
若返りが可能?写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)
幹細胞の投与によってサルに若返りの変化が現れる──。
中国の研究グループが国際的に著名なCell(2025年9月4日号)で発表した。
サルに44週間投与、遺伝子の発現も若返り

遺伝子から若返り?写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 研究概要 → 高齢カニクイザルに対し、体重1kgあたり200万個の「老化耐性間葉系前駆細胞(SRC)」を週1回、計44週間静脈注射。FOXO3を活性化させた遺伝子改変細胞で、老化耐性を付与。
- 結果と若返り効果 → 脳、骨、生殖細胞など10部位・61組織で若返り変化を確認。老化細胞が減少し、遺伝子発現も若年側へシフト。海馬で42%、卵巣で45%など顕著な逆行変化が見られた。
- 安全性 → 投与後に組織障害や腫瘍形成は確認されず、安全性に問題は見られなかった。生物学的年齢も若返り傾向を示した。
研究グループは、人間の60~70歳に相当する高齢のカニクイザルに対し、体重1kgあたり200万個の幹細胞を1週間ごとに静脈注射し、計44週間にわたって投与した。
使用されたのは、人の幹細胞を遺伝子改変した「老化耐性細胞(senescence-resistant mesenchymal progenitor cells:SRC)」。
これは、老化防止に関与する「FOXO3」と呼ばれる分子を活性化させることで、老化に耐性を持つように設計された細胞だ。
従来の幹細胞移植では、体内への定着の難しさやがん化の懸念が課題とされていたが、今回の細胞はそうしたリスクを低減した設計になっているという。
研究の結果、カニクイザルの全身に若返りにつながる変化が複数確認された。
解析により、脳、骨、生殖細胞など、生理学的に10の部位、61の組織で若返りと見られる変化が認められた。
ミクロのレベルで見ると、老化細胞が減っており、遺伝子への影響としても、組織の半数超で若年側へシフトしていた。このほか、細胞1個を解析できる技術で調べたところ、手足などの血液で33%、脳の記憶をつかさどる海馬で42%、卵巣で45%に、老化関連の遺伝子発現が若年型に逆行するという変化が確認された。
生物学的年齢でも、若返りが観測された。
なお、研究チームによると、組織の障害や腫瘍形成は確認されず、安全性の問題は確認されなかった。
エクソソームが何に効いたかに注目

エクソソームの機能とは?写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 若返りの主因 → 幹細胞が分泌する「エクソソーム」に注目。慢性炎症を抑制し、ゲノムやエピゲノムを安定化させる作用が確認された。
- FOXO3の役割 → 科学誌『Cell Death & Disease』によると、FOXO3の活性化が炎症抑制やゲノム安定性の向上など複数の老化防止効果をもたらすと報告。
- 国際的動向 → 米国では「XPRIZE Healthspan(エクスプライズ・ヘルススパン)」が進行中で、日本の研究者も参戦。老化予防・若返り技術の競争が世界的に加速している。
研究チームは、若返り効果の主因として、幹細胞が分泌する「エクソソーム」の働きに注目している。
エクソソームは、細胞間で情報伝達を行う微小なカプセル状の物質で、今回の研究では、慢性炎症を抑制し、ゲノムおよびエピゲノム(遺伝子発現の調節)を安定化させる作用が確認されたという。
これに関連して、科学誌Nature系の科学誌、「Cell Death & Disease」では、FOXO3の活性化によって、炎症の抑制やゲノム安定性の向上など、複数の老化防止効果が得られたと解説している。今後は、エクソソームがどのような組織に、どのような効果を与えたのか、その詳細なメカニズムの解明が期待されている。
若返りや老化抑制をめぐる研究は加速している。米国では、老化速度を競う「XPRIZE Healthspan(エクスプライズ・ヘルススパン)」という国際的競技会が進行中であり、日本からも研究者らが参戦している。
今回、実際にサルで若返り効果が確認されたことで、幹細胞を用いたアンチエイジング技術の実用化に向けた大きな一歩となる可能性がある。
今後、これまでにない新たな老化予防・若返り技術の登場が想定される。
