLA)、ポリヌクレオチド(PN)、ポリデオキシリボヌクレオチド(PDRN)などの新しい製剤が登場している。組織内でコラーゲン生成を誘導し、皮下組織のボリュームアップや皮膚再生を促す。ヒアルロン酸のフィラーとも併せて使われる。
今回の論文では、ブラジルで使用されているPLLAとPCL、CaHA、CaHA+ヒアルロン酸についての合併症が報告されている。研究グループは、ブラジル全国から合併症を起こした55ケースを集めた。
合併症のうち最も多かったのはPLLA(商品名エレーヴァ、Elleva、49.1%)。PLLA(商品名スカルプトラ、Sculptra、20.0%)、CaHA(ラディエッセ=Radiesse、ダイアモンド=Diamond、18.2%)、PCL(商品名エランセ、Ellanse)によるものは7.3%だった。CaHA+ヒアルロン酸(商品名ハーモニーCA=HArmonyCA)は5.4%だった。

首に出現したPLLA(Elleva)によるしこりとその超音波の画像。(出典/J Cosmet Dermatol. 2024;23:2829-2835.)

側頭部に出現したPLLA(Sculptra)のしこりと誤った注入層の超音波の画像。(出典/J Cosmet Dermatol. 2024;23:2829-2835.)

CaHA(Radiesse)による首のしこりと特徴的な超音波の画像。(出典/J Cosmet Dermatol. 2024;23:2829-2835.)

側頭部中央に出現したPCL(Ellansé)のしこりと顆粒腫の可能性を示唆する超音波の画像。(出典/J Cosmet Dermatol. 2024;23:2829-2835.)
合併症の症状として最も多かったのはしこり(89.1%)で、次いで浮腫が16.4%、細菌感染が10.9%であった。部位は顔面が72.7%と最多だった。このほかは首21.8%、腹部7.3%。
さらに、発症は注入から1カ月以上経ってからの遅発性が60.0%を占めた。注入された製剤のほとんどは、適切な皮下層に注入されていた。このため、施術技術よりも製剤特性が合併症の要因である可能性が示された。
合併症に対する治療の効果は限定的
合併症の治療は、生理食塩水の注入(45.5%)、ヒアルロニダーゼ(25.5%)、希釈したステロイド注射(23.6%)などが行われた。完全に解消した症例は5件(9.1%)にとどまった。特に、CaHA+ヒアルロン酸製剤のハーモニーCAに対しては、ヒアルロニダーゼが有効だった。合併症の治療は多くの場合、うまくいかず、約3分の2が複数の治療を受けながらも十分な改善を得られなかった。
研究報告によると、リスク要因としては、バイオスティミュレーターの粒子サイズ、不適切な希釈、注入深度、動きの多い部位への投与などが挙げられた。
バイオスティミュレーターの治療は広がりを見せており、今回の報告に含まれていない製剤も多数登場している。ヒフコNEWSでは、オランダの研究についても伝えているが、バイオスティミュレーターによる合併症は一定の割合で発生していると報告されている。日本でも同様な施術は行われており、現在はあまり安全性の問題について報告が出ていないものの、水面下でトラブルが発生している可能性がある。日本における実態も早急に明らかにする必要があるだろう。安全性についての情報を蓄積した上で、施術に関するガイドラインの整備が求められている。