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あご下の脂肪吸引のリスク、死亡事故にもつながる「血腫」なぜ窒息を起こすのか?ブラジルの医師らの報告

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 美容施術の一つとして脂肪吸引は世界で最も実施件数が多い手術だが、その中の一つとしてフェイスラインの改善を目的としてあご下の脂肪吸引が行われることがある。

 2023年4月、日本国内で、あご下の脂肪吸引を受けた男性が、施術後に亡くなる事故が起こった。この事故は24年2月に大阪府警が対応した医師を書類送検したことから大きく報道されて注目された。

 この事故で公開された情報は限られているが、2022年にブラジルの研究グループが同様なあご下の脂肪吸引後の合併症を詳しく報告している。美容医療のリスクを考える上で参考にしていいだろう。

皮膚の下のたまった血液による窒息リスク

脂肪吸引は世界で最も実施件数が多い美容整形手術とされる。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

脂肪吸引は世界で最も実施件数が多い美容整形手術とされる。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

  • 2022年の美容整形手術→脂肪吸引が最も多く、年間約230万件が実施された。
  • 脂肪吸引の目的→あご下、首の前の余分な脂肪を除去し、顔の輪郭を引き締める。二重あごやあごの丸み解消を目指す。
  • 手術方法→あご下を1~2cm切開し、吸引管を挿入して脂肪を吸引。
  • 合併症のリスク→皮膚の腫れや内出血が一般的。血圧の上昇による出血リスクや、血腫による気道圧迫も。
  • 大阪の死亡事故→脂肪吸引後の出血で気道が詰まり、窒息が原因。
  • その他の合併症→皮膚のへこみ、浮腫、残る傷跡、顔面神経麻痺などが報告。

 国際美容外科学会(ISAPS)の集計によると、22年に美容整形手術の中で、世界で最も多く行われたのは脂肪吸引だった。年間約230万件の手術が行われていると推定されている。

 合併症について報告したブラジルの医師らの説明によると、あご下の脂肪吸引はフェイスリフト効果を目指す手術の一つで、「広頸筋(プラスティマ筋)」と呼ばれる首の表面近くにある薄い筋肉の層の下の、あご下、首の前にある余分な脂肪を除くものとなる。これにより顔の輪郭を引き締める。二重あごやあごの丸みを解消したいと考える人のニーズに応える施術といえる。

 手術では、計画に従って、麻酔をした上で、あごの下を1~2cm切開。ここから吸引のための管を挿入して脂肪を吸引する。

 しかし、この手術に伴う合併症が問題になることもある。最も一般的な合併症は皮膚全体の腫れや内出血。ブラジルの医師らによれば、手術の前後、手術中の血圧が上昇することで、出血が起きやすくなるという。また手術前の不安が強いときには血圧が上がりやすく、内出血のリスクが高まるともいう。

 内出血がひどくなると、皮膚の下に血がたまった状態である「血腫」になる。血腫が大きくなると気道を圧迫するまでに悪化して窒息を引き起こすこともある。死亡事故に至るのは、気道が押されて空気の通り道がなくなってしまうためといえるだろう。

 大阪で起きた死亡事故は脂肪吸引後の出血により気道が詰まり窒息を引き起こしたとされている。ブラジルの医師らが説明する血腫で問題になる気道を塞ぐ事態に陥った可能性がある。

 このほかの合併症としては、あご下の皮膚のへこみ、あご下がむくむ「浮腫」、傷跡が消えずに残る見た目の問題、顔面神経麻痺のような神経障害などが報告されている。

手術の24時間後に病院の救急受診

あご下の脂肪吸引の後に血腫が発生。(出典/Med Oral Patol Oral Cir Bucal. 2022 May; 27(3): e257–e264.)

あご下の脂肪吸引の後に血腫が発生。(出典/Med Oral Patol Oral Cir Bucal. 2022 May; 27(3): e257–e264.)

 ブラジルの研究グループは、あご下の脂肪吸引後に、注意すべき合併症である血腫が発生した36歳女性の写真を公開している。

 公開された写真を見ると、首の下に内出血があり、大きく腫れているのが分かる。脂肪吸引を受けてから24時間後、首の下の腫れのために病院の救急を受診している。血圧が上昇し、飲み込みにくくなり、声も出にくい状況になっていた。

CT検査の写真。矢印が示している白い部分は血液がたまったところ。(出典/Med Oral Patol Oral Cir Bucal. 2022 May; 27(3): e257–e264.)

CT検査の写真。矢印が示している白い部分は血液がたまったところ。(出典/Med Oral Patol Oral Cir Bucal. 2022 May; 27(3): e257–e264.)

 顔と首のCT検査では、首の内部には白く塗りつぶされたような部分が映し出されていた。これは血液がたまった部分となる。推定される血液の量は約100mL。この量は小さめのコップ1杯ほどだろう。軽い貧血にもなっていた。

 この女性の場合には、麻酔後に血腫から血液を抜き取り、抗生物質などの注射を行い、赤みを取り除く薬の投与を続けて、20日後には血腫は消えて改善するに至った。2年間病院に通う間に幸い後遺症は残らなかった。

回復に至った2カ月後の写真。(出典/Med Oral Patol Oral Cir Bucal. 2022 May; 27(3): e257–e264.)

回復に至った2カ月後の写真。(出典/Med Oral Patol Oral Cir Bucal. 2022 回復に至った2カ月後の写真。(出典/Med Oral Patol Oral Cir Bucal. 2022 May; 27(3): e257–e264.)May; 27(3): e257–e264.)

 ブラジルの医師らによると、手術を担当する医師にとってあご下の脂肪吸引を行うときに注意しなければならない点としては、首の筋肉や脂肪の状態、血管や神経といった解剖学的な状態を理解すること。さらに、出血のしやすさにつながる高血圧や心理的な状態に気を付けること。持病やBMIによって合併症のリスクも変わり、感染症の可能性もあることを理解すること。

 手術を検討するときには医療施設や施術を担当する医師を慎重に選ぶことが重要になる。

参考文献

Diniz DA, Gonçalves KK, Silva CC, Araújo ES, Carneiro SC, Lago CA, Vasconcelos BC. Complications associated with submental liposuction: a scoping review. Med Oral Patol Oral Cir Bucal. 2022 May 1;27(3):e257-e264. doi: 10.4317/medoral.25122. PMID: 35420070; PMCID: PMC9054168.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9054168/

大阪市内美容クリニック施術で都内在住医師を書類送検、脂肪吸引による死亡事故、大阪府警
https://biyouhifuko.com/news/japan/5753/

2022年、美容医療の世界ランキング公開、第3位はまぶたの手術、第2位は豊胸術、前年に続く第1位とは?国際美容外科学会(ISAPS)調査
https://biyouhifuko.com/news/world/3331/

Collins PS, Moyer KE. Evidence-Based Practice in Liposuction. Ann Plast Surg. 2018 Jun;80(6S Suppl 6):S403-S405. doi: 10.1097/SAP.0000000000001325. PMID: 29369106.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29369106/

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ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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